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転生先が、悪役アンデッド姫だなんて聞いてない!  作者: 夏野あさがお


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4. いよいよ婚約者様と対面です!



 私は2歳の誕生日を迎えた。

 マリーがお城から去ってしまって寂しくなったが、辞めていったメイドの代わりに新しいメイド達がたくさんお城に入って来た。見慣れないゾンビには、まだビクビクしてしまうので、彼女らに早く慣れてしまいたい。

 薬を作るきっかけとなったマリーはもういないが、その後も薬の開発を続けている。カビ取り剤入りボディークリームや腐敗防止剤入り入浴剤、そして髪をツヤツヤにするコンディショナーがお城のみんなに喜ばれたことで、調子に乗ってしまったのもある。

 今は日焼け止めクリーム…というより、太陽の光から、肌を保護する薬を開発中だ。薬草の世話をしてくれている使用人たちの肌が、日中の炎天下のもとで、カラカラに乾いてひび割れているのを見たからだ。真夏の炎天下での畑作業は、ゾンビのお肌に良くないのだ。



「姫様、これは一体、どういうことですかな?」


 白衣を着た白髪のゾンビが、私の開発したボディークリームの瓶を持って訪ねて来た。彼は私が生まれた時からお城に出入りしている王族付きの医師、ディカフェス先生だ。

 薬に何か問題があったのだろうかと首を傾げる。


「えっと、そのお薬がどうかしましたか? お城のみんなに使ってもらって、ちゃんと効果が出ていると思っていたんですが…」


 ディカフェス医師は、渋い顔でじろりと私を睨んだあと、ため息をついた。


「私のところでも薬を作ったり、薬草を使ったり、他国から薬を取り寄せたこともございます。こういった物を作るなら、私に声を掛けていただきたかったですな」


「あっ!…そうですよね、すみません…。まず、先生に相談するべきでした…」


 医者に相談するなんてことは、すっかり頭から抜けていた。彼を抜きにして、全部、独学で作ってしまったが、専門家なのに頼りにされなかったことを怒っているんだろうか。

 だが、ディカフェスはゆっくり頭を振った。


「いやいや、姫様。この薬草の配分量は、どうやって決められたのですか? 書物には、詳しく書かれていないと思うのですが…」


「ああ、適当です」


 「はあ?」と、ディカフェスは呆れたような弱弱しい声を上げた。


「…? 適当に砕いて、適当に薄めたり、他の素材を混ぜたり、香りをつけたり、全部適当ですけど」


 ディカフェスは大きく目を開け、パチパチと瞬きを繰り返したあと、肩を落とし項垂れた。


「はああああああああ…。なるほど、分かりました。そういう事ですか。さすが神の恩恵を受けしお子だ。はあああああああああ…」


「あの…、先生?」


 私が呼び止めるのを無視して、ガックリと項垂れたまま、ディカフェスは「失礼します」と部屋から出て行った。


「…なんだったの?」


 茫然と医師を見送った私に、マリーの代わりに私付きのメイドとなったニーナが言いにくそうに口を開いた。


「彼は若い頃から優秀な医師だったみたいです。その腕を買われて、10年ほど前から、王家付きとなって、この国一番の名医と言われています。彼が独学で作った薬は、今まであった薬より効き目のあるものが多いのですが…。姫様の作った薬のほうが、そのう…断然、上ですから」


 え…そうなの? 私の作った薬のほうが上なの!? 素人が適当に作った薬のほうが!?!?

 口を開けて、しばらく固まっていた私だったが、ハッと閃いて納得した。これもまた、神様がくれた能力の一つなんだろう。思い当たることは、それしかない。彼が去り際に言った、「神の恩恵なんちゃら~」というのも、あながち間違いではないのだ。

 私が17歳になった時、オリアナ姫は16歳となり、あの乙女ゲームの舞台が始まるのだ。私はそこで、世界を救わなくてはならない。普通の人とはちょっと違う、便利な能力でももらえなければやっていけない。

 今までの薬作りが順調だったのは、この能力のおかげだったのかあ。そういえば、失敗らしい失敗って、一度もしていないもんね。改良して、もっと効果が高い、いい香りのものは作っているけどね。ディカフェス先生のプライドはへし折ってしまったが、薬作りはこの国の為になることだし、仕方のないことだと思う。彼にはこれをバネにして、医師としての腕を、いっそう上げてもらいたいと願う。


