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19. グノーとアンジェ



「は~、やっと帰って来た~」


 ライツェント王国を出国して3日後、私達はアンデッド王国へと戻って来た。

 人目があるにも関わらず、琉金号のステップから飛び降りた私は、両腕を上げて大きな伸びをする。

 はあー、やれやれ。まだ若い体とはいえ、長旅はこたえるわ~


「姫様ー!」


 そこへ、私を呼ぶ大きな声が聞こえる。

 見ると王直属の騎士2名が、バタバタとこちらに走って来るのが見えた。

 私は慌てて腕を下ろすと、澄ました顔で彼らを迎えた。

 迎えは必要ないってお父様には言っておいたのに、緊急の用だろうか?


「どうかしたの?」


「至急城へお戻りになるよう、王からのご命令です!」


 あー…、もしかして、あの件…? それとも、あっちの件…?

 私はエミリと頷き合い、騎士が用意した王家の馬車へと乗り込んだ。



「おお、無事に帰ったか!」


 城の門をくぐると、出迎えたシュツテムハイツ王=私のお父様は、両腕を広げて立っていた。

 私はお父様が38歳の時に産まれた子で、今、彼はもう53歳。お母様はお父様より11歳年下で42歳。遅くに産まれた子で、しかも一人っ子なので、両親は私に対し、異様に過保護で甘い。

 お城の者も、たった一人の王位継承者である私に甘々で、15歳になった今も大層可愛がられている。前世では5人姉弟の長女だったので、すぐに両親の愛情は弟、妹たちに移り、それどころか忙しい両親に代わり、下の子達の面倒を押し付けられる始末であった。弟妹たちに愛情を注ぐことはあっても、自分が可愛がられた記憶はあまりない。

 なので、こんなべた可愛がりも悪い気はしない。いや、はっきり言って嬉しい。これも、いわゆる転生特典に入るのだろうか…?

 少々恥ずかしいが、腕を広げてずっと待ってくれているお父様の胸に飛び込んだ。アンデッド王国は欧米人の見た目通り、前世の日本よりスキンシップが盛んだ。

 お父様は私の頭を撫でて嬉しそうに笑った後、一転して悲しげに眉を下げた。


「ドワーフ王国でグノー・プラジジオン伯爵と面会したことは報告を受けていたが、彼の後ろ盾をしているというダン・グリーゲンハイト侯爵から、今朝、文が届いたのだ」


 ああ…、そっちね。

 お父様はその文と思われる紙をくしゃくしゃに握りしめている。


「あの、その文というのは…」


「グノーと婚約したというのは本当か!?」


 お父様は私の言葉を遮り、私の両肩をガッチリと掴むと、ガクガクと揺さぶる。私とエミリ、そして私の護衛についていた騎士ボイルとベントは首をブンブンと横に振った。


「もう、そんな勝手な手紙をよこしてきたんですか? 確かにそういったお話を頂きましたが、私は了承しておりません! 彼らの勝手な言い分です!」


 だから、揺さぶるのはもう止めて!

 飛翔船では全く酔わなかったのに、今まさに酔って吐きそうだ。

「なんだ、そうか」と、お父様は大きなため息をついて手を離した。

 ふう、やれやれ。

 …にしても、承諾した覚えもないのに強引に話を進めようとするとは、あの腹黒侯爵め。


「2年後の大事を控えております今、そのようなお話をお受けするわけにはいきませんもの。…しばらくその件は“保留”ということにしていただけませんか?」


 ちょっと調べたい事もあるしね。上手くしたら、グノーの弱みを握れるかもしれない。彼の才能は本物だし、味方につけておいて損はない。

 クッフッフ…


「姫様。悪いお顔になっておりますよ?」


 エミリは眉を寄せ、訝し気な顔を向けた。

 知らないうちに、悪代官のような黒い笑みを浮かべていたようだ。慌てて顔を元に戻す。

 よし、まずは気になるグノーの幼馴染の件を調べてもらおう。

 指示を出し終え、とりあえず長旅の疲れをのんびり休んで癒そうと思ったが、そういえば、お土産を買って来てたんだった。


 私はまずはお父様、そして夜にはお母様にお土産を渡した。二人とも大層喜んでくれたが、物がどうこうより、私からもらった事が嬉しいようだった。

 まあ、確かに王と王妃に相応しい品ではないしね。

 貧乏性なので、高価な物はまだ買ったことがないのだ。安物でスマン。まあ、気持ちの問題なので。

 翌日、ディカフェス先生に渡すと、まじまじと手に取り眺めた後、胸ポケットにしまっていた。全く表情が変わらないので、嬉しいのか迷惑なのか、全然分からなかった。突き返されなかっただけ、マシなのだろうか…?

