魔術師リアム、問い質す
明らかな怒気を発する祐介に頭を抱き寄せられながら家の前に到着したリアムは、ようやく拘束から解放された。
「早く入ろう、あいつがついてきてるかもしれない」
辺りの気配を窺いながら、祐介が急かす。リアムはハンドバッグから急ぎ鍵を取り出し、鍵を開けた。ふと、自宅の門番、ドラゴニアのことを思い出す。長期に渡り不在にすると、見間違えるのか放って置かれたのを怒っているのか、手を軽く焼かれることがあった。排泄を我慢している時などは、よく喧嘩になったものだ。懐かしい。
あいつとももう会うことはないのだろうか。少しそれが寂しかった。
「早く入って」
「分かっている、そう急かすな」
祐介に半ば押される様な形で家の中に入る。まとめられたゴミ袋は、明後日がゴミ収集の日だという。なんでも魔法で燃やしてしまうあの地域には回収などという親切な仕組みはないが、魔力がない者には有り難いに違いない。
祐介が鍵を内側から閉めた。扉に設けられた覗き穴から、外の様子を窺っている。チ、と舌打ちするのが聞こえた。
「やっぱりついてきてるな……うぜえ」
「祐介? どうした? 何か雰囲気が違うぞ」
何というか、荒々しい。これまでのにこやかな祐介は別人だったのではないかと思える豹変ぶりだ。すると、リアムの不審げな表情を見て察したのだろう、祐介が肩の力をふっと抜き、これまでと同じ、あのふんわりした笑顔をようやく見せた。
「ごめん、説明もなしに。混乱したよね」
混乱はしていない。ただ訳が分からなかったので観察していただけだ。状況把握にまず必要なのは、冷静な観察力である。決して感情に流されてはならない。その点、祐介はまだまだ未熟と言えよう。
「よく状況が分からなかったが、祐介は職場の人間と人間関係が上手くいっていないのか?」
「……うっわーあの会話聞いてそういう発想する?」
「言いたいことがあるならはっきり言うと、人間関係もうまくいくかもしれんぞ」
「譲らないのね、そこ」
ふ、と祐介が笑うと、スニーカーなる紐が付いた靴を脱ぎ、ポン、とリアムの頭の上に手を置いた。リアムはそれを退かす。
「私の頭は手の置き場ではないぞ」
「分かってるよそんなの」
部屋の中へと一緒に入り、ベッドに座る様に言われた。祐介は廊下にある炊事場の上の棚を開いて見ている。
「お茶とかコーヒーとかあるのかなあ」
「お茶っ葉らしきものは冷蔵庫にあった筈だが」
「お、いいね。サツキちゃん、飲む?」
「いただこう」
なかなかに気の利く男だ。甲斐甲斐しくお茶の用意をする祐介に向かって、リアムは問い質すことにした。
「して、あの状況は一体何だったのだ? 一からきちんと説明してくれ。このまま誤魔化す様なことをされたら、私も困りそうだしな」
「……うん。お茶飲んだらね。結構言いにくいことだから」
言いにくいこと、とはどんなことだろうか。リアムは大人しくお茶が来るのを待つことにしたのだった。
次回はサツキバージョンです。




