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38. ルート確定!?

 お待たせしましたー!

 プライベートが忙しくて、更新が遅くなってしまってすいません。



「リパーフ様、安心してください! 私が何とかしてみせます!」


 オリアナ姫は力強く言った。

 さすが世界樹の精の生まれ変わりで、神様の夢の中で主役を務めるだけある。

 悪役アンデッド姫の私なんて、準備万端で挑んだにもかかわらず、もう少しで死ぬところだったというのに。

 ハッ、オリアナ姫に何かあったら大変だ!

 まさか勢いだけで言ったんじゃないよね!?

 私は身を乗り出して尋ねた。


「オリアナ様? 何か、良い案がおありなのですよね?」


「ええ。確実な方法かは分かりませんが、癒しの魔法で、リパーフ様の力を抑えることが出来るかもしれません」


「え? 癒しの魔法で…ですか?」


「はい。私の使う癒しの魔法は、傷を癒すだけではなく、荒ぶった心を鎮める作用もあるのです。リパーフ様に効くかどうかは分かりませんが、試してみる価値はあると思います」


「な、なるほど!」


 う~ん、さすがオリアナ姫!

 効くかどうか分からないと言いつつ、その目は自信に満ちている。

 実際、ゲームの中では暴れるリパーフを鎮め、正気に戻していたしね。

 あれ?

 もしかして、その魔法って、ゲームの中でも使ってたんじゃ?

 愛の力だと思っていたのは、実は、魔法の力だったとか!?

 前世も今世も魔法が使えない身だから、見ても分からなかっただけかもしれない。


「おい、オリアナ、いいのか? そんな危ない役を引き受けちまって。お前を襲って、殺しちまうかもしれねえんだぞ?」


 リパーフに鋭い視線を向けられたオリアナ姫は、胸の前でぎゅっと両手を握りしめ、しっかりとリパーフを見据えた。


「やります! 私は、リパーフ様をお救いしたいのです! 大丈夫。きっと正気に戻してみせます!」


 頼もしいわぁ!

 こういう所が主人公っぽいよなぁ。

 さすがヒロインだ。

 同じセリフを悪人顔の私が言ったら、嘘っぽく聞こえるんだろうなぁ。

 リパーフはニカッと笑って頷いた。


「よし、じゃあ頼んだ、オリアナ!」



 その時、シュレイ様がおずおずと口を開いた。


「あっ、あの…ちょっと、よろしいでしょうか? 気になることがあるんですが…」


「どうしましたか、シュレイ様?」


「あのー…私、疑問に思って、今日一日、ずっと考えていたのです。私は獣人の中では力が強いほうとはいえ、リパーフ様に比べれば、力の差は歴然。遠く及びませんの。それなのに、なぜか昨夜は意識を失い、暴走してしまいました。それが本当に不思議で不思議で…。それで、考えていて、思い出したのです! 暴走する直前に、謎の男の声がしたことを…! それが、今回の暴走と関係があるかもしれません!」


「謎の…男の声?」


「はい、確かに聞こえました! 部屋の中には私一人でしたのに、囁くような男の声が、すぐ耳元で…!」


 その場が一瞬シーンと静まった。

 え? 誰もいないのに声がしたの? それって幽霊!?

 シュレイ様の気のせいって線もあるけど、こんな風に言い切るんだから、それはないか…?


「ふーん…。で? その男はなんて言っていたんだい?」


 沈黙を破ってガオザンが尋ねる。


「あっ、あの…それは…」


 シュレイ様はチラリと私を見て、言いにくそうにモジモジしたのち、うつむくと、小さな声で告げる。


「あ、あの…アンデッドの王女を、噛み殺せ…と」


「えっ!?」


「何!?」


 私は驚きの声を上げ、マテウスは青い顔をして私を見た。

 私を、噛み殺せ!?


