12. 告白
ライザが去った後、いまいちまだ事情が呑み込めていないコールドウェル親子に説明した。彼女が今、王の資格を放棄してドラッフェン王国から逃げ出したために、祖国から命を狙われていて逃亡中であることを、たった今聞いた風を装って。本当は、乙女ゲームの中で知ったんだけどね。
コールドウェル侯爵は、やっと納得がいったというふうに何度も頷いた。
「いやあ…それにしても驚きました。ドラゴン語をお話しできるとは、さすがでございますね。お恥ずかしながら、私は言葉が分からず、彼女の正体を見抜くことが出来ませんでした。申し訳ございません」
侯爵は私に向かって頭を下げた。
ありゃりゃ、外相である彼のプライドを傷つけてしまったかもしれない。私は、あわわと慌てて「たまたまです! たまたま知っていただけで…!」と、訳の分からない言い訳をしてしまう。たまたま知ってたって何だよ…
チートな能力のおかげで他国の言語が理解できるわけで、努力して得たものではないので、褒められて申し訳ない気分になる。
私の下手なフォローに、侯爵は笑いそうになった口元を手で隠し、話題を変えた。
「しかし、ドラッフェン王国の王は残忍なお方のようですね。自身の娘にそのような仕打ちを…」
「…そうですわね。そんな国もあるのですね」
アンデッド王国とは大違いだ。うちの王様の甘々加減を知ったら、ライザ姫は憤慨するかもしれない。
ずっと黙って聞いていたマテウスが、憤慨した様子でコールドウェル侯爵に詰め寄った。
「父上! あの王女を、我が国で保護することは出来ないのですか!? なぜ黙って行かせるのです! そんな理不尽な理由で命を狙われるなんて、彼女が可哀そうです!」
エミリの反応を伺うと、悲しそうに目を伏せていた。私も、そしてきっとエミリもマテウスと同じ気持ちだ。だが、それは出来ないのだ。アンデッド王国がドラッフェン王国の軍事力に勝るとはとても思えなかった。
コールドウェル侯爵の思慮深い瞳が曇る。「仕方がないのだ…」と言って、マテウスの頭を撫でた。
帰りの馬車の中は、お通夜のようにシーンとしていた。
みなそれぞれ思う所があったようで、おしゃべりを楽しむこともなく考え込んでいる。かく言う私も、アンデッド王国の現状に危機感を抱いていた。
いや、分かっていたよ? ちゃんと、分かっているつもりだった。アンデッド王国が危ないことは教えてもらって知っている。だが、それはまだずっと先の事だと思っていたのだ。あのゲームの舞台になる国際交流会なるものが開かれるまでは、この国はまだ安全だと思っていた。
確かに、すぐに危機がやってくるわけではないかもしれない。だが、今はまだ表面に現れていないだけで、見えない所では未来に起こる悲劇の元凶が、刻々と生まれ、育っているのかもしれない。そう考えたら、背すじが寒く感じる。
「私は…、国防の重要性について、王と話をしてみようと思います」
コールドウェル侯爵の言葉に、みんながハッとして顔を上げる。私は彼の顔を見て、コクリと頷く。
「…私からも、お話ししようと思います。お父様と相談しなければ…」
自分に言い聞かせるように言った。
ぶっちゃけ、神様からの依頼を私はまだ誰にも話していない。エミリも神様から直接頼まれたそうなので知ってるけどね。彼女も私の指示で、他の人には口外していない。あと7年。まだ時間はあると思っていた。しかし、もうあと7年しかないとも言える。まだ時間があると思って、あんまり深刻に考えてこなかったけど、これってヤバくない? 失敗すれば、失うものは私1人の命だけではない。早めにいろいろと準備しておいたほうがいい気がする。
城に戻ると、すぐに行動を開始した。
この国の危機なんだもん。この国全体で策を練った方がいいよね? みんなで考えれば、いいアイデアがいろいろ出てくるかもしれない!
…という訳で、よし、まずは両親に告白することから始めよう!
前世の私はなんでも1人で抱え込んで、誰かに頼るってことをしなかった。もう前世の最後みたいに、崖に突進するような馬鹿は許されない!
