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幼い頃の思い出

作者: 夢の中

 ホラー企画に応募するために書きました。

書いているうちにホラーなのかわからなくなってきました。


 幼い頃住んでいた田舎には、時代に取り残されたように水車を回して粉を挽くおじいさんがいた。たけ爺と呼ばれていた。川辺にある粉挽き小屋の横には、大きな屋敷があってたけ爺が一人で住んでいた。裕福な暮らしをしていたが、無愛想で子供嫌い。近所付き合いもあまりしていなかった。粉挽きだけでそんなに儲かるものかと不思議だった。

 川を挟んで反対にある山を登ると少し開けた場所にでる。そこには炭焼きのおじいさんがいた。熊爺とよばれていた。たけ爺とは違って、人のいい笑顔で子供にもおやつなんかをくれるおじいさん。粗末な小屋に住んでいたが、小学生に人気で、僕たちは毎日のように熊爺のいる山で遊んでいた。

 

 ある日のこと、カブトムシ相撲に負けた僕は、上級生のゴリラのような男の子にカブトムシの頭をもがれてしまった。あまりのショックに、みんなが帰ったあとも頭だけを両手の上に乗せ呆然と立ち尽くしていた。日は落ちて顔もよく見えない夜の入り。そこへ熊爺がやってきた。これはワシが埋葬しておくからもう帰りなさいと僕の手の上のカブトムシを両手で丁寧に受け取った。その表情は見えなかった。


 その日、夢を見た。

熊爺が人の頭を抱えている。頭には皮膚も髪もある。それを大事そうに両手で持っている。熊爺は頭を炭焼きのかまどへいれ、かまどの横にある、木でできた手作りの椅子にただ黙って座っていた。しばらく経ってかまどを開けて頭を取り出した。頭は骨だけになっていた。熊爺はそれを両手に乗せて、川を渡った。ガララと粉挽き小屋の扉を開けて、それをたけ爺に手渡す。乱暴に骨を受け取ったたけ爺はじっと熊爺をみた。熊爺はポケットから小さい麻袋をだして渡した。そんな夢だった。


 また違う日、僕達は山でかくれんぼをしていた。数人の仲間の中には、一人生意気な男の子がいる。僕のことが気に入らないのか、体育の時にコケたことや、図工で描いた下手な絵をいつまでも馬鹿にしてきた。最初は曖昧に笑っていた僕も言われ過ぎて嫌になってしまった。 

 鬼になったその子はパッとみんな見つけてしまった。きっと隠れるところをこっそりみたのだろう。それぐらい早かった。隠れる側になると、やたら僕の後をついてくる。見つかるから違うところへ行ってと押しやったってニヤニヤとついて来る。それどころか、そんなに大きな声を出すと見つかっちゃうよと笑っている。遠くから聞こえる数字を数える声に、じんわり責め立てられる。

 結局、かくれんぼはその子の一人勝ちだった。夕方になっても一人だけ見つからなかったのだ。もういいよと仲間で叫んだって出てこない。もう帰るよと言っても無駄だった。流石に焦って大人を呼んできたが、見つからなかった。もっと山の奥かもしれない、と山深く入っていく大人達。子供は家へと帰された。熊爺は立ち尽くしている僕の肩に手を置いて、ワシに任せてもう帰りなさいと言った。黄昏時の暗さに混ざって、その顔は見えなかった。


 その日、夢をみた。

かまどの横で熊爺が座っている。ただじっと、動かないことがルールのように座って待っている。しばらくして、立ち上がると小屋から大きな麻袋を持ってきた。まだ熱いかまどから何かを拾ってはカランカランと麻袋に詰めた。袋に詰め終わると、空気を抜いて適当な紐で口を縛った。熊爺は袋を大事そうに両手で抱えて川を渡っていく。ガララと音を立てて粉挽き小屋のドアを開けた。

 熊爺が袋を手渡すと、たけ爺は熊爺の顔をじっと見つめた。そんなたけ爺に、熊爺はポケットから出した小さな麻袋を渡した。そんな夢だった。


 友達はその後、見つからなかった。

 かくれんぼをした次の日、お母さんは粉挽き小屋の小麦粉を買ってきて僕の大好きなホットケーキを作ってくれた。友達が見つからずに塞いでいる僕を励まそうとしたのだろう。僕はそのホットケーキを食べられなかった。代わりに、美味しいと食べている妹をみて、こんなものかと思った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 黄昏、逢魔が時。昼の明かりが残り、夜が忍び寄る。 そんな、あいまいな時が危ない。人もそう、車の運転もそんな感じがします。 夜なら夜の対応、心構えをしますからね。 黄昏味の小説かな?。
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