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32. 世界樹へ向け出発!



「あのう…、姫様。昨日、何かあったのですか?」

 

 エミリがチラチラとリパーフに目をやりながら私の耳元で小声で聞いてきた。

 あ、そうか。

 心配させてはいけないと思って、リパーフに暴言を吐かれた事は話してないんだった。

 私は「ちょっとね…」と苦笑いを浮かべる。

 人前でクサイと言われて体のにおいを嗅がれたことは、心配させたくないというより、恥ずかしくて言えなかったとも言える。


「どうも、汗臭かったみたいなの」


 なるべく引きつらないよう微笑み顔を作って答えた。


「いや、違うぞ?」


 リパーフが話に割り込んできた。

 小声で話していたのに、バッチリ聞かれてしまったようだ。


「え?」


 それはクサイと思ったのは勘違いだったとか?

 それとも、クサかったけどそれは汗の臭いなんかじゃなくて、別の臭い…例えばアンデッド特有の自分達では気づかない()()だったとかそういう事!?

 ギャー!

 どっちにしても、私の体臭に関する話を大勢の人の前で大声で話すのは勘弁してもらいたい!

 やーめーてー!!

 微笑み顔をキープしたまま、一気に全身から汗が噴き出すのを感じた。

 あ…また汗臭くなってしまう。


「あれな! お前の臭いじゃなかったわ!」


 アッハッハ!と大声で笑いながら、リパーフは明るく言った。


「私がクサかったわけでは、ない…?」


 恐る恐る尋ねると、リパーフはうんうんと大きく頷いた。

 ほっ。なんだ、良かった…

 安心してまたも汗が背中を流れた。

 ヤバイ! 今度こそ本当に汗臭いと言われてしまいそう!


「ああ、それと。あの子をいじめてたわけじゃないんだってな。悪かった」


 「ああ」と思い出して頷く。


「そういえば、シュレイ様が座っておられた場所からはずいぶんと離れていましたのに、私達の声が届いていたのですね?」


 首を傾げると、「ああ、そうだ」とリパーフは頷く。


「俺達は身体能力が人間よりも優れているからな。特に俺やシュレイなんかは獣人たちの中でも優秀だぞ。シュレイは目と耳が良いし、俺は鼻がよく利く。あの臭いに気付いたのは俺だけだったみたいだしな!」


 エヘンと胸を張って答えた。

 「へえ…」とアンデッド一同は感心して獣人たちを見た。

 そういえば、あの短時間で獲物を仕留めてきたし、ちょっと私達の常識では計れない身体能力があるようだ。

 さっきは、エミリが剣を構えて対峙したのに、彼らに警戒した様子は微塵も感じられなかった。

 エミリの剣の腕前はアンデッド王国内ではマスタークラス級だと言われている。

 彼女の剣術など、彼らにとっては脅威とは言えないのだろうか…?

 友好的に接してくれているうちはいいが、もし彼らを敵に回してしまったら?

 流れる汗は止まらない。

 それは夏の気温のせいだけではなかった。



「じゃ、用も済んだし、そろそろ帰るか!」


 リパーフが席を立つ。

 彼のお供も一斉に立ち上がった。

 あ、そうだ! と思いついて少し待ってもらい、人間用のヘアトリートメントを彼に渡した。

 獣人でもこれでいいだろう。


「しっとりサラサラの髪になりますよ。本日はお越しくださいまして、ありがとうございます」


 小さく頭を下げた。

 こっちがお礼を言う事じゃないかもしれないけれど、今後の為にも友好的な関係を築いておきたい。

 命の危険を回避という点が一番大きいが、ただ単に彼の可愛い面を知ってしまったし、美しいシュレイ様共々、仲良くなれたら嬉しい。


「ほう…。こりゃあいいものをもらったな! シュレイが使っているのと同じかな?」


 シュレイ様のツヤツヤした長いストレートヘアを思い浮かべる。

 コンディショナーまでバラ製薬のものを使っているのかは聞いていないが、あの美しい黒髪は、もしかしたらそうなのかもしれない。


「そこまでは聞いておりませんが、そうかもしれません」


「そうか。いや、こっちこそいろいろと面倒をかけた。これからもよろしく頼むな!」


 笑いながらそう言って、私の肩をポンポンと気安く叩く。

 最後まで輝くような明るい笑顔だ。

 口端から太くて長い犬歯が覗いているが、そこはご愛敬か。

 道まで出て、歩いて帰っていく彼らを見送った。

 って、馬車で来たんじゃないんかい!?

