26. 神樹レスポート王国へ
国際交流会に参加する為、まずは神樹レスポート王国の隣にあるネースト王国まで琉金号で移動する。
私の侍女エミリとマテウス、彼の執事件秘書のレンバート、そして、それぞれの護衛の騎士2名ずつと一緒だ。今回の護衛は、私のお忍び旅行によくついて来てくれる、ボイルとベントにお願いした。危険を伴う任務だが、腕が確かで、私の王女らしからぬ本性がかなりバレている二人なので気安い。
マテウスの執事のレンバートとは、彼が執事になってから初めて顔を合わせた。レンバートはマテウスと並ぶくらい高身長で、長い真っ直ぐな黒髪を後ろで一つに結び、切れ長で黒い瞳を持つ眼鏡男子だ。20代中頃のインテリイケメンである。
彼らの顔を順に眺める。
エミリは美少女というより、もう21歳なので美女。そして見目麗しいマテウスとレンバート。目の保養です。ありがとうございます。
昨年の秋。神樹レスポート王国は世界30か国に向け案内状を送った。各国の王と王妃、あるいは王子と婚約者へ。
アンデッド王国からは、私と私の婚約者が出席を求められた。
神樹レスポート王国に入国できる人数は、厳しく決められている。招待者1人につき、世話人1人と護衛2人。例外は一切認められない。しかも、魔道具の持ち込みは禁止だ。
ゲームの中の神樹レスポート王国には、魔道具がなかった。
昔のアンデッド王国のように遅れている…というよりは、魔道具の使用をあえてしない国だった。神樹を祀るこの国は、昔ながらの暮らしや伝統を重視していて、発展を嫌っている。
こんなに便利な魔道具を使わないなんて、私から言わせれば愚かとしか言いようがない。何故にわざわざ不便な暮らしを進んでするの…?
入国まではもちろん魔道具の使用は自由なので、各国の要人たちは飛翔船を使って神樹レスポート王国と地続きとなっている隣国ネースト王国に入国し、そこから馬車に乗り換えての移動となる。
この日の為に、ネースト王国発着場には、神樹レスポート王国の用意した馬車がずらりと並んで待っていた。
それに乗り込み神樹レスポート王国に向け4時間ほど進んだ。馬車は、国境の境目に設けられた検問所前に出来た大行列の最後尾で停まった。
御者が言うには、この国に入る際には招待状と本人の確認、一緒に入る従者らや護衛、持ち物を厳しく調べられるのだそうだ。
大国の国王であろうとも、この国の取り決めには逆らうことが出来ず、大人しく列に並んでいると思われる。だが、持ち込みに関して厳しい制限がある上、厳格な検査を不服と思う輩もいるようで、無理を通そうと揉める男たちの大声が検問所から聞こえる。
列がちっとも縮まらず、大変迷惑だ。
私のように、各国の王や王子が列に並んだまま何時間も待たされるという、信じられない状況が続く中、さらに私達の馬車の後ろにも、次々とどこぞの王族を乗せた馬車が連なり、列が長く伸びていく。
私達の順番がきたのは、半日が過ぎ、日も傾いてきた頃だった。
お腹空いたんですけど…
隣国を出たのは今朝早く。お昼を1食抜いている。
こんなに時間がかかると分かっていたら、携帯できる食事を用意してきたんだけど…。食材はあるけど、王族らが乗る馬車が連なる道の端に薪を組んで鍋を乗せ、煮炊きを始めるわけにもいかなかった。
アンデッド王国の品位に関わるからね。
仕方なく荷台に積まれた薬瓶の中から栄養ドリンクを取り出して飲んだだけだ。
他国の人達もこんなに時間がかかるとは思わなかっただろうし、全くの飲まず食わずで我慢している人もいるかもしれない。
「なんだあ!? この大荷物は! 中を検めさせてもらう!」
すんなり通してくれるかと思ったが、そうは問屋が卸さなかった。
検査官は私達の乗る馬車に続く荷馬車に近寄る。
荷馬車の荷台には大きく山となった荷が乗せられている。私達の荷物だ。
馬車の屋根には乗りきらなかったんだよねえ。多すぎて。
検査官は荷に掛けられた厚い布をバッと取り去る。そこには、薬瓶がびっしりと隙間なく詰まった木箱が、何十と積み上げられていた。
「な!? これは、一体何だ!?」
仕方なく、私は馬車を降りて検査官の前に進み出た。
威厳を損なわないよう胸を張り、お腹に力を入れる。
「これらは我が国が作った美容薬や医療薬品ですわ。各国の方々にお配りしようと持参しましたの。くれぐれも傷つけないよう注意してくださいね。王族方にお贈りする品なのですから」
「おお! あれはアンデッド王国の!?」
「あれが噂の薬姫か!?」
私達の後ろに居並ぶ馬車の中から、ざわざわと声が上がる。
興味津々で馬車から顔を出す人たちの反応に、検査官は不思議そうな戸惑った顔をしながらも首を横に振る。
「い、いやいや、しかし、そうだとしても、この量はさすがに異常だ! 危険な薬品が紛れ込んでいるやもしれん。すべての薬品の検査が済み安全が確認されるまで、国内に持ち込むことは許されん!」
はあ!? 待て待て! これだけあるのに、全部検査する気なの!?
