うめた
「貴方は何をしているんですか!? 今すぐにやめなさい!」
神官らしき女が叫んだ。
「さすが聖剣、硬い地面も楽に耕せる」
「折れた聖剣を奪って一体何の真似ですか!? おやめなさい!」
何の真似って、見れば分かると思うのだが。
埋めているんです、三人を。顔だけだして。
勇者を、弓使いを、聖騎士を、地面に、埋めているんです......聖剣でやわらかく耕した土を【まほう】で収納して、【勇者】を置いて、埋め戻す、簡単なお仕事...
「...平安京では、化物は埋めることになっていたとか、いなかったとか」
「へいあんきょう?! えいりあん!? 一体、なにを言っているのです!?」
「...江戸時代、フグの毒に当たった人を顔だけ出して海岸に埋めたことがあったとか無かったとか。だから、埋めたら治るんじゃないかなって......馬鹿という深刻な病が」
「えどじだい?! 何を言っているのか分かりません!!」
俺だって分かんないよ、もー。
半分、自棄クソになって埋めてんだよ、もー。
一人以外全員埋めるつもりだったから、偶然あなたが助かっただけなんだよー。もー。
埋めないと、またすぐに追ってくるでしょ? あなた達は。だから埋めんだよ、もー。
...実際のところ、この人達は、邪悪なものどもを滅ぼすという、絶対正義のために動いているんだ。4人が行方不明になったところで、また5人目、6人目がくるだけなのは目に見えている。
だから取り敢えず、採算がとれない、割に合わないところをハッキリと「見せて」おかないと、俺達が逃げるための時間が稼げないんじゃないかな、と思ったんだよ。
【勇者】様が埋められちゃったら、さすがに、いろいろ問題でしょ? 恥とか外聞とか、正義というものの見栄えとか。わざわざ部隊を編成してまで迷宮に送り込んだ挙句にコレだと、お金や労力に合わないって思うでしょ?
だからもう、勇者とか、他の人とか、こっちに送って来るのやめちゃいなよ? って話なんだよ。
俺が黙々と折れた剣で耕しては、魔法スキルで掘ったり埋めたりする中で、神官さんが俺に言った。
「わかりました。異端審問会で争いましょう」
...あんた、何も分かっちゃいないよ。
異端を、君達の理屈で審問して、俺達になんの得があるんだよ?
「神はきっと、あなた達を救って下さいます」
「俺は神ではなく、あなた達と戦っているのだが?」
「神はすべてをお見通しです! あなた達の正義もきっと、神は理解して下さいます!」
「神は関係ない。君達が全く会話する気がないのが、俺にとっては問題なんだよ」
「あなた達が神を否定しようとも、それも含めて神は救って下さいます!」
「ていうか、神のせいにするなよ。あんた達の問題なんだよ」
「今は我々は理解し合えなくとも、いつかきっと『神』は...」
「...最後まで『君』とは会話できなかったのは、残念だよ...」
もう、埋め終わっちゃったし。
弓の人と、聖騎士の人の怪我は治したし、【勇者】は知らんけど、あとは放って置くだけだ。
三人ともまだ自力では出られないはずだから、後はもう、そっちで勝手にやってくれ。
埋め終わった後に、あらためて【鑑定】スキルで確認しておいた。
敵との遭遇に備えて、【鑑定】もそれなりに訓練してレベルを上げて来たのだけれど......【勇者】を視た俺は気分が悪くなって、すぐにやめた......
...サキ、ユキ、最後に水とか、かけとく?
え? やらない?
お湯の方が良かった?
え? やらない?
そう。なら、別にいいけど......
神官さんが、とても苦々しい表情でこちらをジッと見つめている。
言いたいことは色々あるのだろうけれど、俺達が彼らに止めを刺さないことも理解した上で、これ以上は言わないように、どうにか我慢しているのだろう。
...とはいえ。
彼女の言うこともまた、真実だというならば、
「...【不滅の正義】とか【勇者】とかも、神様が与えたものなんだよね?」
「!? そ、その通りです! あなたも人族ならば、その意味が分かるはずです!」
いや、分かんないけど。
...分かったような、分かんないような。
これがうちの「メガミさんの望み」なのか、分からないけど。
...ただ、あくまで「俺の」ケンカとして。
それなら、あんた達の流儀に則って、そのケンカを買ってやるよ。
もう良い。分かった。今からは、俺と人族との戦いだ。
俺は、一時的に【職業を切り替えた】。彼女らは【鑑定】スキルは持っていないのかもしれないけれど。まぁ、気分の問題だ...
「あなた達の上司に伝えてくれ」
なんとなく、俺のこの【職業】は、この時のためにあるような気がしたんだ。
「これ以上俺達に関わるならば、
あなた達を、俺は......
【徘徊する逢魔】は、
もう許さない、と」
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俺も神の使徒とやらの一人ってことなんだろうけれど、メガミさんは一体何者で、俺をどうしたいのだろうか...?
この謎の【職業】について、とりあえずサキとユキに聞いてみた。
「ねぇ、二人は知ってる? 【徘徊する逢魔】って、何者なの? あの四人、目ん玉飛び出そうなくらいにビックリしてたけど?」
「はい、もちろん存じております!」
「この世界で、知らない者などおりません!」
興奮気味に、二人が答えた。
そうかー、そんなに有名なやつなのかー。俺は真っ先に見なかったことにしたけれど。怖そうだから。
そして、ついさっき、とうとう名乗っちゃったけど...
「...それで、何者なの?」
...以前は確か、『人族の天敵』って言ってたよね...?
そして、答えは...
「滅びゆく者達を魔法の力で導いてくれるという...」
「おとぎ話の、みんなの王様ですっ!」
魔法の力で導く......王様、って......魔王かよっ!!
「...えぇ〜......俺、魔法スキルはまだレベル2しかないよ?」
「それでも、主様は間違いないです!」
「【勇者】を倒した、使徒様ですからっ!」
「...君達は、どっちが良いの?」
「「?」」
「いや、【がんばりや】さんと【徘徊する逢魔】、君達は俺がどっちだとうれしいのかな、って。 ...何、ニヤニヤしてんのさ? 俺、好きな方を勝手に選んじゃうよ?」
「...私達の望みはただ一つ」
「...そのままいつまでも、私達の主様でいて下さることです」
「......」
「「......」」
「...じゃぁ、【がんばりや】で」
「「もーっ!! どうして無視するんですかっ!?」」
...どーしても、こーしても。
俺、誰かに自己紹介するときに、「職業はご主人様です!」なんて言えないよ!? どんだけ心が無敵な人なのさ!?
...それを言うと、【辞書】に書いてある他のやつも人には名乗れ無さそうな職業ばっかりだな?
もーっ!! 恥ずかしい職業ばっかり俺に斡旋するなよな!?
お花屋さんとかパン屋さんとか、もっと潤いと温かみを与えてくれそうな職に就かせてくれよ、メガミさん!?
―――――
【ステータス】
なまえ:コージ
しょくぎょう:がんばりや
しゅぞく:ひとぞく
HP:108
MP:250
ちから:100
すばやさ:120
かしこさ:95
うん:9
【スキル】
はいかい Lv10
けんせい Lv1
まほう Lv2
かんてい Lv5
かいたい Lv2
さいしゅ Lv3
りょうり Lv2
ほんかど Lv5
...他(やくそう Lv1など)
【しょくぎょう】
がんばりや
けんせい
まほうつかい
かりうど
とらいじん
にんじゃ
けびいし
ごしゅじんさま
徘徊する逢魔
【げんざいち】
めいきゅう 第4層