 けっこう距離があるんだけど、徒歩ってすごいな。

 姿が見えなくなってホッとしたのち、それにしても…と、リパーフの言動を振り返る。


「ねえ、エミリ」


「何ですか? 姫様」


「私…けっこう好きになっちゃったかも…」


「好きに……って、ええっ、まさか!?」


 エミリは一瞬訝しんでから、ギョッと眼をむく。

 そして、うふふっ!と笑いながら弾むように2階へと上がっていった王女を呆然と見ていた。



 ----------



 翌日。

 前日まで気持ちのいいくらい晴れ渡っていた空は、本日も絶好調に晴れている。

 夏真っ盛りの今の季節は、私達アンデッドの体に厳しい。

 アンデッドは特に日光の光に弱く、肌が乾燥しやすいのだ。

 無防備に光を浴び続ければ、からからに干からび、下手をすると肌がひび割れ酷い事になる。

 今日は外の活動がメインなので、肌を保護するクリームをたっぷりと塗り込んだ。

 顔を覆うショールと日傘もしっかり準備する。

 飲み水も多めに持って行かなくては。

 エミリの荷物が増えてしまって申し訳ないのだが、王女は荷物を持って歩かないのだ。


 本日は初日と違い、忘れられることなく迎えの馬車が宿屋の前に停車した。

 昨日も迎えの馬車が来ていたのだが、観劇を休むことを伝え帰ってもらった。

 今日はまだ少し体が重いけど、熱もないし、いつまでも休んでいるわけにはいかない。

 カラ元気を出して用意を済ますと、エミリや護衛の騎士と共に馬車に乗り込んだ。


 事前に知らされている予定では、本日は全員で"世界樹"を見に行くのだそうだ。

 私は1度もその姿を直に見たことはない。

 迎賓館やこの宿屋、道中の道から世界樹の姿は全く見えなかった。

 空までそびえ立つと言われる巨大な樹木は、神樹レスポート王国に入ればすぐに見られるものだと思っていた。

 だが、世界樹の周りは国立公園とされ、広大な範囲が立ち入り禁止となっている。

 国立公園内は世界樹から漏れ出る魔力が世界で一番濃い場所だ。

 そこには強大な魔力を持つ恐ろしい魔獣らが住むという。

 私達はこの国の軍隊に守られながら国立公園内に入り、世界樹の姿を拝みに行くのだ。

 ゲームの中でその時の描写はなかったので、特に注意すべき出来事は起こらないと思われる。

 今日はのんびりとはいかないと思うけれど、観光を楽しめたらいいなあと、ちょっとワクワク気分だ。



 迎賓館前に到着すると、馬車がズラリと並んでいた。   

 私達を待ちわびていたように、到着と同時に迎賓館から人がぞくぞくと出てきて、楽しそうに馬車に乗り込んでいく。

 みな高揚し、足取りが軽い。

 なにしろこの国の売りっていったら、なんといっても一番は世界樹だもんね。

 普段は入国することも叶わない神樹レスポート王国に来たのだ。

 それを見ずしては帰れないと、誰もが思うだろう。

 私もハッキリ言ってこの日を楽しみにしていた。

 というか、今日くらいしか楽しみがない。

 数日後は花火大会の予定なんだけど、その時は重大なイベントが起こる予定だし、とても楽しめる状況ではない。

 しかし、そのイベントよりも早く、いの一番に起こる危機は、花火大会よりも先にある。

 フッと、昨日の明るいリパーフの顔を思い浮かべる。

 彼に人を殺して欲しくない。



「姫様! いよいよ公園内に入るみたいですよ!」


 エミリの弾む声に顔を上げ窓の外を見ると、そびえ立つ高い塀が見えた。

 いつの間にか馬車は走り始めていて、まもなく国立公園の入り口門に到着するようだ。

 力を持った魔獣が公園の外に出ないよう、高さ5メートルはあるかと見られる高い塀が、公園の広大な敷地をぐるっと囲むように張り巡らされている。

 だが、翼を持っていたり体が身軽なものは易々とその塀を乗り越え、常に人の住む町や村を脅かしている。

 魔力が高い兵、魔導士らが監視し、魔獣の姿を発見ししだい素早く処理するのだと話を聞いた。

 魔獣は魔力を持っていて凶暴だが、体は普通の獣と大して変わらず食用にされる。

 だが、倒された魔獣が一般市民の口に入ることはまずない。

 それらは魔力を多く含む高級食材として城へ届けられるのだそうだ。

 