 そして、その日の午後、授業を終えたマテウスを捕まえて渡す。


「え…?」


 マテウスはキョトンとした顔をした後、ディカフェス先生と同様、ジッと真っ赤な万年筆を見つめていた。

 なんだよ、お礼くらい言ってよ。怒っているのか、微かに手が震えている。やっぱり、貴族に渡すには貧相すぎたのだろうか…?

 今まで、滅多な事では城から出ないで、出ても公務だし近場ばかりなので、土産を買ったのは初なのだ。もしかしたら、一般のアンデッドの風習とずれていたのかもしれない。

 エミリからは何をもらったんだろう。少なくとも私からの物よりは喜んだだろうね。

 反応の薄いマテウスは放置して、私はさっさと自室へと戻った。


 気を取り直して、次の週、王城へとやって来たコールドウェル侯爵に万年筆を渡し、夫人にもその日に屋敷に赴き髪飾りを渡した。彼らはもうすでにこれよりも高価な品をたくさん持っているであろうに、満面の笑みを浮かべて喜んでくれた。

 王女からもらったものにケチをつける訳にはいかないだろうから無理しているのかもしれないが、大げさに喜んでもらえるのは大変嬉しい。やっぱりこうでなくっちゃね! 


 週末、城へと顔を出したスティーバさんへ荷馬車のブローチを渡した時は、大層な物を扱うように、頭の上に掲げてくれた。

 ごめん。それ、そんなにいいものじゃないんだよ…。土産物店で買った安物なのよ…

 私のリクエストで早速、胸にブローチをつけたスティーバさんは、感激したように目に薄っすらと涙を浮かべていた。私を見つめる瞳が、なぜかいつもと違って熱を帯びているように見えたのは気のせいだろうか…?

 そこまで喜んでもらうと、嬉しいような、ちょっと恥ずかしいような複雑な心境だった。




 ----------



 

「今から私がやる事を、よーく見て覚えるのよ! あなたの幸せは、あなたの努力にかかっているのです!」


 私は怯えるドワーフの娘、アンジェに試験管を突き付けながら言い渡す。

 アンジェは震えながらも、気丈に私の目を見て頷いた。そして、目の前に置かれた私が持つ試験管と同じものに手を伸ばす。

 今、秘密裏にアンデッド王国に入国させたドワーフの女性アンジェと私は、城の中にある私専用研究室に二人っきり。

 これから私が作る薬と全く同じものを彼女に作ってもらう。

 一見、簡単な作業に思うかもしれないが、実は非常に困難なものだ。なにしろ、薬作りの工程を全くメモにも取らず、薬の分量のレシピもなく、すべて頭の中に記憶しなければならないからだ。

 私にはそんなものがなくても、すべて勘で薬が作れる。そして、彼女にもそうなってもらおうとしているのだ。

 彼女に教える薬はとりあえず一つだけ。それを、完璧にマスターしてもらう。



 こうなった経緯を説明すると…

 まず、気になっていたグノーの幼馴染の情報は、すぐに集まった。

 幸運な事に、アンデッド王国に滞在するドワーフの中に、たまたまグノーの故郷であるドワーフ王国内の小さな村と同じ出身の者がいた。彼はグノーと彼の幼馴染アンジェのことをよく知っていた。

