魔術師リアムのアルティメット編・病院初日、待ち合わせ場所へ
祐介宅で軽く昼飯を済ませると、リアムと祐介は外に出た。
「実はさ、さっき佐川から連絡が来てたんだけど、羽田さんどうやら昨日は酔いつぶれちゃって、橋本さんに連れられてビジネスホテルに泊まったらしいよ」
ビジネスホテルって働く人用の安い宿のことね、と教えてくれた。
「で、今朝もきっちり家まで送られたらしいから、ここに来て大騒ぎする様なことは今日はないと思うって」
祐介はそう言いながら、自然にリアムの手を握った。羽田のことがあろうがなかろうが繋ぐということだ。リアムも異論はない。
「ねえサツキちゃん、この件が全部片付いたらさ、海に遊びに行こうよ」
「海? 近くにあるのか?」
リアムはまだイマイチ地理がよく分かっていない。
「凄い近い訳じゃないけど、電車で片道二時間弱とかかな? またこの前みたいな宿を取ってさ、一泊しようよ」
「それはいいが、海とは一体何をするものなのだ?」
リアムが尋ねると、祐介があれ? という顔になった。
「もしかして、元の世界には海はなかった? 湖よりももっともっと大きくて、波が打ってて水はしょっぱいんだけど」
「海という概念は知っているが、見たことはない」
リアムがいた大陸の遥か彼方にあると話には聞いたことはあったが、実際お目にかかったことはない。だが、海産物は魔法陣で新鮮なものが届けられていたので、どういった物があるかは何となく分かっていた。
「で、海では何をするのだ?」
「水着を着て泳ぐんだよ」
「……私は泳げん」
「え、そうなの?」
「これまで必要としなかった技術だ」
「益々連れて行きたくなった」
「何故そこまで拘る」
「美味しい海産物あるよ」
「行く」
リアムは即答した。すると祐介がにこにこしながら釘を刺してきた。
「ねえ、二人で行くからね?」
「ん? ああ」
「間違っても他の人を誘ったりしないでね。サツキちゃん、勢いで色んな人を誘いそうだけど、僕は二人がいいからね?」
祐介の笑顔が怖い。リアムはこくこくと頷いた。するとようやく祐介の笑顔が本物の笑顔になった。
「これからさ、ずっと一緒に色んな所に行って色んな物を食べようね」
子供みたいな笑顔でそう言うものだから、リアムは可笑しくなってしまった。
「それはいいが、どうしたのだ急に」
「いやさ、昨日僕の子供の頃の話したでしょ?」
「ああ」
「考えてみたら、僕子供の時は郁姉の舎弟だったし、大人になってから心許せる人なんて傍にいなかったから、サツキちゃんがこうして一緒に色んなことを体験してくれると、僕も実はそれが初体験っていうか」
それは意外だ。祐介のことだから、友人らとわいわい遊んでいたかと思っていたのだが。
「実は温泉も、誰かと二人で泊まるのは初めてだったんだよね」
「そうなのか? 宿の予約などは手慣れている風だったが」
祐介はあはは、と笑った。二人は改札を通ると、階段を降りていきホームへと向かう。
「そりゃ大学の時とかはサークル……ええと、同好会の友人達と行ったりはあったけど、別に団体だったし、それに正直そこまで楽しくなかったっていうか」
「何でだ? 楽しそうなのに」
すると、祐介が言いにくそうに呟いた。
「何か皆ギラギラしてたから……」
成程、こうやって落ち着いて会話などが出来る仲間ではなかったらしい。何だか哀れになってきた。
「だから今は、毎日が楽しい」
祐介が、照れくさそうに笑ってそう言った。
次回はサツキバージョン。