 巨大で厚い鉄門をくぐり、いよいよ馬車は国立公園内に入った。

 公園内の道は幅があり、馬車3台が余裕ですれ違えるほどだ。

 だが、舗装は不十分で、街中とは違い馬車の揺れが大きくなった。

 だんだんと背の高い木が生い茂り視界が悪くなってくる。

 馬車の周りには騎馬の兵が囲んでいるから大丈夫だと思うが、いつ魔獣の群れに取り囲まれるかとハラハラしてきた。

 アンデッド王国以外の国の王らは、魔法が使える凄腕の護衛を連れて来ていると思う。

 だが私達の中に魔法を使える者はいない。

 魔法の威力がどれほどのものか、アンデッドの私はよくは知らない。

 だがキフェルが使った魔法は、攻撃魔法ではないが、変身や防音など使い勝手が良さそうな凄い魔法だった。

 魔獣に襲われて騎馬兵がやられたら、真っ先に命を失うのは私達だろうね。

 ワクワクしていた気持ちがしぼんでいき、違う意味でドキドキしてきた。


「エミリ。こんなもの作ってきたんだけど、使う?」


「何ですか、それ?」


「魔獣避けの薬よ。体に塗っておくと魔獣が避けていくはず。ただ、ちょっとスパイシーな匂いがするのよね」


 錬金術師が作るポーションに同じような効果のものがある。

 それを参考に作ってみたのだが、アンデッド王国に魔獣はいないので試しておらず、効果のほどは不明だ。

 錬金術師は薬に魔力を混ぜ、効果を強めている。

 彼らは一般に売られている薬より効果の高いポーションというものを生み出す。

 それらは数が少なく高価で、兵や冒険者が危険な任務に就くなど、特別な時に使う。

 一般の人間がおいそれと手に入れられる物ではない。

 それらを取り寄せて私が作った傷薬や他の薬と効果を比べてみたところ、ほとんど違いはなかった。

 モノによってはこっちが勝った。

 魔法薬であるポーションよりも効果が高いなんてこの世界の常識では考えられない事だが、これも神の力なのだろうか?


「まあ、そうですかぁ。スパイシーな…」

 

 エミリは困惑している。

 フローラルな花の香りを纏ってせっかく女子力を上げているのに、それが台無しになるのを不服に思っているようだ。

 だが、決心したように頷いた。


「やはり念のため塗っておきましょう! 何が起こるか分かりませんし!」


 私達は馬車の中で腕や首筋にぬりぬりと魔獣避けを塗った。



 しばらく馬車は進み、昼に近くなった頃、セーフティーゾーンに到着した。

 高い塀と金網で囲まれた場所に大きな白い建物が立っている。

 レストハウスだ。

 だが、簡素で窓が連なる四角い造りは、一見すると病院のようにも見える。


「こちらで昼食を召し上がってください」


 馬車の扉を開けてくれた御者が言った。

 建物内に入ると、簡素な外観とは違い、私達をもてなす為の飾り付けがなされ、華やかに彩られている。

 花やリボンが飾られ、明るく可愛らしいイメージだ。

 

「よう! もう体は大丈夫か?」


 元気な声に横を向くと、爽やかに微笑む金髪イケメンが立っていた。


「リパーフ様! はい、おかげさまで。昨日はありがとうございました」

 

 私も笑顔で応える。

 だが、あれ?という顔でリパーフは私の首に顔を近づけた。

 ちょっ、お前はー、またか!!

 

「ん? んん? お前、昨日と匂いが違うな。だが、これはこれで美味そうなにおいだ…」


 怪しく薄い笑いを浮かべ、彼はペロリと自身の唇を舐めた。

 え? うまそう?