丸1日かけて、乙女ゲームの結末6パターンの筋書きを、思い出せるだけ思い出して紙に書いてまとめる。エミリに見せて、間違いがないか確かめてもらうと、サラサラと付け足しや訂正をしていく。
へ? そんなに間違いが!? うーん、さすがエミリ、記憶力がすごい…!
「…ええっと、はい。これでバッチリだと思います!…ですが、大事な事が書かれていないのですけど…?」
「ああ…うん、そうね。でも、これでいいの! さあ、お父様たちに見せにいくわよ!」
私は忙しい両親にアポを取った。
両親が地方の公務を終えて帰って来た翌日の夜に、私とエミリは指定された部屋へと入る。
人払いをした部屋の中は、お父様とお母様、私とエミリの4人だけだ。
「どうしたんだい、イザメリーラ。こんな夜更けに、我々だけで話がしたいとは…」
戸惑う両親に、私はエミリに訂正してもらってから、きちんと清書し直した数枚の紙を手渡した。乙女ゲームに出て来た攻略対象の6人と、それぞれのエピソードが書かれている。
そして、私達が神ロージスから、この国を、そしてこの世界を救う使命を与えられたのだと告白した。
それから、私の中身…魂が、異世界から来た人間であることも告げた。私の魂は、彼らの本当の娘のものではない。神様の話では、本来、イザメリーラに入るはずだった魂は、私がこの体に入ったことで、違う世界へ行ってしまった。
アンデッド王国では、体よりも魂を重んじる。その理由はよく分からないが、体は死んでいるような状態だから、魂を余計に大切に思うのかもしれない。
両親はきっと大きなショックを受けるだろう。隠しておくことも出来た。魂の正体は、アンデッド王国の未来とは関係がない。だが私は、二人に嘘はつきたくなかった。
話を聞き、6通りの未来を読み終わったお父様は難しい顔をして黙り込み、お母様は涙ぐんだ。
「…そうであったか…。そんな事情が…」
呟いたお父様の手を、お母様が手を伸ばして、ギュッと握りしめる。もう一方の手で、涙に濡れた目元をハンカチで拭った。二人の様子を見るに、信じてもらえたようだ。
私は両親に頭を下げた。
「今まで黙っていてごめんなさい! 実は…、初めは、私とエミリの二人だけで解決しようと思っていました。でも、もし失敗してしまったら、この国が亡くなってしまうかもしれません。だから、お二人にも本当の事を話すべきだと判断しました。…それと、本当に…ごめんなさい…。私の魂は…お二人の本当の子供のものでは…」
ない…と続けようとしたが、言葉が詰まって上手く出てこない。
あれ? おかしいな。なんだが視界が滲む。
この世界に生まれて10年。今までずっと優しかった両親の態度が、今日を境に変わってしまうのを想像して、胸が苦しくなってきた。
すると突然、目の前が真っ暗になる。
え!? なに!?
戸惑う私の耳に優しい声が降る。
「いいえ、いいえ、あなたは私の娘です。誰がなんと言おうと。ね、そうでしょう?」
お母様は抱え込んでいた私の頭をそっと放す。
見上げると、お母様はいつもの優しい顔で微笑んでいる。お父様もいつもと同じ、緩み切った笑顔で私を見ていた。5歳の頃までは、二人のこの笑顔を、気味悪く感じてたんだよね…。今は、その頃とは全く違う、愛しい気持ちが沸き上がってくる。
「私達はとっくに気づいていたよ。お前が普通ではないことにはな。だが、お前が何者であろうとも、愛していることに全く変わりはない。イザメリーラや…、打ち明けてくれて、ありがとう」
お父様の言葉に、お母様は頷く。そして、お母様はハラハラと涙を流す。
「…でも、そんな若くに命を失うなんて、あなたのご両親やご家族は悲しかったでしょうね。あなたも…違う世界に生まれ変わって、戸惑ったでしょうし、辛かったでしょうね…」
労わるように私を抱きしめ、背中をゆっくりと撫でてくれる。
お母様の言葉で、来澄碧だった時の両親と、4人の兄弟の顔を思い出した。私が就職して一人暮らしを始めてからは、年に3度ほどしか会えていなかったが、弟や妹はまだ学生で、実家暮らしだ。両親はまだ現役で、仕事と家のことで忙しいのに、私が帰るとご馳走を作ってくれて、みんなで食卓を囲んだ。思春期を迎えた弟たちは生意気だったけど、「お姉、お姉!」と呼んで、慕ってくれていた。死んですぐ神様に会った時にも、この世界に転生した時にも、なぜか生まれなかった感情が急速に沸き起こってきて、胸の中を埋め尽くしていく。もしかしたら、考えちゃいけないと、知らず知らずのうちに避けていたのかもしれなかった。
「ううっ、うっうっうぅぅーーーーっ」
私は顔をくしゃくしゃにして、泣き声を上げていた。しょっぱい涙がどんどん溢れてきて止まらない。
お母様は私をギュッと抱きしめ、お父様は焦りながら、私とお母様の周りをウロウロと歩き回る。エミリまでが、なぜかもらい泣きしていた。
私がいつまでも泣き止まないので、これからの事を話し合うのは次回に先送りとなった。国の方針を決めるのは、政務を担ってくれている王の側近や、コールドウェル侯爵親子らが一緒の時のほうがいいかもしれない。
一晩たって目を覚ました私は、鏡で自分の顔を見て驚いた。
うおっ、なんたる醜い顔! 紫色のはれた瞼とむくんだ顔は、ゾンビっぽさが増している。…よし! 腫れた顔を治す薬を開発しよう!
