魔術師リアムの中級編二日目の二つ目の魔法
濡らしたハンカチで、祐介の口の端に付いた血を拭っていく。
「ツ……」
「済まん、痛かったか?」
強く押し過ぎたらしい。口の端が、薄っすらと青くなっていた。かなり強く殴られた様だ。
「どれ、口を開けてみろ」
「あ」
祐介が素直に口を開けるが、大きくは開けられないらしいのと、祐介の背が高くてよく見えない。
「祐介、もう少し屈んでくれ、見えない」
「ん」
祐介が少し屈んだので、顎を支えながら口の中を見る。切った様な血の痕が見えた。殴られた時に歯に当たって切れてしまったのだろう。まだ出血が止まっていない様だ。
「祐介、うがいをした方がいいかと思う」
「ん」
リアムが紙コップを給茶機から取り、水道の水を入れて渡す。痛そうにうがいをして吐いた水はかなり赤かった。
「……済まない」
「ううん」
痛いのだろう、先程からあまり喋らない。自分の落ち度で祐介に怪我をさせてしまった。不甲斐なさに、心が沈む。
すると、ポン、と祐介が頭に手を置いた。リアムが顔を上げると、祐介は目で笑っている。祐介の懐の広さに、リアムは余計悲しくなってしまった。
「何とかその傷だけでも……そうだ!」
「ん?」
「私は回復系の魔法とはとことん相性が悪くてな、あまり効果はないのだが、手で直接触れたら多少は違うかもしれない」
「うん?」
「頬を貸せ」
「ん」
祐介の、中が切れた方の頬に手を当てる。このサツキの魔力では大した効果はなかろうが、それでもやらないよりはきっとましだ。リアムよ、集中だ、集中するのだ!
目を閉じ、深呼吸する。祐介の頬に触れた手に意識を集中し、リアムは唱えた。
「ヒールライト!」
ぽわ、と仄かに緑色の光がリアムの手に宿り、じんわりと祐介の身体に吸い込まれていく。そして、完全に消えた。
「――どうだ?」
恐る恐る、尋ねる。元々が不得手の呪文に、更に弱いサツキの魔力では効果は大して見込めないが、触れてはいる。どうだろうか。
すると、祐介が驚いた様な顔をした。
「痛く、ないかも」
「おお、痣もほぼ消えているな。口の中はどうだ?」
祐介が舌で傷があった辺りに触れている様だ。にっこりと頷くと、言った。
「ほぼ消えてる。若干痛いけど、切り傷程度。凄いね、こんなことも出来るんだ」
「効いたか! よかった……」
やはり接触して唱えたのがよかったのに違いない。リアムはホッとして、祐介の頬にまた触れた。
「……本当に済まなかった。私の堪え性のなさが原因だ」
すると、祐介が困った様な顔をした。
「気にしないでって言ってるのに。……分かった! そしたらさ」
「うん?」
「サツキちゃんから抱きついて、シャンプーの匂い嗅がせてよ。そうしたら許してあげる」
「お、落ち着く為、か?」
「勿論」
喧嘩となり殴られ興奮状態であるのは間違いない。――ならば。
リアムは祐介の背中に両手を回し、ギュッと抱き締めた。祐介も、リアムの身体に両手を回し、ぎゅっと締め付ける。
「……僕をあんまりヒヤヒヤさせないで」
祐介が囁いた。
次回はサツキバージョン。




