私が国王陛下の隠し子ですか?なにかの間違いでは?私は絶対に隣国の王子と結婚なんてしませんから!
私が国王陛下の隠し子ですか?なにかの間違いでは?私は絶対に隣国の王子と結婚なんてしませんから!
「お迎えに上がりました、王女殿下」
「は?」
これは一体、何がどうなっているのでしょうか。
はじめまして、ご機嫌よう。私、クリステル・アルトワと申します。公爵令嬢…のはずなのですが。
「あの、王女殿下って…?」
「詳しいお話は王城にて。さ、こちらの馬車にお乗りください」
「えっ…」
「大丈夫、お義父様とお義母様も一緒にですよ」
「はあ…まあ、それなら…」
ということでお父様とお母様と一緒に王城に拉致られました。どういうことなの。
お父様とお母様は泣いていて、ついにこの日が来たか、とおっしゃっていました。だれか説明プリーズ。
ということで王城に着き謁見の間に通されました。
「おお!来たか、私の愛し子よ!」
そういって国王陛下と王妃陛下は見たこともない優しい笑顔で私を出迎えてくれました。
「あの…愛し子とは…」
「うむ。実は語れば長くなるのだがな…」
ー…
…国王陛下のお話によると。どうやら私は国王陛下の隠し子らしいのです。隠し子といっても不義の子というわけではなく、クリスティーヌ王女殿下の双子の妹だそうで。双子はこの国の王家では不吉なものとされ、妹の方は産まれたその場で殺されるのですが、国王陛下と王妃陛下がそれを拒否し、子供のいなかったお父様とお母様の養子としたのです。ついでに言っておくとお父様とお母様には今は子供がいます。弟一人ですが、優秀な跡取りです。しかしお父様とお母様は私のこともとても可愛がってくださいました。
「それでその…なんで今更…?」
「うむ、実はな…お前には王家に復帰してもらい、隣国の王太子殿の婚約者になって欲しいのだ」
「!?…いや、あの、隣国の王太子殿下にはクリスティーヌ王女殿下がいるのでは…?」
「いや、その…恥ずかしい話だが…」
「クリスティーヌ王女殿下が病弱だからですか?」
「いや…それがなぁ」
「私にはグウェナエル・ヴァロアという婚約者がいます。仮に私が王家に復帰しても、ヴァロア家は公爵家。ウェルが婚約者のままでも問題ないはずです。私達が仲睦まじい婚約者同士というのは国王陛下も王妃陛下もご承知のはず。愛し子だというのなら、どうか私達の仲を引き裂かないで下さい」
「うむ…それは…それは、すまぬ。しかし、我が国は是非とも王太子殿に王女を嫁がせねばならぬのだ」
「ですから、クリスティーヌ王女殿下がいるではありませんか。病弱だからと言っても、隣国の王太子殿下は拒否されないと思いますが?」
隣国の王太子殿下は優しく優秀な方として有名だ。そんなことで婚約者を捨てるとは思えない。
「ううむ…多分、実際に会ってみた方がいいだろうな」
「え?」
「我が愛し子、クリスティーヌは私達が甘やかし過ぎたせいでちょっと…人目に晒せない状態でな…」
「だから病弱という設定にして王城から一歩も出していないのよ…」
「…あー」
なんとなく話が見えてきた。そんな何かしら酷い状態の王女殿下を隣国の王太子殿下に嫁がせるわけにいかないから、私に白羽の矢を立てたと。
「…とりあえず、クリスティーヌ王女殿下に会わせてください」
「わかった」
ー…
クリスティーヌ王女殿下の部屋に入る。
そこには…
醜い豚と牛蛙の間の子がいた。
とりあえず挨拶をしましたけれど無視されました。国王陛下と王妃陛下はクリスティーヌ王女殿下に挨拶するように叱ったのですが、それも無視してふいっと顔を背けられました。
豚と牛蛙の間の子がそんな振る舞いをすることが面白くて面白くて、思わず吹き出したら、クリスティーヌ王女殿下は激怒されました。
手を握り足で地団駄を踏みながら、何がおかしいの!と叫びます。
もうそれが面白くて面白くて、大笑いしてしまいました。
私が大笑いしている間にクリスティーヌ王女殿下が叫んでいたことによると、どうやらクリスティーヌ王女殿下を崇め奉れということらしいです。意味不。
いつもクリスティーヌ王女殿下のことを考え、クリスティーヌ王女殿下のためになることを一番にし、クリスティーヌ王女殿下を大切に大切に甘やかせとのこと。
なにかのコントかなにかですか?