 こうして、薬の研究を続け、保湿オイルや肌パック、パサついた髪にやさしいシャンプー、薬用ボディソープなど種類もどんどん増え、城に住む者はますます健康的に、美しくなっていった。肌はすべすべで潤っているし、髪はつやつやでサラサラ。多少、顔色が悪いが、もう普通の人間と、さほど見た目は変わらないのではないだろうか…? 梅雨の時期も、あの腐ったにおいがお城に充満することはなくなっていった。



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 お城の中に、ゾンビっぽい見た目の者がいなくなり、バラの強烈な匂いは相変わらずだが、梅雨時の腐敗臭もなくなり、快適な環境で、すくすくと大きくなった私は、先日、無事に5歳の誕生日を迎えた。

 この国の財政難は変わらず、誕生日といっても、お父様お母様と、お城の使用人たちに祝ってもらっただけだ。世に聞く、貴族がこぞってお祝いに来るなんてことはない。お金がかかることは一切なしだ。

 誕生日から数日後、お父様から私に来訪者が来ると告げられた。今まで城の敷地内から一歩も外へ出たことがない5歳の私に、城外に知り合いなどいない。いったい誰だろうと、大きな目を見開く。


「外相を務めるコールドウェル侯爵を知っているかな? 彼と、彼の息子がお前に会いに来る。彼の息子はお前より一つ上だ。これまで、同じ年頃の者とは会ったことがなかっただろう? やつの息子なら、いい遊び相手になるだろう」


 お父様は目を細めて微笑んだ。

 コールドウェル侯爵とその息子!! いよいよか…!と、ゴクリと唾を飲み込む。


 知能の高さ故に、私の王女教育は2歳から始められた。貴族の名前や家族構成はすべて頭の中にある。こんなことまで覚えなければならないとは、王族や貴族って大変だ。

 貴族の中で注目していたのが、このコールドウェル侯爵家だ。この家の息子マテウス・コールドウェルこそが、あのゲームの攻略対象者の中の1人で、将来、私の婚約者となる人物なのだ!

 彼はあのゲームの中で唯一、王子様ではなく、貴族である。一人っ子の私が国外追放になった後に、国内最有力貴族で能力の高いマテウスが王位を継ぐことになる。

 ちなみに、彼がオリアナ姫と結ばれるルートだけが、イザメリーラが生き残るただ一つのルートなのだ! 国外追放はされるが、命は助かる。ついでに、ここアンデッド王国が救われる唯一のルートでもある。

 そう、彼がこの国の救世主なのだ! 彼がヒロインを射止められるかどうかで、アンデッド王国の運命が大きく変わる。私は恋のキューピットとなって、二人を上手くくっつけなければならない。


 神の部屋であのゲームをやった後、私はヒロインが冥界の王子とさえ結ばれなければ世界が救われると思っていた。だって、その他のルートでは、ある国とある王女が悲惨な目に会うだけだったから…。そのある国というのが、ここ、アンデッド王国だ。その時は、アンデッド王国の滅亡なんて、全然、気にしていなかった。ゾンビの国が滅んで、そこの気持ちの悪い王女が死んで、ハッピーエンドだと思っていたのだ。

 しかし、神様は言っていた。「善良な民が死んでしまうかもしれない」と。そして、私はアンデッド王国に生まれた。それは、どういう意味なのか。そうなのだ。神が私に負わせた使命は、アンデッド王国を救うことだったのだ! 

 それならそうと、はっきり言っといてもらいたかったな…。はあ…、紛らわしい…。

 という訳で、アンデッド王国を救うには、他の5つのルートをすべて潰し、オリアナ姫にマテウスルートへと進んでもらわなければならない。たとえ、私が国外追放になろうとも…!!

 最大の目標は、マテウスと婚約しないで、彼とオリアナをくっつけること! そうすれば、私の国外追放もなくなるかもしれない!

 拳をギュッと握りしめると、目の奥に炎を宿し、まだ来ぬ未来へ闘志を燃やした。


 


2日後、昼食を済ませ待っていると、コールドウェル侯爵親子の来訪を告げられた。私はニーナに手伝ってもらい、自身の姿を確認する。私の勝負服は真っ赤なドレスだ。幾重ものレースで飾られたスカートの裾をサッと翻す。

 よし! 行きますかー!!