いったい何時間…いや、何日かけるつもりだよ!
真面目に仕事に取り組むまだ若い検査官に、私は心の中で舌打ちする。
私がジトーっと睨むも、頑として譲らない構えだ。
確かに彼の言い分はもっともなこと。爆発するような危険な薬品や毒薬が混ざっているかもしれないからね。現に、実はちょびーっとだけ危ない薬もこっそりと紛れ込ませてあるので、調べられるのは非常に困る。
斜め後ろに立つエミリに、どうしよう…と困った顔を向けた。
エミリは「お任せください」と言って頷くと、進み出て検査官の腕をガッシリと掴んだ。そして有無を言わさず検査場の脇に立つ2階建ての白い建物へと引っ張っていく。訳が分からず「放せ! おい、こら!」と抵抗する彼を、腕力にものをいわせ、ズルズルと引きずるようにして建物内へと連行していった。
エミリは細くて華奢に見えるが、結構力があるんだよね。この建物は、検査官たちの詰め所だろうか?
しばらくして別の年配の検査官と戻って来たエミリは、成し遂げた顔で晴れやかに微笑んだ。検査官はペコペコと頭を下げて、にこやかに私達の馬車を通した。
私達を乗せた馬車と、それに続く山のように薬品類を載せた荷馬車は、ゲートに設けられた大きな門をくぐる。
門の表面には、前に見た魔道列車と同じように、表面に細い光の線が張り巡らされている。これは、神樹レスポート王国にある唯一の魔道具で、入国する者は、全員この門をくぐりチェックを受けるのだ。
魔道具を所持したままこの門をくぐると、センサーが反応して、光と音で知らせる仕組みだ。空港にあるボディーチェックの装置みたいなものだね。
それを知らずして隠して持ち込もうとしてセンサーにひっかかった者は、荷をひっかきまわされて魔道具をすべて没収されるのだ。
列がなかなか縮まらなかったのも、こういった者が大勢いたためだろう。
無事に門を通過した私達に、検査官は笑顔で「お気をつけて」と手を振る。
私は窓から顔を出して笑顔で頷き返し、検問所を後にした。
やっとのことで無事検問所を抜けた私達は、安堵の息を吐いた。
そういえば…と、エミリに向き直る。
「ねえ、エミリ。さっきは何をしたの?」
「ああ…いえ、別に大したことでは。ただの飴と鞭ですわ。検査官らは姫様が神のスキルをお持ちなのを知らないようでしたので、姫様が手掛けたお薬がどれほど効力が高く、世界中の人々のお役に立っているのかを懇々とご説明させていただきました。詰所の中にいた別の検査官がその話を聞いて、ぜひ薬を譲ってほしいと言われましたから、少しお譲りする約束をいたしました」
可愛らしく微笑むエミリに、マテウスは「懇々と…な」と呟き、げんなりした顔をした。
私は「さすがね!」と言ってエミリの頭を撫でた。
褒められたエミリは頬をピンク色に染め、嬉しそうに笑った。
こんなこともあろうかと多めに薬を持ってきてたから、賄賂や袖の下なんかを要求されても、どーんとこい!だ。あ、両方とも意味は同じか。
