20. マテウスの留学
春が来て、私はまもなく16歳になる。
国際交流会が開かれるまで2年を切り、貴族らや王の間諜に攻略対象者の情報や、接点を作る方法を探ってもらっているが、なかなか情報が集まらない。
しかし私には、今や世界中でかなり知られるところとなったバラ製薬の製造者であるという特権がある。各国の貴族らに製品を送り、せっせと親交を深めている。
その貴族の中には、攻略対象者に関わりのある者もいる。彼らとつながりを持っておけば、後々、役に立つかもしれない。
今日も自室で他国の貴族宛に手紙を書いていると、部屋へと入って来たエミリが驚くことを告げた。
「ええっ!? マテウスが留学!?」
「はい。1年ほど国を留守にされるそうです。なんでも、3か国ほどを回って見聞を広めてくるとか」
「あっ…、そう…」
国際交流会が終われば、マテウスはおそらく王太子に正式に決まり、国の内外に大々的に発表されるだろう。
他国へ留学するなら、今しかないのかもしれない。次期国王として、他の国の内情を知っておくのは大切な事だ。
そう頭では理解できるのだが、何故だか心は焦りと苛立ちを覚えた。モヤモヤとした、この不快な感情は、不安…?
胸を押さえ、不意に沸き上がった感情の理由を探すと、その答えがひらめいた。
そうか! マテウスはこの国の命運を握る大事な人。他国で、もしもの事があって国際交流会に参加できないなんて事態になれば、私達の力だけではアンデッド王国の未来を変えることは出来ないかもしれないのだ。
「…ねえ、エミリ。マテウスは大丈夫かしら…。留学中の安全が、しっかり確保されているといいのだけど…」
「姫様…? ええ、もちろん、安全は充分に配慮されると思いますよ? それほどにご心配ですか? なんだか、お顔のお色が優れませんが」
エミリは不思議そうに首を傾げた。
「え? な、そりゃあそうでしょう! もし、マテウスの身に何かあったら、アンデッド王国の一大事じゃない!」
「まあ、姫様がそれほどにマテウス様を気に掛けるなんて…」
エミリは口をへの字に曲げて、恨めしそうな視線を向けた。
あれ? しまった。誤解を与えてしまったかもしれない。
私は慌てて顔の前で手を横に振った。
「いやいや、違うのよ!? アンデッド王国を想っての事だからね! 別に、マテウスに特別な感情を持ってるわけじゃないから! 誤解しないでよね!?」
ツンデレ属性を持つ人のような発言をしてしまったが、私はツンデレじゃあないから!
恋人であるエミリを差し置いて、私がアレコレ心配する必要はないよね。エミリと恋のライバルになるつもりは毛頭ない。もしなっても、確実に負ける自信がある。トホホ…
エミリは「本当に?」と、疑わしい視線を向けたが、私がうんうんと頷くと、ホッとしたように微笑んだ。
「そうですわよね。安心いたしました」
ふう、やれやれ。
それにしても、エミリは平然としているように見えるのだが、寂しくはないのだろうか…。今までも、あの偶然中庭で目撃した時を除いて、二人はそんな素振りを見せた事がない。どうやら、とても巧妙に隠れて付き合っているようだ。
公に出来ない関係だから、二人の会う頻度は、今までもとても少なかったはずだ。なのに、マテウスが留学してしまったら、1年もの間、ずっと会えなくなってしまう。二人きりで別れを惜しむ時間はあるのだろうか…?
