かいじゅ
ここまでのあらすじ:逃げる途中に、どさくさに紛れて妖精の女王も奪還していた。うちの子が優秀すぎて俺はいま、驚いている。
「女王様!」
妖精達が驚き、悲鳴を上げた。
ユキが置いた小さな妖精。
羽の生えた、緑髪と緑の衣の、もしも彼女のような人間が街を歩いていたなら誰もが振り返るであろう、「女王」の名に相応しい美しい妖精だ。
しかし、その妖精の女王は、隷属の魔法の影響なのか焦点のあわない虚ろな目のまま、ぼんやりとしゃがみ込んだままだった。
あまりの急展開に俺も驚いているが、ひとまずは、いい加減にこのモモフの着ぐるみを脱ぐことにした。
「...ふーっ」
「「ひぃ!」」
妖精の女王を見た時と同じくらいに、妖精達が驚き、悲鳴を上げた。
...あー、俺が悪かった。当然、着ぐるみだと分かるだろうというのは俺の思い込みだったようだ。
俺だって、目の前の妖精達が急に脱皮し始めて、中の人(?)がモリモリと出てきたら、たぶん怖くて泣く。
「...申し訳ない、驚かすつもりは無かったんだ。
こんな格好をしていた理由は、その...ただの悪ふざ...なりゆきだったんだ。
とにかく、この杖と、君達の女王はこのまま差し上げよう」
妖精達と人族はいま敵対関係にある。
人族の俺から突然、人質を返されてしまったと困惑したかもしれないが、そのまま受け取ってくれれば、それで全く問題はない。
俺は地上の人族達とは無関係だし。
「俺達のことは、特に気にしないでくれ。
...うん、君達を助けた通りすがりのモモフ族達は、そのまま約束の地へと旅立ったということにしておいて欲しい」
うん、人族なんて居なかったし、モモフ族達は旅立った。着ぐるみを脱いだ俺達は、どこにも存在しない者達ということにしてくれれば、それで良い。
約束の地がどこかだって? 飲み会の約束なら、居酒屋じゃないの? 知らん。
そのまま立ち去ろうとする俺を、妖精達が慌てて引き止めた。
「待ってください!」
「わたしたちを、たすけて!」
俺も驚いて、そのまま返してしまった。
「えっ? もう、女王様も、解呪用の杖も、ここにあるよね?」
あとは女王の魔法を解くだけだ。
その解呪に必要な鍵の言葉を俺達は知らないし、人族達は知っているのだろう。あとは彼らに聞いて欲しい。
あまり言いたくは無いけれど、最悪、人族の連中を「締めあげて聞き出す」ことになるのだろう。そこは、妖精族と敵対してしまった人族達に「責任をとって」もらおう。
先ほど【鑑定】スキルで見た人族達。HPが大体30から50前後。勇者を倒した時の俺の半分以下だ。
そして目の前の妖精達は、その人族よりも少ないHP30前後なのだが......妖精達は、【スキル】がヤバイ。
火魔法、水魔法、風魔法...あらゆる魔法のスキルをそれぞれの妖精達が1つ2つは持っていて、そのレベルは3から5くらい。この酒場は今、ちょっとした武器庫か火薬庫みたいなものだ。
ちなみに、俺の【まほう】スキルのレベルは2。ここの妖精達の方が俺達よりもよほど強いと思われる。
だから、これから人族と妖精族で話し合いというよりは、妖精族が攻め込んで決着する可能性の方が高いと思っている。
そして、人質を奪い返した今、もう俺達にできることは何も無いと思うのだが...
「たすけてください!」
なぜか、助けを求められてしまっているが......一体、何を助けて欲しいんだ? そんな問いかけの言葉が喉まで出かかって、俺はどうにか、飲み込んだ。
おそらく、何をどうすればいいのか、その道筋が彼らには分からないんだ。
俺がさっき考えた「人族を締め上げる」にしても、その段取りとかが思い浮かばないのだろう。
だが、その推測通りだとして、俺に何ができるのか?
俺だって、どうすれば良いのかは分からない。要は、程度の問題だ。
俺も答えは知らないから、色々試して、正解に近づけていくことになる。
妖精達が10日かかる所を、俺ならば5日でどうにかできるかもしれない、半日は無理だ。そんな「程度の違い」しか無いんだ。
そして、重要なのは、5日で「破滅する」場合もあるということだ。
妖精に、人族に、犠牲者が出るかもしれない。
この状況を大人は一言でこう説明するんだ。「責任が持てない」と。
妖精達よりも弱い俺が、調子に乗って手を出して、大惨事になったらどう「責任をとる」つもりなんだ?