私は最近になって気付いたのだが、エミリは私が思っていたような可愛い天使じゃないみたいなんだよね。私に対しては、いつも優しくて可愛くて素直で純粋な最高にいい子なんだけど。
国を出る前に、私はメイドのアリサから嬉しい報告を受けた。
「えええ!? スティーバさんと、結婚!?」
「はい!」と嬉しそうに満面の笑みを浮かべるアリサは、とっても幸せそう。
お城のメイドの中で、唯一、人間のアリサは、今年でもう28歳になる。結婚が早いこの世界において、完全に行き遅れている。周りはアンデッドだらけだし、なかなかいい出会いがないのかもしれない…と、実はかなり心配していたのだ。
今や大商人となったスティーバさんとの結婚は、アリサにとったら玉の輿。彼の歳は多分30歳かもう少し上だと思うので、アリサの年齢ともちょうどいい。
「で、どういう経緯でそうなったの?」
「ええー? はい…。私は前々からずうっといいなぁって思っていたんですが、なかなか振り向いてもらえなくて…。でも、春祭りを一緒に回って、それから交際を始めたんです」
アリサは顔を赤くしながら、もじもじとメイドエプロンを握りしめた。
「じゃ、じゃあ、まだつい最近じゃないの! それで、もう結婚!?」
「はい! まだ交際を始めてからはひと月ほどしか経っていませんが、でも、付き合いは長いので、お互いのことはよく分かっていますよ?」
私は「ああ、確かに」と大きく頷く。
彼に頼んでアリサをこの城に連れてきてもらってから、もう10年が経つ。ということは、彼らのつきあいも10年以上というわけだ。
なるほど、なるほど。
アリサの実家も商家だし、商人の妻となるには何の障害もないだろう。彼女の家も商売は順調そうだし、スティーバ商会と合併して、ますます大きな商会へと進化するかもしれないね。
私は心からのお祝いの言葉を送った。
その次の日、たまたま城を訪れていたスティーバさんを部屋に呼んで、お祝いの言葉を掛けた。
スティーバさんは照れながら嬉しそうにお礼を言う。
「おかげさまで、ありがとうございます。イザメリーラ様に少女を連れて来るよう依頼を受けたおかげで、アリサと出会う事が出来ました。アリサは間もなくメイドを辞めますが、夫婦で城へ参上することもあると思いますので、これからもよろしくお願いいたします」
「ええ、もちろんよ。それにしても…、うふふっ」
我慢しきれず、私は口を押さえて笑った。
「どうかされましたか?」
「いえ、だってね。エミリが前に可笑しなことを言っていたのを思い出したのよ。スティーバさんが私に気があるとかなんとか…。そんなわけないのにね」
スティーバさんは困惑した顔をした後、苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「いや…、実は、お恥ずかしい話ですが、それは本当です。こんなに歳が離れて、しかも身分が大きく違う身でありながら、私はイザメリーラ様に懸想しておりました。誠に申し訳ありません…!」
スティーバさんは床に付きそうなほどに深く頭を下げた。
ええっ!! うっそー!
エミリの言ってたことは、本当だったの!?