だが、散々泣いて、私の心は晴れ晴れしていた。なんだか、前世の私にやっとお別れ出来たような気がする。
しかし、すっきりとした顔をしている私と違って、エミリは浮かない顔をしていた。
「なあに? 何か不満がありそうね」
エミリはジトっとした目で睨んできた。口元はへの字に曲がっている。
「どうして、姫様がお亡くなりになる事や、国外追放になる事をお知らせしないのですか!? とっても重要な事だと思うのですが!?」
基本、従順で優しいエミリが、なんだか今日は怖い。私はシィー!と口の前に人差し指を立て、負けじと逆切れぎみに言い返す。
「そ、そんな事正直に書いたら、国際交流会に行けなくなるじゃない! エミリも知ってるでしょ? 城のみんながどんなに過保護かを…!」
「うっ…」と一瞬言葉に詰まったが、それでもエミリは不満そうに唇を歪めて文句を言ってくる。私を心配してくれる気持ちは嬉しいが、こればっかりは譲れない。ごめんね、エミリ…
未来をまとめた紙には、私が危険な目に会う事は一切書かれていない。そんな事まで書いたら、絶対に国際交流会には参加させてもらえないだろう。それどころか、もしかしたら、城から一歩も出してもらえなくなるかもしれない! そのぐらい、お父様は私を大事にしてくれている。
だが、それは困るのだ! 神様からの直々の頼みを、エミリや他の誰かに丸投げする訳にはいかない。
いやあ…しかし、いきなりお父様の側近の人達や、コールドウェル侯爵親子の前で公表しなくて良かったよ…。まさか、前世を思い出して泣いちゃうなんて思いもしなかった。あの後、自分の部屋に戻ってからも、全然止まらなくて、ずうっと泣き続けてしまったのだ。マテウスに見られていたら、また「王女らしくしろ!」って、文句を言われちゃったかもしれないね。マテウスは最初から私に厳しいから。彼に限らず、あんなみっともない所は、誰にも見せたくない。もちろん、お父様とお母様、エミリにも見られたくなかったよ…。トホホ…
そして後日、改めて王国上層部の面々が城の議会場に集まり、緊急極秘会議が開かれた。この席で、私が書いた乙女ゲームのストーリーが配られ、臣下らにも知らさせる手筈となっている。王の側近らは、お父様からすでに説明をされたようで、今日は貴族の方々への対応に専念していた。
今日集まったのは、この国の有力貴族18名だ。その中には当然、コールドウェル侯爵の姿もある。彼だけ、王の指示で、息子であるマテウスを連れて来ている。マテウスは今日の議題の重要人物だからね。ストーリーの中の登場人物だ。
私が異世界の住人であったことや、神様の部屋で乙女ゲームをした事なんかは、知らせるつもりはない。両親には話したけれど、貴族たちにそんな知識は必要ないだろう。神様が教えてくれた、6通りの未来だけを公表する予定だ。
お父様とお母様は信じてくれたけど、ここに集まった貴族らが信じてくれるかは分からない。まあ、普通は信じろって言っても無理だろう。この国の未来が、6パターンの内、4パターンが「破滅!」、1パターンは「世界ごと破滅!」という衝撃的な内容だ。
貴族らはもちろん簡単には信じないだろうし、もしかしたら「嘘をつくな!」と、罵られるかもしれない。場が荒れた場合、上手く対処しきれるかどうか…。不安が胸に巣くう。
議会場の大きなテーブルの左右に貴族らが座り、上座にはお父様と私が並んで座った。戦々恐々としながら、お父様の隣で、静かに時を待つ。
