かいぎ2
細長いコの字型に並べられた机に着席しているのは人族の大人達。各方面の権力者や代表者達が列席していた。
代表者なわけだから、もちろん各方面の事情によって顔ぶれが変わることはある。世代交代やら任期満了やらで各々の組織に変化があれば、それを代表する者達もまた交代することがあって当然だ。
むしろ交代したい。今すぐに。
この厄介な、うっかり喋ると命が縮まりそうな空間の中で、矛先が自分へと向かないように、在任期間の満了という唯一の希望を頼りに毎回、ただこの席で縮こまって祈り続けているのだ。
その日は一年の境目でも四半期の区切りでもないのに、出席者が二人、変わっていた。
一人は軍部の担当者。軍としての不始末というよりは、彼の【勇者】の扱い方についての失態が多かったせいだろう。担当を【勇者】の年齢に近づけたのか、前任者よりも若い男に変わっていた。
もう一人は奴隷商人の男。こちらは前任者とは何の縁もない別の「ふつうの豪商」に入れ替わっていた。
前任者は国に多額の献金をしていたやり手の闇商人だったらしいのだが、最後に運に見放されてしまったようだ。
10階層に突如現れたという【妖精王】の暴動騒ぎと共に失踪してしまったらしい。噂によると、子飼いの「最強の刺客」とやらにも裏切られて命を狙われているのだとか。
そこにさらに魔王【徘徊する逢魔】の案件にも絡もうとしていたのだから、むしろ大したものだ。命がいくつあっても足りやしない。
何にしても、消え去った者達に興味はない。
出席者達はかつての同胞達の噂話を一言二言と交わしあった後、早々に彼らのことは頭から消し去っていた。
そして、いつもの時間がやって来た。
いつもの子供のような相談役と、道化のような男。いつものように時間通りに現れて一番端の席に座った。
そのまましばらく待つと、最後に現れたこの会議の最大の出資者である男。
これで全員が揃った、いつも通りの会議の時間がやって来た。
相談役が――もはや相談ではなく主導している立場なのだが――放り込んだ報告は、魔王討伐の計画についてだった。
いま試練の迷宮にいるという魔王【徘徊する逢魔】のもとへ精鋭の討伐部隊を送り込む計画。
それには国が所有する『遺棄された30階層への転送門』を使うという。
送り込むのは神の使徒【不滅の正義】と【慈悲なき兵器】。他、精鋭百名ほどを募る。
ここまでは既に準備がほぼ完了し、近日中に決行するらしい。
ツッコミどころが多すぎてもう、追いつかなかった。出席者達は心の中で絶叫した。
誰かが相談役に叫ぶように抗議した。「そんな大事な話をなぜ、いつの間に勝手に進めたのだ!?」と。
まだ魔王対策について具体的には何も決まっていなかった、はずだった。
あの魔王について、誰がどう倒して、誰がどんな形で支援して、誰の手柄と分け前にするのか。
暗黙の了解で大方の担当人員は決まっていたが、詳細が一切詰め切れてはいなかった。
利権に乗りそこねて抗議する男に、相談役は逆ギレ気味に言い放った。
「なぜだって!? 君達が由々しき事態だってうるさいから、優先して片付けようとしているんじゃないかっ!」
「由々しき事態だから」だと!? 「由々しき」は社交辞令というか、日常の挨拶みたいものだろう!
忙しい、由々しい、イカンとか遺憾とか絶えず言っておかないと、上司や部下や支持者に対して示しがつかないから習慣的にそうつぶやくという、ただの、大人の作法だろ!?
本当に由々しいかどうかはまた、別の問題だ! 空気を読め!
別の男が「あの30階層への転送門は使用できないはずだ!?」と問えば、道化の男が「それ、僕がもう直したよ」などと信じられないことを言い放った。
信じられない...あの転送門に手をつけるという暴挙と、直してしまったという快挙。
あれは「理論上は修復可能」などという、ただ次世代へと押し付け続けるだけの負の遺産だったはずだ。一度修復に失敗すれば二度と使い物にならない、だが諦めるには高価過ぎるという粗大ごみ。
1パーセントにも満たない成功確率のそれを、道化は既に「直した」と言っているのだ。失敗すれば責任問題だったのだが......本当に直ったのならば国をあげて祝っても良い程の快挙だ。
さらに道化は「いま魔王は22階層にいる」と断言した。
意味が分からない、なぜそんなことが? 所在が分かる理由も謎だが、つい先日まで【不滅の正義】と4階層で戦ったという魔王がなぜ、もう22階層などというあり得ない程の深層へと到達してしまっているのか!?
それが真実ならば、次の会議を開く頃には試練の迷宮を踏破して神へと『昇神』してしまいかねないぞ!?
...それを阻止するためとは言え、30階層から「逆走」させるつもりか? 逆走は禁忌の行為だったはず...?
そして逆走させようと言うのが、よりにもよって神の使徒【不滅の正義】に加えて、【慈悲なき兵器】まで!?
いや、それだけの事態ならば、神の使徒を二人投入することだって何らおかしなことではない......ないのだ、けど...!
三大宗派の中から会議の面々は敢えて、【不滅の正義】を信仰する「白き鏡」を選んだのだ。
選ぶというのは、あれだ...これまでの寄付とか献金とか、忖度とか癒着とか、そういう権限やら利権やらのあれこれの積み重ねとか調整とか、そういう大人の事情のあれこれだっ!
そこに突然、【慈悲なき兵器】を信仰する武闘派集団「赤き剣」を頼っては、おかしなことになってしまう!
おかしなことというのは、あれだ...察しろっ!
そこに一切察しない相談役が振り下ろす、「【勇者】だけで勝てないんだから仕方ないだろっ!」というド正論。
つまり、「赤き剣」の力を借りたくないのならば代案を示せということで、当然、他の手段など誰にも用意できやしない。
むしろ良くもまぁ、あの荒くれ者の【慈悲なき兵器】を見事に取り込むことができたものだ。快挙だ。
だが、ここで終わりではなかった。相談役の説明はまだ続く。
こんな状況下で、これまで主導権を握ってきた「白き鏡」が遅れを取るわけには行かなかったのだろう。【勇者】だけでなく、彼らの切り札である「四聖」を全員投入すると言い出したらしい。
さらに、その異常事態にこれまで静観してきた三大宗派「青き鎖」までも参入し、彼らの管理する『残り二本の聖剣』やら『破魔の矢』やらをこの戦いに提供すると申し出てきたのだという。
道化の男が「まるで最終決戦みたいだよねー、アハハハ!」などと笑い出したが、「みたい」どころか、これでは「まさに」...
...もはや、過ぎてしまった、「終わってしまった話」はもう仕方がない。
相談役の暴挙だけならばいざ知らず、三大宗派の全てが乗ってきてしまっている以上、もう止まることなど決して無いのだ。
乗り遅れるわけには行かない。
今回参加するという百の精鋭に自らの手の者を滑り込ませるのか、あるいは支援に回るのか。武器なのか兵站なのか資金なのか、とにかく何としても一枚噛む必要が生じてきた。
出遅れた上に必勝の戦いに「賭けた」ところで儲けが少ないことなど分かっている。それでも参加したという実績作りが重要なのだ。
その会議が終わると同時に、議員達は一斉に各々の持ち場へと調整に走り出したのだった。