「…ここは、私が一肌脱ぐしかないわね」
「え? 何かおっしゃいましたか?」
書き終わった大量の手紙を仕分けしていたエミリが、手を止めて振り向いた。
「ううん。えっと…次にマテウスに会うのは…。ああ、明後日の夜会だったわね」
近年、急速に豊かになったアンデッド王国は、王族の誕生日など特別な日でなくとも、王城に貴族らを招いて、夜会なる甘美な会を開くまでになった。
王族と貴族らが城の大ホールに集い、王立楽団が奏でる音楽に合わせ、男女ペアになりダンスを踊るのだ。ホールの隅には飲み物と軽食が用意され、参加者は小腹も満たされる。
貴族の屋敷でも同じような夜会が開かれているのだが、参加率は王城で開かれるものの方が、断然、ダントツに高いらしい。城から招待状をもらった者は、よほどの理由がない限り、全員が参加している。
王からの誘いなので断れないのかというとそうではなく、あくまで参加するしないは個人の自由なのにだ。
この国の国民や貴族らの王家に対する親愛度が、半端なく高いのは知っている。てっきりそれが理由だと思っていたのだが…
「はい。確かに、ご年配の方々には、それが一番の理由だと思いますわ」
夜会が中盤に差し掛かった頃、顔見知りの伯爵家の令嬢との他愛のない世間話の最中にその理由を尋ねた時、彼女は言った。
「え? じゃあ、あなたには他に理由があるの?」
「あ…はい。わたくしは参加すると頂ける、バラ製薬の美容品が一番の理由です。もちろん、バラ製薬の製品すべてをすでに使っていますけれど、こちらで頂ける新製品のサンプルは、持っているだけでみんなから羨ましがられるんです」
おや、それは嬉しい。
私の誕生日会の時に配って好評だったので、城で催しが開かれる度に、参加者に新製品のサンプルを配っているのだ。もちろん、宣伝の意味もある。
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ。帰りにちゃんとお渡しするから、ゆっくり楽しんでいってね」
微笑んで言うと、令嬢は頬をポポッとピンク色に染めた。そして、ペコリとお辞儀をして踵を返すと、そそくさとご令嬢たちの輪の中に入っていった。
「ねえ、何をお話ししていたの!?」と、他の令嬢たちから質問攻めにあっている。美しく着飾った少女らがキャアキャア!と、何やら楽しそうに盛り上がって、そこの一帯は大変華やかだ。先程の令嬢も、私と話す時とは打って変わって、ニコニコと嬉しそうに弾んだ声で答えている。
いいなあ。私もあの輪の中に入りたい…
年頃が近い貴族の令嬢は、私が話しかければ、きちんと返事は返してくれるのだが、畏まって硬くなってしまって、ちっとも会話が弾まないのだ。そして、会話が途切れた隙を狙って、すぐに逃げてしまう。
怖いの…? ねえ、私って、そんなに怖い?
「おい、何をジロジロと睨みつけているんだ? 怖いぞ」
頭の上にポンと置かれた手に驚いて振り向くと、いつもの整った顔で、マテウスが見下ろしていた。
うわあ、また背が伸びた?
驚いて高い位置にあるマテウスの顔を見上げていると、令嬢たちが一斉にキャア!と、嬉しそうな歓声を上げた。彼女たちの視線は、ただ一点、マテウスに注がれている。
ああ、そうだった。これも理由の一つね。
王家の催しの際には、王家と親交が深いコールドウェル侯爵家が必ず呼ばれる。そこには当然、マテウスも参加するわけで…
令嬢たちの群れは、いつの間にかマテウスを取り囲んでいる。マテウスの隣に立つ私も、彼女達に囲まれる形となった。
…いや、輪の中に入りたいと確かに願ったけれど、こういう事じゃあない。
令嬢らはマテウスに話しかけたいものの、隣に立つ私に遠慮してか、話しかけられずにいる。
いいなあ。下心丸出しだけど、マテウスの周りには可愛い女の子達が集まって来るのね。私も可愛い子達に囲まれたい! 今も囲まれてるけど、おまけっていうか、邪魔者状態だし。
やさぐれた気分で小さく息をつくと、マテウスの袖を掴んだ。
驚いたように私を見下ろしたマテウスの顔は、あろうことか少々口元がにやけている。
ええ~!? ちょっとお、これ、エミリには見せられないよ?
可愛い子達に注目されて嬉しい気持ちは、よーく分かるが、あなたにはもっともっとずうっと可愛いエミリがいるでしょう!?