 そのドワーフから聞いた話に、私はホロリと涙した。村では有名な話だというそれは、幼く淡い悲しい恋の物語だった。


 グノーは貧しい農家の息子だった。

 彼はなんと、生まれた時から「神のスキル」があったわけではなかった。

 幼い彼は親を手伝い、いつも畑で真っ黒になり、やっと食べていけるだけの暮らしをしていた。

 一方、アンジェは代々村のまとめ役をしている家系の娘で、村で一番裕福な子供だった。裕福といっても貴族などではなく、まあ、村の盟主の娘といったところだ。

 グノーの2歳年下のアンジェは可愛らしく優しい性格で、だが、少々天然でどんくさかったらしい。しっかり者だったグノーは、歳が近かったせいか、アンジェを妹のようにかわいがっていた。

 だが、アンジェの父親は、貧乏な農民の息子であるグノーと娘が仲が良いのを快く思わなかった。アンジェの父親は、二人を近づけないよう画策するが、父親の言葉を無視して、アンジェからグノーに寄っていく有様だった。

 怒った彼女の父は、アンジェを屋敷に閉じ込め、一歩も外へ出さなくなった。

 手先が器用だったグノーは、こっそりと窓から、彼が作った玩具を差し入れ、寂しい思いをしているアンジェをいつも慰めた。

 そうして2年が過ぎた。

 だが、アンジェの父親は一向に彼女の外出を認めなかった。年頃になるまで屋敷に閉じ込め、大きな町の盟主の元へ嫁がせようと考えていたようで、それまで悪い虫がつかぬよう、彼女を外へ出すつもりは一切ないようだった。

 その頃、グノーは11歳、アンジェは9歳。アンジェが年頃になるまでまだ6年もある。それまでずっと彼女は家から出られないのだ。

 その村の外れには、小さな祠があった。そこは、ドワーフ達が崇める「技能の神ケンネス」が祀られている祠だ。

 グノーは毎日、畑仕事が終わると祠へ足を運び祈った。自分にもっと力があれば、彼女を助けられるのに。アンジェを助けてください…!と。

 祈り続けて半年後、なんと、グノーは突然、「神のスキル(魔道具作りの才能)」に目覚めた。

 だが、貧しい彼は、まずは身近にある材料で、簡素な魔道具を作り始めた。火を点けやすくする道具や、わずかな明かりを灯す物、荷物を少々軽くするだけの物など、大したこともない道具だったが、村の者もアンジェを可哀そうに思っていたので、グノーを応援するつもりでそれらを買い取ってやった。

 元手を手に入れたグノーは、材料を集め、さらに高度な魔道具を制作した。彼の作る魔道具は、村の中だけでなく、周辺地域に住む者達の関心を集めた。だんだんと有名になっていくと、近くの町からわざわざ魔道具を買い付けに来る者まで出だした。

 そこまでいくと、さすがにアンジェの父親も意見を変えた。グノーを跡取りにしようと彼を屋敷に誘い入れ、たくさんの魔道具を作らせるようになる。彼の発明のおかげで、アンジェの家は大金持ちになっていった。

 その頃、グノーとアンジェが仲良く村の中を歩く姿がよく見られ、村の者は二人を祝福していた。二人も幸せそうだった。

 だが、幸せは長く続かなかった。

 王都から、貴族の乗る豪勢な馬車が、この田舎の村にやって来た。

 貴族はアンジェの父親に大金を渡し、グノーを村から連れ去ってしまった。

 グノーを金と引き換えにあっさりと手放したアンジェの父だったが、後に彼が王に認められ貴族の身分をもらったのを知ると、あんなはした金で渡すんじゃなかったとぼやくようになったとか。

 またもグノーと引き離されたアンジェは悲しみに沈み、今度は父親に閉じ込められているわけでもないのに、一歩も屋敷から出なくなってしまった。結婚適齢期も当に過ぎ、行き遅れとなっているにも関わらず、父親に逆らい、誰の元へも嫁ごうとしないらしい。


 ふむふむ。話は分かった。

 ここは私が一肌脱いでやろうじゃないの!

