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けんしょう

あらすじ:

左の子が置いて行かれた


 ユキとひと悶着(もんちゃく)あった、その翌日の昼。

 俺達三人は、横一列に草原の中を歩いていた。


 はるか広がる草原の真ん中で、三人で手を繋いで歩くのは、慣れないせいかちょっと、恥ずかしいというか照れくさい。

 それでも、たまに吹き抜けるそよ風を三人で浴びるのは、何度繰り返しても飽きることなく爽快(そうかい)だ。これだけでも、この世界に来て良かったと思ってしまう......うん、この「両隣」の不思議な状況も含めて。


 昨夜から、俺の左手と右手は、二人に捕られてしまっていた。

 食事とかの時間以外は、ずっとそのまま、現在に至る。


 特に、なぜか左の子の方が、


「サキでーす。サキはサキですよー」


 と度々(たびたび)自己紹介をしてきて、その様子にユキが苦笑した。


 なんだかサキさん、選挙期間中の立候補者みたくなってしまった。このまま待っていれば政策とかマニフェストとか語り始めてくれるのではなかろうか?


 でも、二人で政党とか組まれたら、俺、そのまま野党だよね?

 いつも多数決で負けることになるよね? ...いかんイカン、それはイカンぞ! 遺憾(いかん)のイを表明するぞ! イーッ!


 ...あ、ユキさん、俺の顔をじっと見ないで? 大丈夫だよ、俺、まだ正常だから。党から除名しないでね?


「...楽しそうですね? 主様(あるじさま)?」

「...うん、わりとね」

「私も楽しいですっ!」

「サキもいますよーっ!」


 大丈夫だ、左の子よ、そんなに手を強く握らなくても、ちゃんと君に投票するからさ!


 ...おや?



 ...スライムだ。



  【スライム (たべられません)】



 じっと見た拍子(ひょうし)に、【鑑定】スキルも発動した。

 透明で、少し青みがかった、プルンとした水滴を大きくしたような球体。まるで巨大な水羊羹(みずようかん)みたいな......おっと、たべられません!


 手の平ほどの大きさのスライムが、向こうの方でじっと、こちらの様子を伺(うかが)っている。

 小さくて透明だから、草原に紛(まぎ)れて見落とすところだった。


「スライムが......なかまになりたそうに、こちらをみている」


 俺が何となくつぶやいた一言に、ユキが、


「え!? 主様? ......スライムと、会話できるんですか?」


 と聞いてきた。


 この言い方、なんだか「やだ、○○君って、サボテンと会話しているの...?」と同じような、とても残念そうに同情する感じに聞こえたんだが?

 俺は別に残念な人ではないし、お気の毒さまでも、ご愁傷(しゅうしょう)さまでもないよ? いまでは立派な主様(あるじさま)だ!


「...あぁ、俺はサボテン...じゃなくて、スライムと会話できる。むしろ前世はスライムだったかもしれないくらいだからな!」


 会話できるものはしょうがない。大兎(モモフ)とは会話できなかったのに、なぜかこのスライムとは意気投合してしまったのだ。

 疑問の表情の二人をそのままに、俺はスライムさんとしばらく見つめ合い、そのまま仲間にしてしまった。


 名前は、二代目ミティを襲名させるか迷ったけど、一旦保留にすることにした。

 彼にはいくつか「実験に」付き合ってもらうので、まだ、あまり情が移るのは怖かったからだ......ひどい俺を許してくれ、スライムさん...



 こうして俺は、左手にサキ、右手にユキ、肩にスライムの陣形でしばらく散策を続けた。

 二人と一匹で木の実や薬草を採取したりして、もうしばらくの間、草原を進んでいった。


 サキ、ユキには【薬草】のスキルがあるそうだ。草花や木の実について詳しくて、それらを干したり煮たり、混ぜたりして加工してくれる。


 加工後の入れ物として、樽(たる)とか壺(つぼ)とかを道具屋のおばあちゃんに少し分けて貰(もら)ったのだけど、保管場所の方が俺の「そこそこの広さの」収納魔法しかなかったから、あまり作り置きはしなかった。

 俺も彼女達に学べば【薬草】スキルを手に入れられるだろうか? 後日、検証してみよう。


 左の子がスライムさんを頭の上に乗せて、


「スライムとサキですよー」


 と、連立政権を発足させていた。仲が良さそうで何よりだ。


 ...あれ? スライムさんは、俺の派閥だよね?

 俺に与党をとらせてくれるよね?

 俺に政権(せいけん)をっ......あれ? 俺は【けんせい】だったよな? ...俺に「聖剣(せいけん)」か「政権(せいけん)」を、どっちでも良いから取らせてくれ!