ちょっとお仕置きが必要だろう。
私はニヤリと黒い笑みを浮かべる。
さらに袖をグイッと引っ張ってマテウスを屈ませると、内緒話をするように、下りてきた彼の耳に口を近づけた。
「ねえ、あなたにお話しがあったのだけど、ここではちょっと無理みたい。後で、二人っきりの時に話すわ。忘れないで探しに来てね」
甘えた声を出し、全く内緒話になっていない音量で言ってやった。最後に、とどめとばかりに耳に息を吹きかけると、マテウスは頬をピンクに染め、慌てて耳を押さえた。
周りの令嬢は口に手を当て、驚いた顔で私達を見ている。
うふふ、ざまあみろ。
私は令嬢たちから恐れられているので、よほどの強者でない限り、この後にマテウスに言い寄る者はいないだろう。いや、さすがに、そこまでの効果はないか?
ま、この場しのぎのことだが、これもエミリの為だ。
私は周りのご令嬢に向かって微笑むと、優雅な歩みで扉から廊下へと出た。誰もいないのを確認すると、急いで暗い庭へと周って大窓から中を覗く。
マテウスを囲む令嬢は、令嬢同士で顔を見合わせ、戸惑っているのが見て取れる。そうこうしている間にマテウスは知り合いを見つけ、彼女らから離れていった。
お? あんなんでも効果あるじゃん。良かったあ。
しめしめとほくそ笑んでいると、ポンと後ろから肩を叩かれ、驚いて飛び上がる。
「失礼。こんな所で、お一人でどうされましたか? 何を企んでおられるのか、少々、恐ろしいですな」
口では恐ろしいと言いながらも、クスクスと笑いながら、コールドウェル侯爵が口元を押さえ立っていた。
さすが親子。登場の仕方が似ている。
紳士で素敵なおじさまの侯爵に、窓から室内を覗くはしたない姿を見られてしまった。動揺しながらも、なんとか挨拶を交わすと、侯爵は私にスイッと手を差し伸べた。
「ところで、これから王と内密のご相談があるのですが、イザメリーラ様もご一緒されませんか?」
「え、内密の? …それは、私が聞いてもよいお話なのですか?」
「ええ。姫様と、うちの愚息の話ですので、良ければぜひお聞きいただきたい」
私は頷いて侯爵の手に自身の手を乗せ、侯爵にエスコートされながら王のいる控えの間に向かった。
夜会から帰る貴族の見送りを終え、遅い時間に自室へと戻ると、部屋の前の薄暗い廊下にマテウスが1人で立っていた。
「ええっ、なんで!? まだ帰ってなかったの!?」
「なんだよ、お前が後で話をしようと言ったんじゃないか」
暗くて表情は分からないが、子供のように拗ねた口調だ。
「ああ、そういえばそうだったわね。待たせてしまってごめんなさい」
さっきは、ただ周りの令嬢を牽制するつもりで言っただけで、大して話があったわけではない。だが、真面目なマテウスはその言葉を真に受けて、わざわざ残って待っていてくれたようだ。
「ええっと…、とりあえず中に入る?」
「はあ!? お前、こんな夜更けに部屋に男を連れ込んでいいと思っているのか!? ふざけるなよ!?」
男って…、マテウスなのに? 私が口を開くたび、いちいち怒られてしまう。
あ、そうだ。侯爵に伝えてもらうよう頼んでおいたけど、ちょうどいいから、今話しておこう。
「じゃあ、ここで話すわ。あのね、明日、私とエミリと一緒に、ピクニックに行きましょうよ」
「は? 明日? ずいぶん急だな。だが、明日も授業が…」
「ああ、それならお父様とコールドウェル侯爵から了承を得ているから大丈夫よ。いつもの、城へ来る時間に来てね」
翌日、幸いに天気は晴れ。風は少々あるが、よいピクニック日和だ。
城のコックに持ち運びが出来る軽食を作らせて、馬車に積み込む。アンデッド王国は王都内でも、中心部から少し離れれば、豊かな自然が広がっている。だが、最近は観光客が増え、人のいない静かな場所はあまりない。私は事前に王都の地理に詳しい騎士から聞いて、観光客が訪れない穴場を調べておいた。