 

「よし! アンジェをすぐにここに連れて来て!」


 私はアンジェ宛に手紙を書くと、それを渡してアンジェを連れて来るよう騎士に指示を出した。

 頭の中で計画を想い浮かべる。計画通りに事が運べば、きっと二人を幸せに出来る。その為には、アンジェとアンデッド王国との関りは隠さなければならない。

 そして、密かに連れて来られた彼女は、私の前で怯えていた。だが、その胸には私が出した手紙をしっかりと抱いている。


「この手紙に書かれたことは本当ですか? 私達は本当に…」


「…ええ。でも、それにはまず、あなたの覚悟が必要ですわ。マスターするまでは、お国に戻らない覚悟はありますか?」


 アンジェは口をギュッと結んで頷いた。

 私はニヤリと笑って頷き返すと、スパルタ授業を開始した。





「姫様! ドワーフ王国で新たに“神のスキル”を持つ者が現れたとニュースになっておりますわ!」


 エミリが通信機を手に部屋へと入って来た。


「!! …そう、やっとね」


 アンデッド王国で約ひと月もの間、缶詰状態となっていたアンジェがドワーフ王国に帰ってから、もうすでに5カ月が経過している。

 私は通信機の記事を読むと、ホッと息をついた。

 記事には、ドワーフ王国で新たに「神のスキル」に目覚めた女性が、ドワーフらが待ち望んでいた新薬を開発したと記されていた。

 アンジェが国に帰ってから、一向に何の騒ぎも起こらないので、計画が失敗したかと心配していたのだ。

 とりあえず、第一段階は終了だ。


「じゃあ、そろそろ彼と連絡を取りましょうか」


「ええ。ところで姫様、彼女に伝授した薬は、いったい何の薬なのですか? この記事には詳しいことが書かれておりませんが…」


「ああ、それはね、減毛剤よ」


「げんもうざい…?」


「ええ、新薬を作るにあたって、前に、どんな薬があったら嬉しいかアンケートを取っていたのよ。その中のドワーフから聞き取った資料を見て、この薬に決めたの。昔は立派な髭を蓄えることが彼らのステータスだったようだけど、今のドワーフは他種族に習って綺麗に剃るようになったでしょ? それで、剛毛に悩む男性が多かったの。いや、ドワーフは女性も多毛で困ってたんだったわ。“減毛剤”は、ドワーフ調べ、アンケート第二位よ」


 私の開発したこの薬は塗り薬で、使えば使うほど、毛の生えてくる量が少なくなっていく。個人差はあるけど、2カ月くらい使い続ければ、完全に毛が生えてこなくなる。途中で止めてもいいし、好きな毛量に調節できるのだ。


「まあ、そうでしたか! あら、じゃあ第一位は…?」


「それはね…」と私は言いかけ、口を閉じた。


「まだ秘密!」




 ----------




 私は再びドワーフ王国に足を踏み入れた。

 前回は眠いわ、初対面の人に求婚されるわ、馬鹿にされるわ、ここには、あまり良い印象はない。

 今回はグノーに手紙を出し、腹黒そうなグリーゲンハイト侯爵抜きで話がしたいと申し出ておいたのだ。

 あ、手紙に腹黒そうとは、もちろん書いてないけどね。


 発着場には、グノーの使いの馬車が迎えに来ていた。

 いや、正確にいうと、馬車の形をしているが、馬がいない。どんな仕組みになっているのかと、馬車の周りをグルグル回って観察してしまった。馬がいないのだから、ただの車だよね。

 「早くお乗りください」と急かされて、私とエミリ、護衛の騎士は車でグノー・プラジジオン伯爵邸へと向かった。



「私と二人で話がしたいとは、いったい、何の用件なのだ?」


 わざわざ他国の王女が会いにやって来たというのに、グノーは腕を組んで、不機嫌な顔で私達を出迎えた。

 とても求婚している女性に対する態度ではない。

 知ってたけどね。ああもう、知ってても気分悪いわ~


 グノーに使用人らの人払いをしてもらうと、さっさと本題に入る。

 彼も私と長話はしたくないだろうしね。


「では、早速本題に入りますわね。まずはお聞きしたいのですが、あなた、グリーゲンハイト侯爵に弱みでも握られていますの? なぜ彼の言いなりになって、私と婚約することにしたのですか?」