牛蛙みたいな顔の豚みたいなデブがなにをおっしゃっているんですか。無理無理無理無理無理。
「クリスティーヌ王女殿下。まずは鏡を見ましょう」
「は?」
「そんな見た目じゃ王女として崇め奉られるどころか豚と牛蛙の間の子として蔑まれるだけです」
「は!?あんた、私を誰だと思って…!」
「クリスティーヌ王女殿下。私の双子の姉ですわ」
「…えっ?貴女が、お父様が言っていた、私の生き別れの、妹…?」
「ええ、そうです」
現実を見たクリスティーヌ王女殿下は愕然とする。それはそうだ。自分は醜く肥えた豚。一方よく似ているはずの妹は、…自分でいうのもなんですが、スレンダーなナイスバディ。そして美人。クリスティーヌ王女殿下。まずは痩せましょう。
「…そ、そんな」
「…というわけだ。どうか隣国の王太子殿と婚約を」
「え!?」
さらにクリスティーヌ王女殿下は愕然とする。今まで婚約者として恋い焦がれていたであろう隣国の王太子殿下を取られそうになっているのである。しかし私にはその気は一切ない。
「国王陛下」
「うん?」
「まだ私達姉妹は学生の身。隣国に嫁ぐまでには時間があります」
「ああ」
「ですから、あと三年。私とクリスティーヌ王女殿下の卒業…といってもまあ、クリスティーヌ王女殿下は病弱設定で閉じ込められているのでストレートで卒業できるかはわかりませんが…それまで婚約者はそのままに出来ませんか?」
「いや、しかし…」
「私はウェルを愛しているので隣国の王太子殿下に嫁ぐ気はありません。ですが、その為ならなんでも出来ます」
「え?」
「この三年の間に、クリスティーヌ王女殿下を変身させてみせます。だから、それまではどうか、ウェルの婚約者のままにしてください」
「…うむ。クリスティーヌにその気があれば、それでもいい。クリスティーヌ、どうする?」
「…わ、わかりましたわ。ぜひ、ご指導お願いしますわ」
そう言って私に頭を下げてくるクリスティーヌ王女殿下。よっぽど私が双子の妹であることと、隣国の王太子殿下を取られそうなのがショックだったのね。
「では、クリスティーヌのことを任せてもいいか?クリステル」
「はい、お任せください」
こうして、私のクリスティーヌ王女殿下改造計画は始まった。
ー…
「クリスティーヌ王女殿下にはこれから、見た目と言葉遣いと礼儀作法と振る舞いと勉強を頑張っていただきます」
「は、はい」
「ということで、魔法で貴女の身体をコントロールさせていただきます」
「えっ」
「ということで中庭を走ってこーい!」
魔法でクリスティーヌ王女殿下の身体をコントロールし、走り込みを行う。疲れても疲れても、治癒魔法で回復させ何度も走らせる。ついでに美しい言葉遣いでないと喋れない魔法と、正しい礼儀作法でないと動けない魔法、自分勝手な振る舞いは出来ない魔法もかけておく。
朝から晩までずっとその調子で、眠る時も魔法を使い、夢の中で勉強をしていただく。夢というのは不思議なもので、十時間しか寝ていなくても、夢の中では二十時間勉強出来るのだ。
こうしてクリスティーヌ王女殿下改造計画は完璧だった。
ついでに言っておくと、クリスティーヌ王女殿下改造計画中も私とウェルはラブラブいちゃいちゃしていた。具体的に言うと、デートしたり、膝枕や腕枕をされたりしたり、手作りのお弁当やケーキを食べさせあったり、何をするでもなくただ愛を語り合ったり。とても有意義な時間でした。
ー…
クリスティーヌ王女殿下改造計画から三年が経ち、計画は順調に進んでいた。というか本当に完璧だった。
まず、豚と牛蛙の間の子のような見た目は美しく変貌し、私と隣に立つとどっちがどっちかわからない程になった。言葉遣いも魔法がなくても美しいものになり、礼儀作法も完璧にマスターし、自分勝手な振る舞いも鳴りを潜めた。そして勉強の方も出来るようになり、学園もストレートで卒業できるまでになった。
そして今日、クリスティーヌ王女殿下は隣国の王太子殿下に嫁がれる。
「あの…ありがとう、クリステル。こんなに私に尽くしてくれて。私、おかげで変われたわ。これで幸せになれる。本当にありがとう」
涙ぐみながらお礼を言ってくれるお姉様。お父様とお母様も感極まった表情。
「お姉様こそ、私に付き合ってくださってありがとうございました。どうか、隣国でもお幸せになってくださいね、お姉様」
そうしてお姉様は嫁いでいった。お姉様が遠くに行ってしまった感傷に浸る私を、ウェルは優しく抱きしめてくれる。お父様とお母様はそれを見て、無理矢理隣国の王太子殿下に嫁がせなくて良かったといってくれた。育ての親であるアルトワ公爵家のお義父様もお義母様も、お姉様のご結婚をお祝いしてくれて、さらに私とウェルの仲睦まじい様子を見て喜んでくれた。
次は私の番。ウェルとの幸せな結婚に向けて、頑張ります!
こうして豚と牛蛙の間の子は幸せになれましたとさ
もちろんこの後クリステルも幸せになれました