「ああっ、そうだ! 俺も思い出した!」


 リパーフが大きく膝を打つ。


「そうだ、そうだ! 俺も聞こえた! 俺の場合は、確か『アンデッドの王女はこの世のものとは思えない程、美味だぞ? 食べてみろ』だったかな? 獣化する直前にも聞こえたが…うーん、何日か前から、幻聴のように何度も聞こえていた気がする。てっきり俺の願望が頭の中に響いているのかと思ったんだが…。そうか、あれは、誰かが俺に囁きかけていたのか…」


 ええー!? 何それ!?

 背中がゾクッとした。


 ん? あれ? 幻聴のような男の声といえば…?


「…そういえば、ライフルが壊れた時…あの時、誰かの声がしたような…?」


 私の呟きに、オリアナ姫が反応した。


「えっ、ライフル…ですか?」


「ハッ! あっ、いえ! あの…ライ、ライ…そう、ライオン! ライオンですわ! ライオンになったリパーフ様に襲われた時、聞こえたのです! 私にも!」


 ギャー! どうしよう~

 ライフルなんて持ち込んだのがバレたら大変だ!

 汗をかきながら必死に言い訳をした。

 オリアナ姫は「まあっ!」と口を押さえて驚いただけで、それ以上は追求してこない。

 ホッ…

 あっぶな~。思いっきり油断してたよ。

 魔道具を持ち込んだことは、誰にも、特にこの国の人には、絶対に知られちゃいけない。

 バレたら国外へ強制退去させられてしまう。

 まだゲームは序盤。折り返し地点にも達していないのだから。

 うっ、背中に突き刺さるエミリとレンバートの視線が痛い。

 痛みを感じないアンデッドでも、精神的痛みは感じる様だ。

 うん。オリアナ姫の前では、うっかりに気を付けなければ。

 レンバートから毒舌攻撃をくらってしまう。

 

 …それにしても、不気味だ。

 なんなの? あの声?

 状況から考えると、リパーフやシュレイ様が聞いた声の主と同一人物…?

 アンデッドの王女を咬み殺せって、なに!? 怖いわ!

 明らかに私狙いじゃんか~!


 男の正体については、結局誰も心当たりはなく、話はここで終わった。



 それから夜は更け…


 リパーフとシュレイ様は彼らの護衛によって、それぞれ太い柱に鎖でがんじがらめに縛り付けられ、動けなくされた。

 それをオリアナ姫、ガオザン、マテウス、私が見守る。

 まだ青い月は昇っておらず、彼らは人の姿のまま、大人しく縛られている。

 マテウスは私に近づくと、耳元で囁く。

 ち、近いし、耳に息がかかって、変に意識してしまいそう。

 いつぞやのお返しか!?


「彼らの証言から、どうやら、裏で糸を引く人物がいるようだ。青い月もそいつの仕業だろう。正体はまだ分からないが、そいつの狙いは、君だ、イザメリーラ。今夜は誰にも見つからない様、身を潜めていてくれ」


「うっ、そうね。…分かったわ」


 真面目な話だった。

 「頼むぞ」と、マテウスは私の護衛に指示を出す。

 ボイルとベントはピシッと背筋を伸ばし、ハッ!と頷くと、「行きましょう」と私の背を押した。

 なあんか、私が命令した時より、マテウスからの命令の方がちゃんと聞くんだよね、この二人。

 王女の私の方が偉いはずなんだけどなぁ。…解せぬ。


「あ、そうだ。ちょっと待って。マテウス、これを!」


 私は思い出して、ドレスのポケットから傷薬をゴロゴロと何本も取り出す。

 ふんわりと膨らんだドレスのポケットには、まるでドラえ〇んのように、たくさんの便利道具が入っているのだ。

 マテウスの手を取り、小さな薬瓶を乗せられるだけ乗せると、その手をギュッと両手で握った。

 マテウスはカチリと固まり、頬をピンクに染める。


 ありゃ? このくらいで?