動きやすいように、いつもより簡素なドレスを着て、マテウスを待った。
私の前に現れたマテウスは息を切らせていた。ずいぶん慌てて来たようだ。
「お、お前、あの話を聞いていたのか!?」
マテウスの取り乱しようで、昨夜、お父様とコールドウェル侯爵と私、三人の間で決まった、あの事を侯爵から聞いたんだなと分かった。
私は昨夜のうちに、エミリに話しておいた。私とマテウス、そしてエミリにとって重要な事だから。
私は笑って頷いた。
今日は三人で、マテウスのお別れ会だ。楽しい一日にしよう。
マテウスとエミリ、両方の手を取ると、ひっぱって早く行こうと急かした。
「わあ、綺麗な場所ね! でかしたわ!」
私は、この場所を教えてくれた護衛の騎士の一人を褒めた。
そこは、大きな木々が立ち並ぶ一本の細い道を抜けた先にある、美しい泉のほとりだった。泉の周りには小さな可愛らしい春の花が色とりどりに咲いている。
周りに人の姿は全くない。聞こえるのは鳥の鳴き声と羽ばたきだけで、とても静かな場所だ。
泉に近づくと、透明に澄んだ水の中に、小魚が泳いでいるのが見える。
あー、網を持ってきてれば捕まえられたのに。
「危険な獣や魔物はいないようだな」
マテウスは護衛がいるにも関わらず腰に剣を下げて来ていて、剣の鞘を握りながら周りを警戒している。
「ええ、そのようですわね」
そう返事をしたエミリを見ると、彼女も普段スカートのひだの間に隠し持っている剣を取り出し、手にしていた。
確かにこの世界の森は、前世とは違い危険がいっぱいだ。だが、アンデッド王国内に、危険な魔物の目撃情報はない。二人とも警戒しすぎだ。
私は二人を放っておいて、馬車の中からシートを取り出すと平らな場所にひいた。その上に、お昼のランチボックスを並べていく。
「まあ、申し訳ありません。姫様はどうか座っていてくださいませ」
エミリが慌てて戻ってきた。
私は「いいの、いいの」とエミリとマテウスを並んで座らせ、紅茶の準備に取り掛かる。まだ熱いお湯が入ったポットと器を並べて茶葉の缶を開けた。
「今日はね、マテウスとエミリをおもてなしする日なのよ。いつも頑張ってくれている二人に、私が奉仕するわ。だから動きやすい服で来たのよ」
「まあ…!」と、エミリは感動したように目を潤ませた。
マテウスは無言になってしまった。彼は昔からこういう所があるよなあ。反応に困ると黙ってしまう。もう大人なんだから、気の利いた事でも言ってくれればいいのに。
私のリクエスト通りに、コックはサンドイッチを作ってくれた。中の具は、前世と同じように卵や野菜、肉などが挟んである。お城で出される料理は、私のリクエストを取り入れていくうちに、だんだんと前世にあった物と似たメニューが増えた。
「また変わった料理だな」
マテウスはサンドイッチを持ち上げながら不思議そうに言った。
エミリはすでに慣れたものだが、マテウスは食べながら「異国の料理か? だが美味い」と感想を述べた。
「そんなような物よ」と笑って答える。マテウスに私の正体を明かす日は来るのだろうか。彼は案外繊細なので、黙っておいた方がいいかもしれない。
さてと。マテウスとエミリ、二人の時間を作ってあげなくちゃ。
馬車に目をやると、御者は気持ちよさそうに御者台で昼寝をしている。よし、今がチャンスだ。
「ちょっと泉の周りをぐるっと回って来るわ」
「では、わたくしもご一緒に…」と、立ち上がろうとするエミリの肩を押さえて止める。
「一人で大丈夫よ。エミリとマテウスはゆっくりしてなさいよ。護衛がいるから私は大丈夫だし」
ちょっと不自然だが、護衛の騎士6人全員を引き連れ、二人から離れて森の中へと入った。
「そんな、姫様…」と、エミリは不満そうだったが、二人っきりにしてあげようという、私の気遣いに気付いて欲しい。
しばらく歩いていくと、木々に遮られ、二人の姿は全く見えなくなった。森の中は、マイナスイオンっていうの? すがすがしい空気に満ちていた。