 気合を入れ頷くと、彼等を待たせている部屋へと向かう。王女らしく胸を張り、ゆっくりとした足取りで扉の中へと入り、上品に見えるよう微笑んだ。

 今後の展開のため、彼等には、なるべく印象を良くしておきたい。特に息子のマテウスの協力なくしては、この国を救えないのだ。婚約話はさっさと穏便に流れてもらって、彼の友人ポジションを確保したい!


「初めまして、コールドウェル侯爵閣下、そしてマテウス様。お会い出来て嬉しいですわ」


 王女であるので、礼はしない。品よく微笑むだけだ。

 コールドウェル侯爵は、背の高いダンディーなゾンビだった。顔色は悪いがなかなかの美形で、優し気な目元をしている。息子のマテウスに目をやると、まだ幼い彼はゲームの中の彼とは違い、少女のような見た目をしている。しかし、さすがに美しい。こんな綺麗なゾンビは初めて見た。

 彼の目は大きく見開き、口を少し開けてこちらを凝視している。何か驚く事でもあったのかな…?

 私はハッとして口元に手をやった。口元を確認して、何もついてないことが分かると、小さく息を吐く。


 ゲームの中でいつもイザメリーラが血を吐いていたのだが、その訳が最近、ようやく分かったのである。

 年齢が上がり、奥歯が生えてきた私は、よく口の中を噛むようになった。食べている時、しゃべっている時、無意識に所かまわず噛みまくってしまうのだ。痛みを感じないから、口の中が傷だらけになっていることに気づけない。そう、ゾンビである事の弊害がここに。知らない間に口の中に溜まった血が、勝手に口端からこぼれ出てしまうのだ! うえ~ん!

 私の勝負ドレスが赤色なのも、この血が原因だった。淡い色のドレスだと、滴り落ちた血が目立ってしまう。真っ赤なドレスは誤魔化しがきくのだ。トホホ…

 しかし、血のせいじゃないとすると、マテウスは一体何に驚いてるんだろう…?


 疑問に思いながらも、微笑みを浮かべたまま、親子を見比べていた。

 コールドウェル侯爵は眩しそうに目を細め、前に進み出ると私の足元に片膝を付き、私の手をうやうやしく取って口元へ運ぶ。


「このように美しく聡明な姫君にお会い出来たこと、誠に光栄でございます。息子共々、今後とも、どうぞ末永くよろしくお願いいたします」


 5歳の幼女相手に大げさすぎる挨拶だ。もっとフレンドリーでいいんだよ?

彼に続いて、マテウスも自身の名前を告げた。


「マテウスです。よろしく」


 父親とは反対に、簡潔過ぎる挨拶だ。いや、まだ6歳だし、普通そんなもんか?

 私達は堅苦しい挨拶が済むと、中庭が見えるテラスに移動した。待ち構えていたメイドたちが、いそいそとお茶の用意を始めた。テーブルの上には、薬草や野花をつかった焼き菓子が並べられた。「食べられる野草」という本についていた野草を使ったお菓子だ。私の希望で始まった試みは、既に城内では定番になっていた。今日使っている野草は、ポーションの材料にもなっているもので、体力回復に効果がある。ポーションにしなくても、料理やお菓子に混ぜて食べれば、それなりに効果がある。


「日頃、外相として、休みなく働かれていると父から伺いました。こちらのお菓子に使われているシミール草は、ポーションにも使われているものですので、疲れたお体に良いのではと思い、用意させていただきました」


「体力回復効果ですな。さすが姫様は良くご存じだ。この中庭に植わっているのですかな?」


「はい、あちら一面は薬の材料になる野草ですが、こちらは食材として利用するものが植えてあります。見た目はあまりよろしくありませんが、どれも実用的で役に立つ草花です」


 以前、芝が植えられ、花壇にはバラを始め、季節の花々が咲き誇っていた中庭は、今はそのほとんどが薬草畑になっている。薬草の花は小さく地味で、見た目はあまり綺麗ではない。お城には似つかわしくないが、私に甘々な王は、私の希望を最優先にしてくれていた。

 お茶とお菓子をいただきながら、他愛のない話をした後、コールドウェル侯爵はマテウスに目配せをして退出した。その目は「頑張るんだぞ!」と告げていた。

 マテウスは挙動不審気味に、もじもじと身じろぎしている。私とコールドウェル侯爵の話にも全然加わってこないし、最初に凝視してきてから、今度は反対に全くこっちを見ようとしない。悪役姫イザメリーラである私は、彼の中で根本的に受け入れられない何かを持っているのだろうか…? ゲームの中では、そうとう嫌われてるようだったし…

