魔術師リアムのアルティメット編のヒールライト
「祐介っ!!」
リアムは祐介の頬をペチペチと叩いたが、祐介は粗い息をするだけで動かない。
「起きろ! ああっ今ヒールライトを!」
リアムは焦っていた。祐介がいなくなるなど、考えたこともなかった。この傷は、この出血量は、放っておくと拙い。
「触るぞ!」
患部に直接触れると、ヒールライトの効力は上がる。リアムが祐介の血が止まらない腹に触れるが、祐介は反応を示さなかった。
「ああ! 祐介、頼む、死なないでくれ……!!」
今使えるヒールライトは、あと三回。
何も迷う必要は、なかった。
リアムは溢れる涙も拭わぬまま、少し開いた祐介の口に自分の口を重ね、言った。
「ヒールライト!!」
緑色の粒子が辺りに浮き出すと、祐介に触れている部分から祐介へと染み込んでいく。こんな時だというのに、自分から触れた祐介の唇の柔らかさにリアムは溶けそうになり、混乱した。
「ゆ、祐介!?」
また祐介の頬を叩くが、息はちゃんとしているものの、やはり目は開かない。もう一回だ! リアムは集中すると、もう一度祐介にキスをしつつヒールライトを唱える。効果の一滴も漏らさない様に、長く。
祐介の口の隙間から漏れ出る息は熱く、それが祐介の命が抜けていってしまっている様に思え、リアムは恐怖を覚えた。
ふに、と唇を離すと、少し祐介の息が落ち着いてきた様に思える。リアムは祐介の腹の傷口を見た。先程までダラダラと出ていた血は、止まっていた。
使える魔法は、あと一回。これが最後だ。その後は、とにかく人を呼んで病院に何とか運び込むしかない。
リアムは祐介の開かない目を見つめた。涙が止まらない。声が震えて、情けない程にどうしようもない。
「祐介……」
リアムは、祐介の頬を優しく撫でた。言うまい言うまいと思っていた言葉が、自然に飛び出す。
「祐介、好きだ」
リアムはしゃくり上げる。
「お前のことが、好きなんだ。だからお願いだ、頼むから死なないでくれ、私を置いていかないでくれ……!」
リアムはそう言いながら祐介に顔を近付けると、三度目の口づけと共に全力のヒールライトを唱えた。
ぐんぐん癒やしの力が祐介の身体に流れ込んで行くのが分かる。そして、暫く待ち――流れが止まった。
リアムは口を離すと、祐介の顔を上から覗き込む。
「祐介……目を、目を覚ましてくれ……」
ぐず、と鼻を啜る。すると突然、リアムは思い切り頭を掴まれ、倒れかかった勢いでまた祐介の口に触れた。はあ、と祐介の息が漏れるのが分かった。リアムが驚いて目を見開くと、薄っすらと祐介の目が開いたではないか。
「ゆ……むぐ!」
起き上がろうとしたリアムの頭をがっしりと抱えた祐介の舌が入り込んできた。こやつ、こんな大変な時に一体何をしておるのだ! リアムは混乱した。
暫くの間、祐介はリアムの唇を奪い続け、リアムの腰が砕けそうになる寸前でようやく口を離してくれた。
「ゆ、祐介? 痛みは」
帰ってきた返事は、全く予想だにしないものだった。リアムを腕に抱いたままの祐介が言った言葉、それは。
「リアム、リアム、リアム……!」
「――へ!?」
リアムが驚いて顔を上げようとすると、また捕まって深いキスをされた。これは一体、どういうことだ!? 今、祐介はリアムと言わなかったか!? リアムは更に混乱した。
ぷは、と口を離した祐介が、幸せそうな笑顔を浮かべた。
「僕のこと、好きだって言ったよね? リアム」
「いっ言ったがしかしっ」
「嬉しい、ずっと待ってたんだ。名前だって本当は呼びたくて呼びたくて……!」
「……え?」
今度こそ本当に意味が分からなくなったリアムが祐介を驚愕の表情で見つめると、祐介の形のいい口がゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
次回はサツキバージョン。