昨日の密談で、私は不本意な王の決定を受け入れた。ちょっと大げさかもしれないが、今世でも、人の為に自分を犠牲にする決断をしたのだ。
足を止め、キラキラと日の光を反射する水面をぼんやりと見つめていたら、周りの騎士の警戒する様子に気付いた。
「え、なに!?」
前世のオオカミに似た群れを作るガルウという4本足の獣が、私達の周りを囲んでいた。ガルウは肉食動物で、人を襲う事もある。
しかし、相手が悪かった。私達の護衛騎士は、王立騎士団の中でも戦力的に優秀な者達だ。遠距離攻撃が得意な魔導士相手でも剣で立ち向かい勝利してしまう強者揃い。その中には、シンマーに会いに行った時に護衛してくれたボイルとベントもいる。彼らは試着中の乙女の肌を見てくるような人物であるが、それでも腕前は騎士団トップクラスなのだ。
飛び掛かって来た数頭を難なく返り討ちにすると、残りのガルウは逃げ去っていった。
「…ああ、驚いたわ。ここは、ガルウの生息域だったのね。観光客が来なくて正解ね」
「姫様には我々が付いておりますから、安心して観光してください!」
返り血をたっぷりと浴びた騎士が爽やかな笑顔で言うも、清々しい気分はすっかり消え去っていた。
「あ、そうだわ! あの二人は大丈夫かしら!?」
私達が慌てて戻ると、二人は血に濡れた剣を持ち、良い笑顔で握手を交わしていた。
足元にはガルウの亡骸がゴロゴロと転がっている。
「お前、やるな!」
「ふふ、あなた様も!」
似た者カップルというやつだろうか…?
そこに広がっていたのは恋人同士の甘い光景ではなく、なぜか血と汗と友情の世界だった。
なぜに?
一週間後、私とマテウスは婚約式を執り行った。
王とコールドウェル侯爵、そして私は、密談の結果、留学前にマテウスと私の婚約式を行うと決めたのだ。
普通の貴族は婚約するのにいちいち式など挙げないが、王族だけは特別だ。婚約を大々的に国内外に広める為である。
国の内外には私やマテウスとの結婚を目論む者が多数いる。
前にドワーフ王国のグノーから婚約を迫られたが、あの後も国外の貴族や王族からの婚約話が何件もあった。
アンデッドは他国から嫌われていると思っていたのに、最近は事情が変わったのだろうか…?
マテウスも同様で、彼の場合は、将来オリアナとの結婚を目指していることを知らない、あの時、呼ばれていないアンデッド王国内の貴族や、国外の貴族らが大勢、彼に求婚していた。
マテウスが留学したら、留学先でしつこく迫られるかもしれない。彼はまだ若いし、そんな気がなくても相手の策略にハマって、強引に結婚させられてしまう危険もあるそうだ。
どんな策略なんだろう…? 知りたいような、知りたくないような…?
そのような危険を避ける為、マテウスを守る為に私達は婚約した。
一応、私はちょっと有名になったし、私の婚約者を奪おうとする者はめったに現れないだろう。だが、マテウスはかなりいい男なので、油断は出来ないのだが。
そんなわけで、ずっと避けてきた彼との婚約が、あっさりと成立してしまった。近い未来には、必ず破棄される婚約だ。
奇しくもゲームの中のイザメリーラと同じ立場となってしまった。
もうこれで私の追放は確実だろうね。婚約破棄されて、恥をさらしながら王女を続けられない。いや、私は平気でも、王家を心酔する貴族や国民がマテウスに反感を抱くかもしれない。
だから私は、汚名を被って大人しく退場するのが一番いい。
だが、心配はある。こんなに有名になってしまった私が、国外の知らない場所で、どうやって隠れて暮らせばいいのか…。傷物になってしまった私を受け入れてくれる他国の男性はいるのかな?
ああ、でも他国に嫁いだら、薬製造マシーンとして一生こき使われそうで怖い。やはり、現実問題、国外に出るのは危ない。
よし、2年後に静かに暮らせる場所を、さっそく今から探さなければ。
極楽、隠居生活に向けて頑張るぞー!