 しかし、好かれることはなくても、協力し合える関係は築いておきたい! だが、必死さが前面に出過ぎてしまうと、かえって余計に嫌われるかも…

 グッと気合を入れなおすと、なるべく自然な笑顔を心掛けながら話しかけた。


「ねえ、ちょっとお庭に出てみない? 今日は天気もいいし、ねっ!」


 片手を差し出したが、マテウスはもじもじと俯いて、手を後ろに隠してしまう。うえ!? まだ何もしてないのに、すでに何故か嫌われちゃってる…!?

 絶望的な気分になりながらも、中庭へ足を向けると、彼も離れて後ろをついてくる。とりあえず従ってくれてることにホッとする。悪役令嬢と攻略対象者って、仲良くなれない呪いのようなものでもあるのかい…?


 距離をとり後ろを歩くマテウスを振り返りながら、必死に薬草の説明を続けた。彼は聞いているのかいないのか、こちらを見ることはなく、しかし歩きながら、薬草をジッと見つめていた。

 私は小さな白い花を一輪摘むと、それをマテウスに差し出した。


「私、この花の匂いが一番好きなんだー。お城の人達はバラの香りが好きみたいだけど、匂いが強すぎてちょっと苦手なんだよね」


 マテウスはそっと花を受け取ると、鼻に近づけ匂いを嗅いだ。私を全く無視しているわけではなさそうだ。


 「どう、どう?」と伺う私から顔を背けながら、「うん、いい匂い」と返事をした。最初の挨拶に続き、やっと二言目だ。

 嬉しくなって「でしょう?」と私も花の匂いを嗅ごうと近づくと、マテウスは驚いて後ろに下がった。

 やっぱり嫌われてるー! ハッ、いや、まさか…!


「えっと…、私ってくさい?」


 腕のにおいをクンクンと嗅いでみる。私も自身の作った薬入りクリームを毎日使っているから、大丈夫だと思っていたんだけど…。お城のみんなは私を甘やかすばっかりで、注意をされたり否定的な意見を言われたりすることがない。においが変だったり、姿がおかしかったりしても、何も言ってもらえないかもしれないのだ。マテウスは子供だし、お城の者ではないので、率直な意見が聞けるかもしれない。裸の王様は嫌なので、どんどんダメだししてもらおう! 


「それとも、どこか変な所があるの? 怒らないから教えて!?」


 そう告げると、マテウスは目をギュッとつぶって、ブンブンと勢いよく首を横に振った。狂ったように振り続けている。

 その勢いに驚いて、私は焦る。ゾンビは痛みを感じないので、体に無茶な負荷をかけて、痛めてしまう事がよくあるのだ。上手く動かなくなったり、変な位置で固定されてしまう例もある。


「ダメだよ、そんな勢いよく振っちゃ! 首がおかしくなっちゃうよ!?」

 

 私はマテウスの頭を両手で抱きしめるように抱えた。すると、マテウスは私の胸に顔を押し付けられた状態で動きを止めた。そうっと放すと、彼の頬が薄いピンク色に染まっていた。ゾンビは基本、血の気のない顔色をしているので、ピンク色に染まるのはとても珍しい。人間でいったら、ありえないほどに真っ赤な状態だ。

 あれ? まさかマテウスったら、私に抱きしめられて照れてるのかな? まだ6歳だってのに、おませさんか? いや、それはないか…。ゲームの中ではあんなに嫌われていたのだ。彼はあの、ゆるふわなオリアナ姫みたいな癒し系の女の子が好きなんだしね。私はよく言えば繊細そうな美人。悪く言えば抜け目のない神経質そうな見た目をしている。


「ごめん、苦しかった? 大丈夫?」


「ああ…平気だ」


 彼の顔色はすぐに元に戻った。やっぱり強く締めすぎて、窒息しそうになっていただけらしい。


 その後、やっと普通にしゃべってくれるようになったマテウスに調子をよくした私は、彼に対する失言を連発し、彼を猛烈に怒らせてしまったのだ!

 ああ…なんと私のそそっかしいことよ…! またしてもやってもうた…



  

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