 新しい仲間とともに、少し早めに拠点である【白昼夢】へと戻った俺達は、すぐに実験を開始した。



 まず、生き物を【白昼夢】へと置いてきた場合の実験。


 焚(た)き火とスライムを【白昼夢】の中に置いてきたまま、出たり入ったりしてみた。

 俺が「いない」状態でも【白昼夢】内で生き物が生存できるかどうかについての実験だったのだけど、これは予想通り無事に成功した。

 スライムは変わらず元気で、焚き火の状態から時間が止まっていた訳ではないことも確認できた。


 そして、俺を置いて【白昼夢】から出て行ってもらうことも、成功した。

 霧の向こうへとスライムに歩いて行ってもらうと、彼(?)は無事に元の草原へと出ることができたようだ。

 ただし、彼一匹ではもう一度こちらに戻ることはできないらしい。【白昼夢】に入る時は俺も一緒である必要があるようだ。


 そして面白いのは、【白昼夢】の中にスライムを置いてきて、草原を移動してから、スライムを迎えに行った場合。

 スライムは【白昼夢】の中で、俺達と一緒に移動した扱いになったようだ。

 【白昼夢】はどこか空間収納に近い、大きめの荷物入れと思っても良さそうだ。



 こんな感じのいくつかの実験を繰り返し、俺はようやく確信を得ることができた。

 それは、サキ、ユキを【白昼夢】の中に置いていけるかどうかだ。



 いざとなれば、サキ、ユキを【白昼夢】の中に残したまま、俺だけが草原の中を移動すれば、そのまま彼女達の「追っ手を撒(ま)く」ことができる。これで安全を確保できる可能性が上がる。


 ただしこの方法、【白昼夢】が「俺が死んだ時にどうなるか」の検証ができていないので......するわけにもいかないので、今はまだ乱用はできない。【白昼夢】ごとサキ、ユキが消滅したりすれば大変だ。


 メガミさんに聞けばもっと詳しい仕様が分かるだろうか? 【辞書(へるぷ)】では分からないし、詳しい人、誰かいないかなぁ......



 そして空間収納。

 俺の【まほう】スキルの空間収納は、スライムも収納できた。


 これにはサキ、ユキも目を丸くして驚いていた。ふつうの空間収納(アイテムボックス)スキルでは生物は収納できないと言われているそうなのだ。


 うん、そうだろうね。できたら普通に閉じ込めて殺せそうだし、収納してから炎や水の中へ取り出せば殺せそうだし、収納したのをうっかり忘れて飢え死にさせそうだし、とにかく色々と殺せそうだものね、空間収納で。


 ....だけど、俺のだと、できちゃった。


 ただし、俺の魔法の収納は、スライム収納中にMPがどんどん減っていった。

 MPが0になったらどうなるのかは試していない。生物を入れる予定はない、これはあくまで、いざという時に備えた実験だ。生物(スライム)を入れるときに何か魔法的な抵抗を感じたから、生物かどうかの判別は収納時に気がつくだろう。


 もしかしたら生物以外でも収納時には少しずつMPを消費していたけれど、時間経過で回復するMPよりも小さくて気が付かなかっただけかもしれない。ちなみに「生物(スライム)以外で」MP0(ゼロ)になった時は空間収納から取り出せなくなるだけで、MP回復時に取り出せば問題なかったのは石ころで検証済みだ。


 お湯を収納すると、時間経過後もそのままお湯だった。

 スライムを収納すると、時間経過後もそのままスライムだった。

 時間が止まっているのだろう。あるいは、お湯とスライムが、何か、冷(さ)めないように頑張っていたのか。


 この魔法の空間収納、実は「収納」では無いんじゃないか? タンスに入れる感じよりも、もっとこう、時空を超えた世界にでも「封印」してしまうかのような別の......まぁ、結果は同じか。それはまた今度考えよう。



 そして、スライム自身について。

 彼は雑食であることが確認できた。兎(モモフ)の肉も骨も、よく食べた。

 布とか石とかは、頑張れば食べられるらしいが、あまり彼の好みではないようだ。



 ...この俺のスキルとスライムの可食範囲の検証で、サキ、ユキの追っ手を、一人か二人なら「消せる」ことが確認できた。


 迷宮内にスライムがいたのだから、人が一人消えたところで、スライムに襲われたことになるだろう。なにせスライムさんは骨まで残らず、短時間で食べるのだ。モモフ達が草食だとしても、モモフに襲われた後にスライムが処理する可能性は十分に想定できる、人族はそうみ(・)な(・)す(・)だろう。


 人族の追跡がどうやっても振り払えない場合は、俺の手で......もちろん、それは最後の手段だ。そうしないで済むように、上手く立ち回りたい。


 サキ、ユキが最初に着ていた服という名のボロ布を、スライムに出会った場所に捨てておこうか迷ったが、もう少し場所を検討することにした。

 二人の死を偽装するなら、もっと下の階層の、過酷な環境で痕跡を残さないと追っ手を騙(だま)しきることができないかもしれない。



 とにかく、スライムさんのおかげでここまで検証と考察を進めることができた。

 そしてようやく、次の行動に移せるようになった。


 サキとユキ、二人を【白昼夢】の中に隠したまま、俺は追っ手の偵察を行うことにした。


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