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あるはずもない予定

 俺は一人で学校へ行く。いつもと異なる通学路は、なんだか少し新鮮だ。


 睦月は来ない。面会できる時間になったら、病院へ行くと言っていた。


「たまには学校行けよ。留年するぞ」


 と言ってはみたものの、


「分かってはいるんです。分かっては……でも……」


 と、睦月は言葉を濁しながらも正人のことを心配しないではいられない様子だった。


 だから、今はそれでもいいと俺は思った。睦月の心の一端に少しだけでも触れられたから、それで前進だということにしよう。


  ***


 学校の授業を終えた後は、野球部用のグラウンドへと俺は向かう。去年、甲子園に出場した野球部に、は専用のグラウンドが学校の方で用意されているのである。


 広々としたグラウンドでは、岸本が中心になって今も練習が繰り広げられている。正人がいない今、投手としてマウンドに立つことになった彼の背中には、プレッシャーも相当かかっていることだろう。


 遠目にそんな姿を眺めていると。


「ほわわぁ! もしかして笹原先輩ですかぁ?」


 と、不意に声をかけられた。


 その声に反応して振り返ってみると、そこにいたのはジャージ姿のちんまい女子生徒であった。ショートボブに、手には縁に雑巾のかかったバケツを提げている。野球部の女子マネージャーだろうか? 胸元には、なぜかひらがなで「もえぎ かな」と名前が刺繍されていた。


「え? あ、いや、確かに笹原だけど……」


「やっぱりぃ! カナカナには一発でわかっちゃいました! もしやカナカナの魅力を噂に聞いて、今日から練習に参加するつもりで来ちゃった感じですね? ビンゴですね?」


「はあ? カナカナの魅力?」


「なにを隠そう、カナカナはこの野球部の美少女マネージャーとして全国的に超有名になる予定なのですよ! 分かりますか、笹原先輩? 強い野球部には必ず必要な存在が。そう、誰もが憧れる美少女マネージャーです!」


「あ、へえ、そう……」


「つまりカナカナのことですよ! ……あ、すみませーん、岸本せんぱーい! 笹原先輩が来てますよー!」


 あ、やべ。


 えっちらおっちらバケツを運びながら、カナカナを自称する少女がグラウンドへと向かうのを後目に、俺はその場から逃げ出した。


 ……それにしても、なんでだろうな。


 俺は自分でも、よく分かっていなかった。野球部の練習を、なんでわざわざ見に来たのかが。


 でも、練習を眺めていて、思ったんだ。


 岸本の投げる球は決して悪くない。リードや采配次第では、強豪校とも渡り合えるはずだろう、って。


 そして気づけば、頭の中で組み立てていた。


 もしも俺がアイツの球を受けるなら、どんな風に投げさせるか……なんてことを。


 ……その予定なんて、あるはずもないのに。

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