閑話〜継承し、そして断つ者へ
「...あぁ、四天王には別働隊に合流して挟撃する、という名目で離脱させたんだ。
本当は別働隊なんかじゃなくて避難途中の非戦闘員の一団だから、ちゃんと僕の意図を汲んで、彼らを見捨てずに一緒に逃げのびてくれるはずだろう。
あとは君を......いや、違うよ!? 最後まで一緒に戦うとか、そういうの良いから!?
僕も適当に逃げるよ? ダメだよ戦っちゃ? 分かってる?
うーん...
うん! そうだ!
この今書くこの手紙を......書いた。これを、ティターニア殿に届けて欲しいんだ。
重要なやつだから人任せにせず、絶対に君から直接、彼女に手渡すんだ。
絶対だぞ! よし、任せた!
うん、これまでずっとありがとう。
...いや? いつもありがとうって言ったんだ。
さぁ、行ってくれ。
あとは、僕に任せろ......何が心配なんだい? 僕が君に嘘をついたこと、あるかい? さぁ、早く行って、メイデイ!」
...いつも僕が嘘をつかなかったのはね、ここぞという時の嘘を、信用させるためなんだ。
......
...戦えない連中のことは任せたぞ、四天王。戦闘しかできないなんて言い訳は聞かないからな。
お前達は強い。油断さえしなければ、大丈夫だ。
僕の最期の願いだ、ちゃんとやり遂げるんだぞ?
一番てごわいメイデイは、ティターニアの元に送り込んだ。
時間が無かったから手紙には「へのへのもへじ」くらいしか書けなかった。
ティターニア、彼女きっと怒ると思うけど、一回くらいは僕もイタズラをやり返させてもらおう。
......
...うわ〜ん、やっぱりダメだったぁ、メガミ様ぁ〜!!
僕、がんばったんだよ? がんばった結果がこうなんだよ?
メガミ様だってがんばって僕を励ましたよ、僕達、ものすごくがんばったさ!
僕達はもう、よくやったさ!
メガミ様が僕にくれたステキな力、【魔導】はとっても楽しかった!
いろんなことができて、夢のような力だった!
きっとそれで、色々目立っちゃったのがまずかったんだろうけど、僕はこの力を使わずにはいられなかったんだ!
だからもう、願いなんて無いよ。大丈夫だから。メガミ様。
...えぇぇ......そこまで言うなら...う〜ん...
うん。次はもっとさ、強い奴にやらせてみない?
なんていうかさ、ぜんぶ問答無用で、ぶん殴って解決しちゃうような奴に任せてみないかな?
【魔導】の強さはとかは関係なくて、僕達ってなんていうか、ほら...
...向いてないんじゃないのかな?
きっと僕らだと、人族には勝てないような気がするんだよ。
分かった、じゃあ、次の【徘徊する逢魔】は人族最強でお願いします!
うん! よろしく!
質問は認めませーん!
じゃあね! 僕はもう行くよ! ありがとう、メガミ様!
――...メガミ様の人選が悪いんじゃない。メガミ様がちゃんと真面目に選ぶから、いつも【魔導】は暴走せずに済んでいたんだ。だけど、それだといつも......泣いてばかりのメガミ様が、かわいそうだよ...――
そして僕は一人、城の外へと歩いて行く。
籠城なんてしない、もうここには僕一人しかいないのだから。
それに、思い出いっぱいのこの城の中に人族達を招き入れたくはなかったんだ。
目の前には人族の軍勢。もしかして、千人以上連れてきたんじゃないのかな?
薄気味悪い喧騒と雄叫びの声はもう、どちらが魔物か分からないじゃないか。
あの中には知っている人達も何人かは居るだろう。
だけど、赦して欲しい。僕も命を懸ける、僕も一緒に逝くのだから。
ここが僕達の終点だ。一人残らず、道連れだ。
僕は振り返らずに【魔導】を使って、城を砂に、大地へと還した。
背を包む生ぬるい風と土埃の匂い、轟く重低音と共に、思い出を、先に天へと返してやった。
目の前で水を打ったように静まり返った人族達も、それはそれで薄気味悪い。
なんだ君達、僕の【魔導】を初めて見たのか?
だけど残念、今回は最初で最後......
もう本気で戦うって決めたんだ。
さぁ、喜べ人族!!
お前達の待ち望んだ、
【徘徊する逢魔】のお出ましだ!!
――まだ見ぬ次代の君へ。僕達が果たせなかった無念を押し付けるようでごめんなさい。願わくば次こそは......僕の仲間に、四天王に、かわいいメイドさんに......そして、僕達の、メガミ様に...勝利、...を......――
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【徘徊する逢魔】の使徒達との戦いの歴史は、人族勝利の美談と魔王敗北の悲劇という形で語り継がれていた。
だが、実際はそんな人族にとっての美談ばかりではない。
策謀ですんなりと暗殺できた場合はまだ良いが、その大半は多大な犠牲をもって相打ちにしてきたのが実情なのであった。
特に、その魔王最期の決戦に生き残る者は、いつも【不滅の正義】ただ一人。
敵も味方も天も地も、その【魔導】によって呑み込まれて死に至る。
単に【勇者】だけがその仕様上、不滅だから生き残ってきただけなのだ。
最後に立つ者が【勇者】だから、人族の勝ち、そう言い張っているに過ぎないのだ。
それらも織り込み済みで、正義の名のもとに、【徘徊する逢魔】のもとへと討伐隊を送り込む一大イベント「魔王討伐」。
新しい武器を、魔法を、全力で行使して希少な実戦データと経験値を得ることができる数少ない機会なのだ。魔王が粘れば粘るほどに新たな予算を獲得する名目が立ち、共通の敵を前に味方の一致団結も計れるという、大切な定例行事なのである。
これを機に武功に飢えた者達をけしかけて、厄介者は魔王に始末させてしまえば一石二鳥とさえ思っている者達も少なくない。なんと便利な魔王なんだ。
人族の被害とて甚大だ。だがそんな記録はどこにも残ってなどいない。ちゃんと丁寧に一つ残らずもみ消して、小さな痕跡すらもきれいさっぱり、抹消しているのだから。
そして喉元過ぎれば熱さを忘れる。そうやって、およそ千年に渡って繰り返してきた。
「...それは、人族以外の各種族の伝承を読み解けば、すぐに見えてくる答えなのだよ」
そんな禁書指定されかねないギリギリの内容を、当たり障りのない文章の合間に忍ばせた報告書を書き終えて、その男は黒縁メガネを外すと眉間をつまんでため息をついた。
聞く所によると、次代の【徘徊する逢魔】が『試練の迷宮』へと現れたという話だ。
「もしも【徘徊する逢魔】が再び『迷宮』を踏破したならば、人族は一体どうなるのだろうね?」
誰もが踏破を諦めたという試練の迷宮。そこによりにもよって、かの使徒が現れた。
【勇者】を退け、最強の暗殺者を葬り去り、行方をくらませているという。
うっかりその使徒までもが神へと昇り、【徘徊する逢魔】が二人にでもなってしまえば果たしてどうなるのか? その時はきっと、人族は千年分のツケを支払うことになるのだろう。
乱れた髪と無精髭の冴えない中年の伝承学者は苦笑しながら明日の旅支度を確認すると、ランプの灯を落として着替えもせぬままに寝台へと潜り込み、そのまま眠りについたのであった。