「リパーフ様!」


 灰耳の獣人の声に、リパーフはハッと顔を上げる。


「い、いや、なんでもない! ええっと、じゃあ、俺は行くな!」


「え? あ…、はい」


 リパーフは手を振りながら、慌てて人混みの中へと消えて行った。

 聞き間違いじゃないよね?

 今、美味そうって言った?

 ゲームの中でライオンの姿になった彼は、たくさんの人間を召し上がっていた。

 彼に対し、すっかり警戒心を解いてしまっていた私は、ブルっと身震いをする。

 やっぱり攻略対象者相手に心を許しちゃいけない!

 鳥肌の立った両腕をさすりながら、食事が用意されたテーブルに着席した。

 


 しばし別室で護衛らと離れ食事を済ませると、今度は徒歩での移動となる。

 この国の食事にはもうあまり期待はしていないけど、今回のもショボかった。

 ただ腹を満たすだけの味も量もそっけないもので、分かっちゃいたけどガッカリした。

 国立公園内のこのレストハウスは、町からは距離があるし、ちゃんとした料理を用意するのは難しかったのだろう。致し方ない。

 離れた席で、男性の怒る声が聞こえた。

 リパーフだ!

 彼の事だから、きっと量が足りないと文句を言って騒いでいるのだろう。

 大体はニコニコと機嫌よく笑っているが、食べ物に関してはうるさいと見た。

 小腹が空いたからって私を食べないでね。お願いします。

 胸の前で手を握り、小さく祈った。



 エミリたちと合流する間際、駆け足で近づいてきたのはマテウスだ。

 頬を染め、額には汗が浮かんでいる。

 夏なのにカッチリとした紺色の貴族らしい豪奢な衣服に身を包み、スマートな出来る男といった雰囲気だ。

 なんだか久しぶりに会えた気がする。

 一昨日は遠くから眺めただけで、会話も出来なかったしね。

 彼は私に近寄ると、ふわりと微笑んだ。

 

「もう、いいのか…?」


 マテウスはホッと緩んだ顔で私の頬へ手を伸ばし、触れる一歩手前でピタと止まった。

 思わず手を伸ばしたけれど、触っていいものかどうか思い悩んでいるみたい。

 私は笑いながらその手を取ると、ギュッと両手で握った。

 ずいぶん心配させてしまっていたようだ。

 レンバートと同じで怒られるかと思ったけれど、今日のマテウスからは怒りは感じない。


「ごめんなさい。もう大丈夫よ。マテウスのほうは、平気?」


「ああ…」


 マテウスは上気した顔で私を見つめ、握った手に視線を落とすと、もう片方の手で私の手をそっと触った。

 その時、可愛らしい鈴のような声がマテウスの名を呼んだ。


「あら、こんな所に!」


 私はハッとして手を引っ込める。

 わああ、やっぱりオリアナ姫だ!


「あら、あなたはこの前の…」


 絶世の美少女は丸い大きな瞳でこちらを見つめる。

 私は目を伏せ、小さく頭を下げた。

 

「はい。アンデッド王国のイザメリーラです」


「まあ! じゃあ…もしかしてマテウス様の…?」


 オリアナ姫の瞳が悲し気な色を映す。

 うおっ、庇護欲を誘うその顔は、女子力が高い!

 美少女好きの私にも効果抜群だ!

 彼女の後ろから長身な美男が顔を出す。

 ガオザンだ。

 彼はオリアナ姫の手を取りエスコートしている。


「マテウス。オリアナ様が君をお探しだったんですよ? さあ、我々が行かなければ隊が出発できない。行きましょう」


 そして、パチッと目が合った。

 

「ああ、君がいたのか。そういえば昨日はいなかったね」


「え? ええ、少々体調を崩して寝込んでいまして…。あ、私はもう行きますね。ごきげんよう」


 にっこり微笑んで膝を折ると、そそくさとその場を離れた。

 すごいわ、マテウス!

 まだ二日しか経っていないのに、もうすっかりオリアナ姫に気に入られてるじゃないの!

 さすがだ!

 それに比べて、私は…?

 落ち込んで下を向く。

 と、後ろから突然手が伸びてきて、私の額を押さえた。

 驚いて後ろに下がると、トスンと何かにぶつかった。


「ふむ。熱があるわけではなさそうですね」


「ちょっ!?」


 振り向くと、そこにはレンバートが立っていた。

 おでこに手を当て、熱を測っていたようだ。

 いきなり何!? 

