OLサツキ、大分困る
アールは馬鹿だが、魔力がない訳ではない。初級レベルならば、指示さえもらえば唱えて実行が出来るらしい。
「おーい、ウルスラ、リアム……あれー?」
アールが、繭型のベッドが向かい合わせにされている合わせ目の部分に頭を突っ込んで来て、ウルスラの方のベッドを見、次いでサツキの方のベッドを見る。
目が合った。アールの口が、ぱかっと阿呆の様に開いた。様に、じゃない、阿呆だった。
「アール、何してんの?」
外からユラが声を掛けてきた。二人は拙い、こいつらは二人集まると馬鹿さ加減が跳ね上がる。
すると、アールがまさかの咄嗟の機転を利かせた。
「ゆっユラ! ウルスラの服がはだけてるからっお前は見たくないだろ?」
そして口に人差し指を当て、静かにのポーズをしてみせた。なんとユラから守ってくれるらしい。案外まともなのだろうか?
「ゴリラ女の肌なんか見た日にゃあはっ倒されるからなー。分かった、何か朝ごはん取ってくる」
「おう、俺のスライム一匹連れてくと、昨日の果物採れた場所を教えてくれるぞ」
「おう、了解」
アールがキョロキョロとユラが立ち去ったのを確認すると、サツキを手招きした。サツキは狭いベッドの中を這う様にしてアールの元に向かった。ウルスラはまだ寝ている。全く。
アールの前まで辿り着くと、座ったままペコリと頭を下げた。
「あの、アール、助けてくれたんだよね? ありがとう」
アールの瞳はキラキラと輝いていた。どれだけ女に飢えてるんだろうか。
「へへ、どう致しまして」
満面の笑みを浮かべるアールは、顔面だけは最高だ。テレビの中のアイドルを間近で見ている様な、不思議な感覚だった。
「ユラはさ、女の子を見ると遠慮ないから、気を付けて」
「あ、うん、そうする」
お礼は言った。もうリアムの姿に戻ろう、そう思って杖を掲げると。
「待って」
アールが手首を掴んだ。物凄い力だ。ポロリと杖が手から落ちた。
「い、痛いよ」
「待ってよ、まだその姿でいてよ」
アールの顔は真剣そのものだった。
「ずっと見ていたいんだ」
好きな相手に言われたら飛び上がる程嬉しい台詞だろうが、サツキにとっては男は警戒する対象だ。自然、表情が歪む。
「そ、そんな顔しなくったって……」
アールの顔には、思い切り「傷ついた」と書いてあった。
「離して」
か細い声しか出なかった。リアムの時は平気なのに、この姿だとやはり男が怖い。
サツキの声があまりにも弱々しかったからだろう、アールが手を離すと、なんと謝ってきた。
「ごめん、怖がらせるつもりじゃなかったんだ。リアムのことがただ気になって……怒ってる?」
うるうるした瞳で覗き込む様にして言われると、こちらが悪者みたいじゃないか。
「許してあげるから、出て行って」
「わ、分かった……」
しょんぼりと項垂れる姿は捨てられた子犬の様で憐れみを誘ったが、甘やかす訳にはいかなかった。
アールが出て行ったのを確認すると、サツキはイルミナの魔法を解いた。
次回はリアムバージョン。