 マテウスったら、男らしく大人っぽくなって、ますます素敵になっても、こういう反応は昔と変わらず、ちょっと子供っぽくて可愛いんだよね~

 ウブっていうか、純っていうかさぁ。

 恋愛では無双できそうなほど絶世のイケメンなのに、中身はこんなに奥手で純情なんて。

 なにこれ? ギャップ萌え? 鼻血が出そう。

 実際はよだれと一緒に口の中に溜まった血が垂れ出そうで、慌ててハンカチで口端を拭いた。

 お互い大人になったと言っても、幼馴染みなんだし、手を繋いだことぐらいある。

 なのに、未だにこんな反応をするとは。

 女性に免疫がなさすぎじゃなかろうか?

 悪い女に引っかからないか、ちょっと心配になるレベルだ。

 一応、こんな私でも異性として意識してもらえているようで、ちょっと照れくさい。

 

「頑張ってね」


 激励の気持ちを込めて、もう一度ギュッと手を握った。

 嫌がるかと思ったけど、大人しく手を握られている。

 可愛らしいマテウスを堪能してしまった。

 ご馳走様です。


 今夜は、マテウスが言うように隠れていようと思う。

 本当なら、逃げ出すようなマネはしたくない。

 リパーフとシュレイ様が獣化を抑えるのを、この目でちゃんと見届けたい。

 だけど、狙いが私なら、彼らの目に触れないところにいた方がいい。

 私がいることで、暴走を余計に助長させてしまうかもしれないからね。


 今夜もトマスさん夫妻には、昨夜と同じ、近くの村に避難してもらっている。

 私とエミリはボイルとベントに張ってもらった森の中のテントで一夜を過ごす。

 そして、昨夜とは違い見張りの騎士にたたき起こされる事なく、無事に朝を迎えることが出来た。



 朝日を浴びながら宿屋に戻ってみると、二階から駆け下りて来たシュレイ様に、いきなり抱きつかれた。

 受け止めた私はフラついて、壁に思いっ切り頭をぶつけた。

 どこででも寝られる図太い神経を持っていても、さすがにテントの中で熟睡とはいかず、昨夜に続き、二日連続あんまり寝れていなかった。

 完全な寝不足状態だ。

 ぶつけた時、結構な音がしたけど、大丈夫かな?

 痛みがないので、怪我をしたかどうか判断がつかないのがアンデッドの不便なところだ。

 そっと後頭部を触ったら、ポッコリと膨らんでいた。

 たんこぶが出来てしまったようだ。トホホ…


「やりましたわ、イザメリーラ様! 私、自分の力で獣化を抑えることができましたのよ!」


「まあ、それは! おめでとうございます、シュレイ様!」


 向こうから抱きついてきたのをいいことに、ここぞとばかりに、シュレイ様の引き締まった細い腰を抱きしめ返した。

 彼女の筋肉質の体は、予想よりガッチリとしていて硬い。

 ほうほう、やっぱり人間とは体つきが違うのね。体脂肪率低そう。

 あ…髪の毛サラサラ、いい匂い~


 後から下りてきたオリアナ姫が、抱き合う私たちを見て微笑んだ。


「あ、オリアナ様、おはようございます。昨夜はお二人を助けてくださって、ありがとうございます」


「いいえ。ふふっ、お役に立てて良かったですわ」

 

 オリアナ姫も寝不足のはずなのに、全くそうは見えない。

 いつものようにツヤツヤのお肌と顔色だ。

 フワフワの髪を揺らしながら、花のように優しく微笑んだ。

 おおうっ、目の前には美女、そしてこっちには美少女!

 朝から目に嬉しい。 

 というか、ほとんど全員美形という、この面子が凄い。

 リパーフとガオザン、マテウスも出てきて、みんな並ぶと圧巻だ。

 目が、目が~~~! キラキラしていて眩しい!!

 昨日も見たけど、朝の光の中で見ると、また迫力がある。


 オリアナ姫の隣に並んだリパーフが、親しげに彼女の肩を抱いた。


「いやー、癒しの魔法ってのは大したもんだな。お前のおかげで、あの激しい衝動を抑え込むことができた。改めて礼を言うぜ、オリアナ!」


 肩に乗せていた手で、今度は彼女の頭を撫でた。

 オリアナ姫はニコニコと微笑んで撫でられている。

 おやおやおやおやーー?

