魔術師リアム、初級編三日目午後、姉現れる
コンコン、と扉がノックされた、と思ったら隣家だった。そのまま祐介がこちらに向かう音がする。
「サツキちゃん、郁姉来た。開けて」
「今行く!」
午後の講座は化粧その他女子の身だしなみ講座である。全く以て想像がつかず、やや恐怖心があった。
逃げるな、立ち向かうのだリアム!
リアムは自身を励ますと、扉を開けた。すると、ぐいっと扉が引っ張られ、外から入ってきた一人の女性がいた。にっこにこの笑顔は祐介に似ているが、祐介に比べ遥かに女性的な顔だ。祐介と一緒で、優しそうな瞳をしている。髪はかなり短いが、耳にぶら下がる装飾具がうなじのラインを綺麗に浮き立たせている。きれいな女性だった。
「初めまして! あなたが例のサツキちゃんね!? うおおっいい身体……!」
リアムを上から下まで遠慮なく見回しているが、きっと化粧やその他身だしなみに必要な手順なのだろう。やや居心地は悪かったが、リアムは耐えることにした。
「あ、あの、中へ」
口調は気を付ける様に祐介に言われているので、やや辿々しい喋り方となってしまったが、後ろの祐介は親指を突き立てて頷いている。いいぞ、ということらしかった。
郁姉が、靴を脱ぎつつリアムの後ろからぶつぶつと言っているのが聞こえた。
「あのくびれも……あの胸も……あれを愚弟が弄りまくって……」
姉弟揃って独り言が多い。家系なのかもしれない、とリアムは思った。
「郁姉、ちょっとそういう言い方止めてよ。僕達まだ付き合い始めでさ、まだそういうのは」
祐介が顔を赤らめながら話している。
「え!? あの手の早いあんたが隣に住んでるっていう滅茶苦茶美味しいラブコメみたいなチート設定なこの状況でまだ手を出してないの!? どういった風の吹き回しよ!」
「郁姉、言い方ってあるでしょ」
祐介が後手に回っているのは何だか見ていて面白かったが、そうか祐介、お前は手が早いのか。まあ年若いもてる男だ、そういうこともあろうが、中身は男である自分と祐介とがそういう目で見られるのは、その、やや気恥ずかしい。
「やだサツキちゃん、赤くなっちゃってかーわいいっ」
うふ、と郁姉がリアムの頬をつんつんした。そしてふいに真顔になると、至近距離で顔を眺めてくる。怖い。何だか猛禽類に狙われた気分だ。
「ファンデーションは要らないわね、うっらやましいわー。ねえ、日焼け止めは塗ってる?」
何だか分からないので、首を横に振った。
「付けないとシミになっちゃうわよ。眉毛はすこーし整えて、この大きな目! うへへ」
「は、ははは」
一歩下がると、腕を掴まれた。二の腕をジロジロと見られる。もう嫌だ。
「ムダ毛処理も簡単そうだし、うへ、うへへっ久々に見た原石」
笑い方が怪し過ぎて、リアムは笑顔を引き攣らせた。
次回はサツキバージョン。




