OLサツキのアルティメット編のマグノリア邸・ソウル・アイズ
サツキがテーブルにグラスを置くのを見たユラは、横向きに並んでいた身体を少しずらし、サツキと正面から向き合った。
ユラの表情は真剣そのもので、ああ、いよいよユラの話が始まるのだとサツキは少し身構えた。一体何故ここまで秘匿にしておかねばならなかったのか、そこには深い理由があるに違いないと思った。その謎がいよいよ解けるのだ。
「あー、俺の追加能力だけど」
「うん」
ユラがひと息挟んだ後、告げた。
「ソウル・アイズっていう種類の能力なんだそうだ」
「ソウル・アイズ?」
どうしてこの世界の言葉が英語風に聞こえるのか疑問ではあったが、勝手にそれっぽいものに変換されているのかもな、とその言葉を聞いて思った。だが今はそれよりもその意味だ。
「それってどういうものなの?」
ユラはじっとサツキの目を見つめながら、囁く様に言った。
「見ているものの精神の姿が見えるんだそうだ」
「精神の姿……?」
サツキは思い出していた。中級ダンジョンのルーンのダンジョンで、ユラがよく目を擦っていたことを。
「よく目を擦ってたよね?」
「そう。始めの頃はどうしても慣れなくてな」
「慣れる? え? 普段、どういう風に見えてるの?」
「ぶれて見える」
サツキはその言葉の意味を想像してみた。ぶれる、ぶれる。確かに物凄く見にくそうだ。輪郭が二重に見えてたりするんだろうか。
そこで、ユラがどういう時によく目を擦っていたかを思い返してみる。あれは確か。
「――ああ! 私がリアムの身体の時!」
サツキがそう言うと、ユラが大きく頷いてみせた。
「そう、サツキがリアムの時のブレ幅が一番きつかった」
「そう、だったんだ……」
つまり、ユラには常にサツキ本来の女の姿が見えていたことになる。それは見ている側としては確かに辛いだろう。
でも、それで納得した。ユラはサツキをはっきりと女だと言っていた。目に見えるものしか信じないというユラが男の身体に入っているサツキのことを女だということに違和感を覚えていたが、そういうことだったのだ。
ユラには、サツキがずっと見えていたのだ。
ユラが続ける。
「サツキが元の世界のことを考えたりすると、リアムの姿が濃くなったんだ」
「私の存在が薄くなったってこと?」
ユラは真面目な表情で頷く。そうか、そういうことだったのだ。目の前にいる人の精神の姿が薄くなるのが見えたら、そりゃあ同じパーティーのメンバーとしては不安にもなるだろう。
「ウルスラと喧嘩した時は? あれはどういうこと?」
ルーンのダンジョンでウルスラと言い争いになり、結果サツキを使いまくって前衛でバンバン戦ったあの時。一体何故ユラがあそこまで怒ったのか、誰もその理由が分からなかった。
あれも、このソウル・アイズという追加能力に関係があるんじゃないか。
「あれは、ウルスラが俺を心底馬鹿にしてたのが見えたんだよ。須藤さんがいれば俺なんて用なしだとか言ってただろ?」
「何か言ってたね」
「あの時さ、普段だったら冗談だって流せたけど」
本当に流せただろうか。サツキは疑問に思ったが、そこには触れないことにした。触らぬ神に祟りなし、くわばらくわばら。
「俺のこの能力さ、厄介なことにそいつらの心の表情もしっかりと見えるんだよ」
「心の声が聞こえたりするの?」
「いや、それはない。ただ見えるだけだ。でもあの時、ウルスラは一緒にドラゴンを倒した仲間の俺を見て、本気で要らないと思っている顔を見せた」
ユラが目線を下に傾けて、胸の上に垂れ下がるサツキの黒髪をくるくる、と指に巻いた。
次回はリアムバージョン。