 お二人さん、いい雰囲気じゃないですか? 一晩ですっかり仲良くなっちゃって~

 ということは、もう私は、お払い箱かな?

 嫁に来い来いの矛先は、オリアナ姫に移ったっぽいね。

 逃れられて、ホッとしたわー。やれやれ。


「おーい、イザメリーラ、もう大丈夫だぞー! 安心して嫁に来い!」


「……」


 ホッとするのは早かったわー



 その後、戻って来たトマスさんとネラさんは宿屋の状態を怖々確認してから、朝食作りを開始した。

 とりあえずは昨日と同じ状態で、宿屋が崩壊せず、ちゃんと建っていたことに安心したようだ。

 一同は昨夜のように食堂のテーブルに腰掛け、朝食が出来上がるのを待つこととなった。


 あ、そうだ!

 もうこれで二人が暴走する心配がなくなったことだし、今のうちにさっさと、あの件を話し合っておかなければ!

 厳しい目つきで睨みつける私に、リパーフは「うっ!?」とのけぞった。


「な、なんだ!?」

 

 私はリパーフに体を寄せると、声をおとして尋ねる。


「リパーフ様、宿屋の修繕費用ですが…、どれくらい持てそうですか?」


「あー、その件か…。お前、その目つき、よっぽど払いたくないのか? お前んとこ、財政がヤバいのか?」


「あら、いえ。別に、そういうわけでは…。この場所を選んだのは私ですし、宿が傷付くことは予想しておりましたから、もちろん、ある程度はお支払いしますとも。でもですね、実際に壊したのはそちらですし、多少なりとも支払ってもらえたら、と…」


 現在のアンデッド王国は充分に財政は潤っているし、今回の国際交流会では、いくら出費がかさんでも構わないと、お父様…国王から許しをもらっている。

 だが、前世と今世の幼少期の貧乏だった頃のくせは抜けきっておらず、抑えられる費用は抑えたいのだ。

 リパーフはドン!と厚い筋肉のついた自身の胸を叩いた。


「そうピリピリするな! 任せとけ、費用は全額俺が持つ! 国が払うのを拒否しても、俺個人の資産があるから、そこは心配無用だ! お前が払うことは一切ない!」


「まあ! よろしいんですの!?」


 おお、やった!

 さすが百獣の王ライオン! 太っ腹!!


「お前、この交流会が終わるまで、まだしばらくこの宿屋に滞在するんだろ? 大急ぎで直させよう。そうだ! イザメリーラ、何か希望はあるか? どうせ直すんだから、どっか変えたい所があるなら、今のうちに言っとけ!」


「あら、いいんですの!? うーん…それでしたら、一つお願いがあるんですが…」


 ダメ元でお風呂をお願いしてみた。

 水回りの工事はけっこうな費用がかかる。


「ああ、そういやあ、ここ、風呂がないのか…。よし、わかった! 任せとけ!」


 え、いいの!?


「わあ! ありがとうございます、リパーフ様!」


 私ははしたなく、ピョンピョンと子供のように飛び跳ねて喜んだ。

 お風呂ー、お風呂ー! お風呂が出来るー!

 イザメリーラの喜ぶ様子を、みんなは微笑ましく見ていた。

 マテウスだけは複雑な表情をしている。


「? マテウス?」


 呼びかけると、マテウスは慌てて微笑み、首を横に振った。


「…いや、なんでもない。良かったな」


 リパーフがニヤリと笑う。


「おい、そんなに嬉しいか?」


 私は満面の笑みで、こくこくと頷いた。


「風呂が好きか?」


 私はまた大きく頷く。


「そうか、じゃあ、嫁に来る気になったか?」


 流されて頷きかけて、ハタと止まった。

 いや、それとこれとは関係ないでしょ!