 なんでこんな事を!?

 口をパクパクさせて彼を見上げる。

 レンバートは私の反応に目を大きく開いた。

 

「ああ、失礼。驚きましたか?」


 驚いたわっ!

 こいつ、昨日から不敬すぎないだろうか!?

 さすがの私も、ひとこと言ってやりたくなる。

 昨日は体調が悪く気弱になっていたが、今日は元気が戻ってきたからね。

 だが、人目がある。

 しかもそれは他国の王族や貴族らだ。

 見苦しくないよう息を整え、なるべく冷静に答えた。


「い、いえ。まあ、突然で少々驚きました」


「元気におなりなようで良かったです。では」


 レンバートはフフッと端正な顔に微笑みを浮かべ、マテウスの後を追っていった。


「姫様ーー!」


 エミリがはしたなく駆けて来た。

 息を荒げながらレンバートの背中を睨む。


「今、レンバートめが姫様に気安く触れていたように見えましたが、見間違いでしょうか!?」


 ああ、うん。

 見間違いじゃないけど、正直に言うと血の雨が降りそうで怖い。


「えっと、何のこと? 見間違いじゃない?」


 「そうですか、それなら良かったです」と納得したエミリは、私に日傘を差し出すと「さあ、行きましょう」と促した。


 その時、2人の令嬢がイザメリーラに声をかけた。

 2日前にバラ製薬の薬を使っていると言って挨拶をしてくれた他国の王女姉妹だ。


「今のお方はどちら様ですの?」


「今の…と言うと、あの眼鏡をかけた?」


 「はい、そうです! イザメリーラ様の額に手を当てて、親しそうに話しておられた方です!」


 エミリの額にピシリと青筋が立った。

 ああ、バレちゃったよ。

 ちょっと、エミリ、気付いてる? 顔が怖いよっ!


「彼は、あの…どのような御身分で…?」


 姉はもじもじしながら頬を染める。

 平民出身ですと返したら、明らかに肩を落としガックリと項垂れた。

 「姉さま、しっかり!」と、妹に励まされている。

 あれれ!? これって、あの毒舌家のレンバートがモテている!?

 確かに見た目はいいもんねえ。

 インテリ眼鏡のイケメンは需要が多そうだ。

 どことなく、平民出身には思えない品があるし。

 数日見た限りでは、彼の立ち振る舞いは堂に行っていて庶民には見えない。

 はいはい、どうせ私よりも貴族っぽいですよ!

 彼に庶民的だと罵られた事はもちろん覚えている。

 恨みはあるが彼の出会いを邪魔するような悪人ではないので、ちゃんとフォローもしておこう。


「…ですが、彼は国の重要ポストについておりますので、望めば爵位を持てると思いますわ」


 私がそう言うと、姉の顔はパアッと明るくなった。


「そ、そうですか! あの、ぜひ私達を紹介して頂きたいのですが…!」


「よろしいですわよ。後で必ず。…それにしても、マテウスではなくてレンバートですか?」


 不思議に思って尋ねると、「レンバート様とおっしゃるのね…」とぶつぶつ呟いた後、「ええ、そうですね」と姉は続けた。


「もちろんマテウス様の麗しさは言うまでもない事ですが、彼にはイザメリーラ様がおられますでしょう? 私どもでは、とてもとても…」


 「敵いませんわ」とため息をついて、フルフルと首を横に振る。


「アンデッド王国のみなさんは、あのように麗しい方々ばかりなのですか? 今回お目にかかって目から鱗が落ちました。一部の評判とずいぶん違っていましたから。もしかして、バラ製薬の製品のおかげで、あのように!?」


 姉妹の瞳はキラキラと輝いている。

 いやあ、あの2人は元が良いからなぁ。

 薬の効果は多少はあるかも。

 しかし、商売人はそんな返しはしてはいけない。

 私は大きく頷いた。


「ええ、元々の造形の違いはありますが、肌や髪の状態は重要です。美しく保てば光輝きます。長く使っていただければ、効果が出てくると思いますよ」


 にっこりと営業スマイルで告げた。

 

 

     

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