驚いて口を開けたまま何も言えない私を見て、スティーバさんは言葉を続ける。
「…去年の冬の、とても寒い日でした。エミリ様に城の中庭に呼び出されて、長時間に渡り、大変きついお叱りを受けました。そのおかげで、叶うことのない未練をやっと断ち切ることが出来ました。あの時はとても恐ろしかったですが、今にして思えば、あれがなければ、いつまでも想いを引きずっていたかもしれません。だから、彼女には感謝しております。あの…このことは、どうかアリサには内緒でお願いします」
「え、ええ…。内緒はもちろんいいんだけど、エミリからお叱りって、それ本当? あの優しいエミリが、そんなことを?」
いまいち信じられない。あの可愛いエミリが年上のスティーバさんを呼び出して叱るなんて…
今は、たまたま騎士団と若手の兵士らの訓練に駆り出されていて、この場にエミリはいない。
新米兵士に稽古を付けるだけあって、エミリは剣術など、武道の腕前はマスタークラスだ。だが、普段の彼女は優しく物静かで上品で、誰かを厳しく叱ったり、攻撃的になるなど想像がつかない。
「いやいや、彼女はああ見えてかなりの者ですよ。私の聞いたところでも、中庭に呼び出され指導を受けた者は、両手で足りないほどです」
「そ、そうなの!?」
私はエミリの代役で後ろに控える新米メイドをチラッと見た。
彼女は「ヤバ!」という顔で下を向いて震えている。口を割る気はないようだ。
「違う」とは否定しないのね…
スティーバさんは私達のやり取りを見て小さく笑った。
「ええ、本当ですよ。…しかし、私の想いが届くどころか、気づいてさえいただけていなかったとは、少し寂しいですね…。もう過ぎたことなんですが…」
歯切れ悪くそう言うと、来た時よりも心なしか、わずかに肩を落として帰っていった。
…私、スティーバさんの想いを、「可笑しなこと」とか、「そんなわけない」とか言っちゃったね。傷つけてしまったかもしれない。
でも、今世の私とはかなり歳が離れているとはいえ、わりかしかっこいいスティーバさんに好きになってもらえていたことは、かなり嬉しいかも…! この世界に転生して、モテたのって何気に初じゃない!?
もしスティーバさんがアリサと結婚しなくてフリーだったなら、国外追放になった後、彼と結ばれる道もあったんじゃないかな!?
…と、そこまで考えてハタと気づく。
いや、無理ね。彼はアンデッド王国と結びつきが強い。彼なくしてバラ製薬は成り立たない。彼の妻になったとしたら、アンデッド王国民らから隠れて生活することは、きっと難しいだろう。どこかで漏れてしまいそう。
王位継承争いを起こさぬため、私の存在は完全に消さなければならない。
やっぱ、無理よねぇ…と、ため息をついた。
そうそう、思わず回想に入っちゃったけど、私の言いたかったのはそこじゃなかった! 私が実はモテていたという、嬉しいドキドキを確認したかったわけじゃないのよ。エミリのことだ。
実は私の知らない所で気に入らない者を次々と中庭に連れ出し、スケバンのようにシメていたという事案のことだ。
庭師のボードさんに確認に行くと、「エミリ様には絶対に秘密ですよ!」と念をおして、その事実を認めた。周りをキョロキョロ見回しながら震えていたので、よっぽど彼女に知られるのが怖いとみえる。
私の知っている天使のエミリの裏の顔を知ってしまって、なんとも複雑な気分だった。
今回招待された王族らは、王城近くにある迎賓館に泊まるのだと御者に教えられた。
迎賓館に向かう道すがら、王国内を見回してみたが、やはり魔道具は一切見当たらない。昔ながらの暮らしにこだわっているだけあって、昔懐かしい風景が続いている。簡素な民家が並び、井戸で水を汲み、その周りで何かを洗っている人の姿があった。電波塔もないし通信機を使いながら歩いている国民もいない。
魔道具は持ち込めないので、私もいつものピンク色の通信機を持ってこられなかった。見つかったら取り上げられてしまうしね。
そうこうするうちに私達を乗せた馬車は鉄門をくぐり、迎賓館の正面に到着した。すでに日が落ち、辺りは暗くなっていた。
馬車から降りた私は、ランプで照らされた背の高い建物を見上げる。
お、大きい…!
白い壁に金色の装飾が目に眩しい8階建ての豪勢な作りの洋館だ。質素で地味な建物の多いこの国の中で、ひと際目を引く建造物である。
ドワーフ王国の発着場にあるビルや、ライツェント王国にある商業施設はもっと煌びやかで大きいが、魔道具を一切使わないこの国では、これより高い建物はないんじゃないかな?