俺は視線を感じながら、席を立った。
その視線、気になるのは妖精達ではない。
妖精達を肩に載せた、サキとユキだ。
...なんで妖精達を肩に載せているんだよ? かわいいな!
サキは黙ってジッと俺を見て、ユキは何かを言いかけて、口をつぐむ。
二人の反応は違うが、言いたいことが何かは、俺にだって分かる。
...クソッ。もう少しだけ手を貸す! 俺はサキとユキにモテたいんだ! 妖精族や人族達のことなんて全然心配なんかしてないんだからネっ!
俺は、再び席に戻って、妖精達に問いかけた。
「...あー。人族から鍵の言葉を聞き出して、そこの杖を使えば、君達にも解呪できるのではないのかい? ...できれば穏便に、無理なら激しく、聞き出せば」
そんな俺の問いに、妖精達は斜め上の回答をしてきたのだった。
「その、杖がわたしたちには、もてません!」
「杖を持って鍵言葉を使う必要があるの!」
「杖が重いの!」
「がんばらないと、持ち上がらないの!」
そこは、がんばれよ!!
...いやいやいやいや、俺の常識で考えたら、たぶんダメなんだ。
大親分のモ゛ァァーという大欠伸を、彼にとっては日常で俺にとっては騒音であるそれを目の前で「がんばって耐えろ」と言われるのと同じようなものなのかもしれない。基準が俺とは違うんだ、たぶん。
異文化交流(?)の難しさを噛み締めながら、俺はどうにか対話を続けた。
「...つまり、解呪のための鍵言葉だけでなく、その杖を使う人族も何人か確保する必要がある、と。それとも杖は、人族以外にも使えるの?」
「わからない...見たこと無いから」
「うん。そうなのか。今まで人族しか使っていなかったのなら......話を変えて、鍵言葉を『間違えた場合』は、どうなるの?」
「その杖が赤くピカッと光る」
「間違える回数に制限は? 何回も間違えても、大丈夫?」
「わからない...でも、昔、何度も赤くピカピカ光らせている人、見たことある」
「...その人、なんともなかった? 女王も無事だった?」
「うん。ハズレたから怒ってたけど、なんとも無かったよ?」
なるほど。以前、その鍵言葉を忘れて何度もやり直していた奴はいた、と。
そういう間抜けなやつが居ても妖精女王や杖が壊れないように、鍵言葉の失敗回数に制約は無い、と推測するか。
つまり、正解するまで何回でも試せば良い。
俺は、杖を手にとって、妖精女王に向かって適当な単語を念じた。
すると杖が赤くピカッと光った。
「「はずれっ!」」
妖精達が一斉に声を上げて、少しイラッとした。言わなくても見れば分かるからっ!
「...これ、正解の時はどうなるの? 光る色が違うとか?」
「青く光るよ」
「光った後に、命令するの」
正解となる鍵言葉をイメージした後に、命令すれば、妖精女王はそれに従って動くそうだ。隷属解呪の場合は「開放する」旨を伝えるらしい。
「なるほど...それなら、あとは鍵言葉のヒントでもあれば...」
「鍵言葉はぜったいに、わからないよ!」
「人族たちも、ぜったいに言わない!」
「なんの数字かなんて、わからないよ!」
...んん??
「鍵言葉って、『数字』なの?」
「だから、どの数字なのか、わからないの!」
「...数字以外の、言葉とかは使わないの?」
「なんで? 数字でないと、開かないよ?」
「...以前、連続で間違って杖を赤く光らせていたって奴も、なにか言ってた?」
「だから! 数字はゴニョゴニョ言ってたけど、ハズレだから意味ないよ!」
...俺は再び杖を握って、三連続でピカピカピカと赤く光らせた。
妖精達が「「ハズレハズレハズレっ!」」と同時に合唱したが、きっと条件反射なのだろう。この子達はそういう小さ目のセンサーか何かだと思っておこう。
俺はため息をつきながら、妖精達に依頼した。
「...少し、考える時間をくれないか?
この酒場、俺達も食事とかはできる?
あぁ、できるなら、頼む。あと、宿はどこかにある?
...そうか、この酒場の上にあるのなら丁度いい。人族達に見つからないように、俺達を泊めてくれ」
この建物は、上階に人族向けの大きさの部屋も用意しているそうだ。それはありがたい。
こうして、俺達はこの酒場の上の宿で一泊することにしたのだが......
...その会話からおよそ二時間後、俺は「解呪」に成功していた。