 気前のいいところは見直したけど、気さくで親しみやすい所も好きだけど、ハーレムに入るのは絶対に嫌なんだって!


「それは謹んでお断りします。お忘れですの? 私には、れっきとした婚約者がおりますのよ?」


 胸を張って答える。


「ふん。お前こそ忘れたのか? 一昨日、自分で言っていただろう? 親に決められた政略的婚約なんだと。いい相手ができたら、すぐにでも婚約解消するんだろ? 自分で、そう言っていたじゃないか。なあ?」


 リパーフの視線を受け、シュレイ様もコクリと頷いた。


「えっ?」


 私はキョトンとして固まる。

 そして思い出して、ハッと口を押さえた。

 やべ、確かに! そういえば言っちゃってたわ!

 なんて迂闊な!

 まさかオリアナ姫みたいなモテ娘じゃあるまいし、自分が求婚されるなんて夢にも思ってなかったから、正直なところをペロッと喋っちゃってたー!

 あ、でも、オリアナ姫の前だし、そう思ってもらったほうがいいのか…


 ガタン!と大きな音がして、そちらを見ると、マテウスが真っ青な顔をして立ち上がっていた。

 そして、ふらふらと扉へ向かうと、そのまま外へ出て行ってしまった。


「えっ、あれ? ちょっと、マテウス、どこ行くの!?」


 私達の婚約の内情を勝手にばらしちゃったから、気分を害してしまったのか?

 マテウスの様子が尋常でない気がして、なんだか嫌な予感がした。

 焦った私は勢いよく席から立ち上がり、マテウスの後を追おうとした。

 だが、腕をガッチリと掴まれる。


「ちょ、放してください! リパーフ様!」


「俺達の話がまだ終わってないだろ? 行くな、イザメリーラ!」


「でも!」


 その時、オリアナ姫が宿屋の外へ走り去った。

 マテウスの後を追っていったのだろう。

 手を掴まれたまま、彼らが出て行った扉を見つめる。


「放してください、リパーフ様。申し訳ありませんが、お受けできません」


 深く頭を下げた。


「俺の事が嫌いか? 仕方ないか…。なにしろ、お前の腕を食っちまったんだからな」


「いえ、それは関係ありません。それとは別に…」


「お前に傷を負わせた負い目から言ってるんじゃないぜ? 俺はお前が気に入ったんだ。俺ら獣人族は強い者が好きだ。お前は体力も力もなさそうだし、はっきり言って弱っちそうだ。だが、俺に大怪我をさせられた後も、俺を恐れることなく普通に接してくれた。大した精神力だ。他にも作る飯が美味いとか気取らない所とか、いろいろいい所があるが、心の強さがなにより一番気に入った! なあ、イザメリーラ、俺の所へ嫁に来い! いいだろ!?」


 リパーフは真剣な、真っ直ぐな瞳を向ける。

 私は再び深く頭を下げた。


「申し訳ありません、リパーフ様。あなたが嫌いなわけではないんです。…ですが、どうしても受け入れられない所が。私、一人の奥方を大事にしてくれる方じゃないと、嫌なんです! そこは絶対、譲れません!!」


 リパーフとシュレイ様は、あー…と口を開けた。


「…そうですか。それなら仕方ないですわ。ね、リパーフ様」


「ああ、残念だがな。実はな、その理由で断られることが一番多いんだ。すでに何人に断られたか、もう覚えがない!」


 リパーフはテーブルにバタリと突っ伏した。

 あらら。

 リパーフったら、もうすでに何人にも、覚えきれないほどの女性に求婚して、断られていたの!?

 かなり申し訳ない気持ちで断ったのに、そんなに罪悪感を抱く必要なかったみたい。

 なあんだ。

 それならそうと、さっさと昨日、もっと、きっぱりさっぱりバッサリ断っとけば良かった。

 ハッ、それよりマテウス!