「は? いや、なにを…」


「なにか弱みを握られているのでしたら、私がなんとかいたしましょう。ですから、お互いに望まない婚約は、さっさと取り下げてくださいませ。あなたの想い人は、他におりますでしょう? アンジェさんを、あまりお待たせしてはいけませんわ」


「な、なぜそれを…? …なんだ、知っていたんですか」


 グノーは拳を握り、俯いた。


「アンジェさんも、あなたと同じように“神のスキル”に目覚めたことですし、あなたがグズグズしていたら、彼女も望まない結婚をさせられるかもしれませんわよ?」


「ど、どうしてアンジェだと知っているんだ! 名前は公表していないはずなのに…!」

 

 グノーは大きな声を出すと、ソファから立ち上がった。目を大きく見開き、私を見下ろす。

 私は何も言わず、彼を見つめ返す。

 しばらく沈黙が続くと、グノーは大きく息を吐き出し、再び正面に腰を下ろした。


「なんだ…そうか。そんな次々と“神のスキル”持ちが現れるなんて、おかしいと思った。あなたの仕業だったんですか…」


「で、どうなの? 彼女と結婚する気はあるの?」


「あ、も、もちろん。出来るならそうしたいのですが…」


 グノーは顔を赤くして、もじもじと話し始めた。

 どうやらグリーゲンハイト侯爵には、グノーを見つけ、国王に取りなしてくれたことに恩を感じているだけのようだ。侯爵は純粋に国の事を思って縁談を進めてくるので、断り辛かったのだという。だが、気持ちはずっとアンジェにあったので、向こうから断ってくれるように、酷い態度を取っていたらしい。

 出来ればアンジェと早く結婚したかったのだが、平民との結婚を、侯爵は頑として許してくれなかったらしい。


「…そう。でも、同じ“神のスキル”持ちなら問題ないわよね?」


「…いや、でも、たった一つの新薬を発明しただけの彼女では、侯爵が納得してくださるかどうか…」


「ああ、もうっ! あなたには才能があるんだから、もっと自信を持ちなさい! 恩があるからって、いつまでも言いなりになってるんじゃないわよ! あなたの人生なのよ!?」


 私は立ち上がると、ビシッと人差し指をグノーの顔面に突き付けた。


「予言します。アンジェはまた一つ、新たに薬を開発するでしょう。それは、ドワーフ達が待ち望んだ、夢の薬です。早くモノにしないと、誰かに取られちゃうわよ?」


「あなたは、私達の為に何故そこまで…?」


「まあ、私の人助けは趣味みたいなものよ」


 今回は少々打算も入っておりますが。 

 グノーは不思議そうな顔をした後、首を捻った。


「それで、その薬というのは…?」


 私は人差し指をゆっくりと下ろし、グノーの履いているブーツを指差した。

 グノーはその意味に気付くと、パッと顔を赤くする。

 フフン、バレないと思ってた? 




 

 それから3カ月後、ドワーフ王国の「神のスキル」を持つ女性が、また一つ新薬を開発したとニュースになった。

 そして、グノーとその女性の婚約が大きな記事になっていた。女性の名前は公表されていない。前回に引き続き、再び新薬開発を成し遂げた功績が認められ、女性ながら、男爵の位が与えられたそうだ。

 よかった、よかった。


「姫様ー、いい加減教えてくださいよ。今度は何の薬だったんですか?」


「あれ? エミリならとっくに分かったと思ったんだけど。ほら、グノーも切望してた薬よ」


「で? それは?」


「ふふ。正解は、身長を伸ばす薬よ。この薬の凄いところは、とっくに身長が止まった成人にも効くってところかしら」


「わあ、すごいです! そんなお薬が作れてしまうなんて、姫様は本当にすごいですね!」


「えへへ、まあね。でも、個人差があるから、1~10センチくらい伸びるだけだけど」


 数センチといえど、低身長の人にとってはありがたいだろう。

 最初にグノーに会った時、すぐに違和感に気付いた。なあんか、ドワーフにしては背が高いし、見たことあるような妙なブーツを履いてるなと思って。

 高い上げ底のある、いわゆるシークレットブーツだったのだ。




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