OLサツキのアルティメット編・フレイのダンジョンの隠された通路の穴の中の続き
サツキは今度はしっかりとアールを見て、言った。
「ユラが私に勇気をくれたの。ウルスラとアールが、私に仲間の良さを教えてくれたの。だから私は変われたんだよ」
怖くないといえば嘘になる。やっぱり相手によく思われてなかったと分かったりするのは、どうしたって怖い。だけど、ユラの気分屋だけど優しくて頼もしいと思ったら泣いたりしちゃうところや、ウルスラの逞しいのにアールのことになると途端に乙女になってうじうじしちゃうところや、アールの皆に基本馬鹿だと思われてるのにいつもにこにこしてるのに時折凄い鋭いところを見せたりかと思ったら凹んで暫く沈んだままになっちゃうところを見て、皆サツキと一緒なんだと思った。
皆、強いところもあれば弱いところもある。元の世界でサツキが見ていたのは、その人達の『見せたい』と思う表の部分だけだったのだと思う。何故なら、サツキは人の裏面を知ろうと思わなかったし、そんなものがあるとすら思っていない程、人との関わりを避けてきていたから。
パーティーの皆は、皆自分に正直だ。笑ったり怒ったり、喜怒哀楽がはっきりしていて、誰もサツキみたいに偽物の笑顔でガードしている人なんていなかった。だから、ユラが背中を押してくれて、サツキも一歩踏み出せた。自分の弱いところも見せていいんだと。見せても誰もサツキを軽蔑しない、嫌ったりなんかしないと思えるだけの自信をサツキに付けさせて。
すると、アールがにかっと笑顔になって言った。
「何だ、サツキもちゃんと好きなんじゃないか」
「え? ちゃんとって何?」
「ユラのこと、好きなんだろ?」
アールの顔には、優しさしか感じ取れなかった。
「好き……だよ」
ああ、言ってしまった。何でこの恋心を初めて話す相手が恋敵なんだろう。アールはサツキの戸惑いを知ってか知らずか、諭すように続けた。
「もうちょっとはっきり態度に示してやればいいのに」
「え? ちょっと待って、今何の話になってるの?」
「ユラが好きならちゃんと態度に示せばいいのにって話だよ」
まあ確かに、アールのウルスラに対する態度は非常にはっきりしていて分かり易い。でもいくらサツキにどれだけ自信が付いたって、さすがにここまで露骨なのは性格的に無理そうだ。
「いやあ……人を好きになったのも初めてで、その、変なことして嫌われたくないというか」
「それでその間に他の奴にかっさらわれるのか? 俺は嫌だぞそんなの。ウルスラは免疫が少ないからな、多分リアムみたいな知的なイケメンが現れたら、ふらっとそっちに行っちまう。そうなる前に、しっかり掴まえておかないと」
かっさらわれる。ユラは見目も物凄くいいし、まあお金には困っているけど見た目と違って結構生真面目でしっかり者だし、博識だし、優しいし、気分屋だけど何だかんだで他の人が困ってると放っておけないし、そんなユラを好きになってしまう女性は、それこそ星の数程いるに違いない。
「……でも、他の女の人より自分が優れてるところなんてあるか分からないし、それに、私は中途半端な存在だから」
だから最後の一歩、勇気が出ないのだ。
次回はリアムバージョン。




