OLサツキの中級編三日目のユラ参上
恐ろしい可能性に慄いたサツキだったが、だが幸いにリアムは若くない。よくそういうのは若い頃が多いと聞くから、きっと滅多にやって来ない。やって来る頃には、もしかしたらサツキももうこの身体に慣れ切っているかもしれないし。
そこまで考え、サツキは得意技を繰り出した。とりあえず問題を横に置いたのである。今はまだその時じゃない。だったら忘れよう、そうしよう。
改めて『これであなたも変幻自在! 目指せ変化マスター!』を読み進める。これまではただの自伝的な内容だと思っていたので特に気付かなかったが、ユラの言う通りマグノリアのこの呪文に対する考察と実験結果として読み進めると、全然違った風に読めることに気が付いた。そもそもの心構えが違ったのだ。
弟子を取ったことで、これまで出来なかった実験に及ぶことになったとある。ここでいう弟子とはリアムのことだろう。幼いながらも才気溢れる逸材とか書いてあって、リアムが如何に師匠に大切にされていたのかが読み取れた。
そして実験の時。マグノリアがメタモラで犬の姿になると、突然壁に向かって足を上げておしっこをしてしまったらしい。実験に夢中になり過ぎて尿意を抑え込んでいたことが原因であろうとの考察があったが、この人阿呆じゃなかろうか。それを見た弟子が大慌てでマグノリアにメタモラを唱えさせた、とある。
咄嗟に思いついたのが弟子本人の名前だった為、その後の二十四時間は弟子が二人。弟子と共に魔術書の書店に行った際、店主に離れた場所にいる弟子と自分の姿を交互に見せたところ、連続の瞬間移動の魔術を発見したのかと問い詰められ大変だったとある。その後、弟子に暫く実験を禁止されたと書いてあるのが思いがけず笑いを誘った。この人、まるで子供みたいだ。
「ぶくっくくくっ」
「どこの部分が面白かったんだ?」
真後ろの首元からいきなり声がして、サツキは言葉通り飛び上がった。
「うわあああああっ!!」
そして落ちた際、ソファーの手すりに思い切り肘を打ち付けた。
「あいたあああっ!」
「何やってんだよ。『ヒールライト』」
「あ、治った」
いや、そうじゃない。ユラが差し出す手を掴み立ち上がりつつ、サツキはまだドキドキする心臓を押さえながら尋ねた。
「どうやって入ってきたの? ドラちゃんが入れる筈ないのに」
門番のドラゴンの飾りことドラちゃんを無視でもしたりすると、家に入れてもらえない。ましてやユラはこの家の住人ですらないのに。
すると、ユラが何でもないことの様に言って笑った。
「マグノリアとリアムのことを褒めまくったら入れてくれた」
門番の意味とは。後できちんと言い聞かせておこう。
「それで、今どこの部分読んでたんだ?」
「犬になってからリアムに変身した後、リアムに怒られたってところ」
「ああ、あそこか。な? 面白いだろ?」
「うん、思ったより面白い」
マグノリアについて語るユラはそれこそマグノリアみたいに子供っぽくて、純粋に可愛いな、と今朝も思ったサツキだった。
次回はリアムバージョン。