入口に続く長い階段を上がろうと上を見ると、上がった先の入口に、真っ白な肩まで伸びた髪をサラサラとなびかせながら細身の少年?青年? どっちともつかない男が立っていた。
その人物は階段下の私に気付くと、ゆっくりと階段を下りて来る。
近づくにつれ、彼の整った顔がはっきりと認識できた。私のすぐ目の前で立ち止まり、葡萄色の瞳を細めて見下ろす顔には、無邪気な笑顔が浮かんでいる。
この可愛らしい微笑みを浮かべた顔を忘れはしない。彼こそ今回のミッションの最要注意人物!
ギュレス・ホルスタッテン!!
攻略対象者の一人、冥界の王子である。
冥界は前世の物語にあった解釈と同じく、死者の国。
アンデッド王国の貴族や間諜らは頑張ってくれたのだが、どうやってもこの国の内情を探ることは出来なかった。
攻略対象者たち6通りの話の内の最後、冥界の王子=ギュレス・ホルスタッテンの物語はこうである。
前世の物語などで一般に知られているのと違い、この世界では冥界は、地上に存在する国だ。だが、前世の解釈と同じく、死者だけが立ち入ることが出来る。生者は入国不可能な為、国の内情は謎に包まれている。奇妙なさまざまな種族が暮らすこの世界においても一線を画す、特に変わった国であると言える。
その国の王子であるギュレスは、10代中頃のような、幼く可愛らしい姿をした美少年だ。だが、実際の年齢は語られなかったので不明である。
国際交流会に参加したギュレスは、オリアナ姫と運命的な出会いを果たす。
彼は他国から来た高慢な態度の王子や貴族らのお世話に疲れたオリアナの心を、持ち前の可愛らしい容姿と優しい言葉で慰める。
幼さの残る見た目ながらも、何もかも見透かしたような彼の不思議な魅力に惹かれていくオリアナ。
オリアナを振り回す他国の王族や貴族らとは違い、癒しと安らぎを与えてくれる彼に、オリアナは次第に安心感を覚える。
イザメリーラからの妨害を共に乗り越え、絆を深める二人。
しかし、住む世界が違うと思い悩み、彼を諦めようとするオリアナ。ギュレスは国際交流会が終われば、死者が住む冥界に帰らなければならないのだ。彼と共に冥界へ行くには、オリアナ自身も死者となるしかない。
悲しむオリアナに、ギュレスは大胆な提案をする。
「冥界に、一人で行くのが寂しいのなら、みんな一緒に逝けばいい」と…!
彼の提案を受け入れたオリアナは、世界樹に繋がる水路に、ギュレスから手渡された小瓶の中身を流す。
すると、世界樹はみるみる枯れ、この世界に当たり前にあった魔力が失われる。そうして、この世界が終わる。
生きる為に魔力が必要だった生物や植物は早々に死に絶える。魔力を含んだ豊かな土壌は栄養乏しい土地へと変わり、実りが減り、深刻な食糧問題を引き起こす。最終的には世界の人口の約半分が土に還る。
亡くなった大勢の者達と共に、オリアナは冥界へ向かう。
ギュレスとオリアナは冥界の地で、微笑みながら固く手を取り合ってエンドを迎える。
めでたし、めでたし…じゃないストーリーだ。
この話では、世界は崩壊する。
世界樹が枯れ、当然にあった魔力が失われると、この世界では生きられない者たちがいるのだ。
魔力がなくても平気な植物や動物、種族はいる。食糧問題に苦しみながらも、そういった者たちだけは生き残る。
そして、死にゆく者も大勢いる。
魔力無くして生きられない者の筆頭が、アンデッドだ。
アンデッドは魔力の無い世界では、ただの屍と化す。魔力はアンデッドにとって生命エネルギーの役割を果たす。私達は体内に取り入れた魔力を、すべて生きる為に使っている。だから人間や他の種族のように、魔法が使えないのだ。
ドワーフ王国も困るだろうね。魔力が無くなれば魔石が生まれず、今ある魔石に魔力の補充も出来ず、魔道具はすべて使用不可能になる。
世界中が昔のアンデッド王国や、ここ神樹レスポート王国のように遅れた暮らしに戻ることとなるだろう。
私は、いつの間にか震えていた手をギュッと握りしめながら、息がかかるほどに顔を近づけてくるギュレスを見上げた。