 私が走り出そうとすると、またも腕を掴まれた。


「待って。私も話がある」


 ガオザンがニコリと笑う。

 もうー! 今度はなに!?


 腕を引かれ、ガオザンに向かって倒れ込むと、ガオザンはそれをサッと避けた。

 

「きゃあぁ!」


 そのまま地面に激突するかと思いきや、腕がグイっと引っ張られ体を横抱きにして支えられた。


「もう! 脅かさないでくださいませ、ガオザン様!」


「花火大会、一緒に見に行かないかい?」


「はい!?」


「君と一緒に見たいんだ。驚いた?」


 花火大会。

 毎年夏に行われるという、神樹レスポート王国の名物行事だ。

 事前の説明では、恋人たちの祭りとして有名なのだそうだ。

 男女二人で見れば、恋が叶うという謂れのあるロマンチックな祭りだ。


「…はい? いや、何言ってるんですか!? あ、そうだ。オリアナ姫はどうしたんですか!? 彼女を誘ったらいいじゃないですか!」


 場がシーンとして、気まずい空気に包まれる。

 あれ? なに、この雰囲気?

 いつも余裕の微笑みを浮かべているガオザンの顔が、微妙に曇る。

 苦笑いを浮かべ、頭をかいた。


「うん。昨夜、正式に誘ったんだが、断られてしまってね」


「あ、あら、そうだったんですか。それは、残念でしたね…」


「うん。だけど、君がそんな悲しそうな顔することないよ。オリアナのことは好きだったけど、国の事情からだからね。それほどショックは受けていない。それより大丈夫かい? オリアナは気になる人がいるって言ってたよ?」


「え? それはどういう…」


 ガオザンはニコリと笑った。

 大丈夫?って、なにが? 

 んん? オリアナ姫の気になる人って…まさか!?

 そういえば、オリアナ姫って、やたらマテウスに執着してたんだったわ!  

 三日後に開かれる花火大会ーー

 ゲームの中では、その時、オリアナと花火を一緒に見た者が、オリアナ姫と結ばれる。

 この日、誰と花火を見るかでルートが確定するのだ!

 最悪、冥界の王子ギュレスのルートは絶対に避けたい。

 問題が解決済みのリパーフとガオザンなら、もうアンデッド王国に戦をしかけることはないだろう。

 この二人のどちらかを選んでくれればありがたいんだけど。

 マテウスの希望である、マテウスルートから逸れることになるし。

 オリアナ姫…

 あなたは誰と花火を見るの?




「マテウス様! 大丈夫ですか?」


 オリアナが宿の外へ出ると、マテウスは暗い顔で樹木と向かい合っていた。


「マテウス様…元気を出してください」


 私がお世話を任されたお客様。その中で、4人の王子が心に深い闇を持っていた。

 ドラッフェン王国のエドゥー様。

 フェソェンツ王国のフロー様。

 冥界のギュレス様。

 アンデッド王国のマテウス様。

 世界樹の精の生まれ変わりであるためか、私には特別な能力がある。

 癒しの魔法がその一つ。

 そして、もう一つが、心に闇を持った者を見抜く力だ。

 人々は大なり小なり、みんな心に闇を持っている。

 しかし、この4人の王子の持つ闇は、他の人達とは比べ物にならないほど大きかった。

 その中でも、私が一番気になったのが、マテウス様。

 彼の闇を少しでも軽くすることが出来たら…


「マテウス様の力になりたいんです! 私に出来る事があるなら言ってください!」


「ありがとうございます、オリアナ様」


 マテウスは振り向いて、悲しそうに微笑んだ。

 マテウス様…私には、彼女に向けるような顔は見せてくれないのね…

 でも、私ならきっと、イザメリーラ様に出来ない事でもやれる!

 世界樹は、世界は私の味方だもの!


「3日後に花火大会があります。私、マテウス様と一緒に花火が見たい。オリアスの丘の上で、待ち合わせしませんか?」



 マテウスを探して宿屋から出てきたイザメリーラは、オリアナの言葉を聞いて固まった。




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