王は集まった臣下を見回し挨拶をすると、さっそく、「これは、王女がロージス神より告げられし、未来の預言書だ」と説明し、紙を配らせた。国の最重要極秘事項で、城外への持ち出しは禁止。そして、ここで聞いた事は、妻や子供らにさえ、他言無用だと命じた。貴族らは王の発言に戸惑いながら、手元の紙に目を落とす。
文書を読み出した貴族らは、「これは…!?」「ま、まさか、こんなことが…!!」と、驚きと戸惑いの言葉を発し、緊迫した様相へと変わっていく。
私はというと、なんとか平静を装っているが、内心はハラハラ冷や汗ものだ。両親に告白した時とは、比べ物にならない緊張感だ。
その時、一人の老齢な紳士がスッと片手を上げた。それに気づいた王が頷いて発言を許すと、「では…」と厳しい顔つきで口を開いた。
貴族らはおしゃべりを止め、場はシーンと静まり返る。彼が何を言い出すのかと、皆が注目している。
私はゴクンと唾を飲み込む。いつも通り、血の味がした。また口の中を切っているようだ。
彼はこの国に古くからある由緒正しき血筋を保つ貴族で、コールドウェル家と並び、国で1、2を争う権力を持っているウォルクス侯爵だ。いかにも頑固そうな初老の男性である。
「…まあ、通常であれば、到底信じられない話ですな。ですが、神のお告げを聞いたのは、誰でもない、イザメリーラ様です。私は王女の言葉を信じますし、この国の為に出来る事なら、なんでもいたしましょう」
すると、二人の貴族が、「おお、そうだ!」「イザメリーラ様がおっしゃるなら…!」と、この紳士に賛同した。
皺を蓄えた厳しい顔つきのウォルクス侯爵だが、私を見ると眉を下げ、うんうんと優し気に頷く。ウォルクス侯爵には何度かお会いしたことがあるけど、挨拶を交わす程度で、血縁者でも、特に親しい間柄でもない。なのに、彼の私を見る目は、可愛い孫か、ひ孫を見る目だ。
あらら? これも、神様から与えられた能力の1つなんでしょうか? 魅了の魔法でも発動しちゃったか? 全く心当たりはないが、もしかしたらそうなのかも…?と疑いたくなる展開だ。
いやあ…チョロすぎるわー。なんで、そんな簡単に信じられる? けっこう重たくて、突拍子もない内容だよ?
肩透かしをくらい、椅子からずり落ちそうになるのを、ひじ掛けにしがみつきギリギリで耐えた。危ない、危ない。コントみたいになるとこだったよ…
結局、ここに集まった貴族全員から全面的に協力を得る約束をして、会議は和やかすぎるくらい平和に終わった。お父様と私は席を立って、貴族らを見送り、彼らは順に挨拶をして帰っていく。
お父様や側近の人達は、この会議の様子に特に驚いた感じでもないし、これがアンデッド王国の通常なのだろう。それならそれで、また別の意味で不安だ。貴族は腹黒いもんだと思っていたけど、こんな調子でやっていけるのだろうか。他国の悪いやつらに騙されないか心配だ。
「不思議そうなお顔をされておりましたな」
見上げると、ウォルクス侯爵が目尻に皺を寄せ、私を見下ろしている。
「ウォルクス様…。ええ、てっきり、疑われるものとばかり思っておりました」
侯爵は私を近くの椅子に座るように促した。私が着席すると、その隣に侯爵も座った。
「ふむ…、ご覧ください」
彼の目線を追うと、貴族らが王に頭を下げ、退室していくところだ。にこやかに見送るお父様と貴族らの間には、古くからの旧友のような絆を感じる。
「私を含め、この国の貴族は、王に厚い信頼と忠誠心を持っております。アンデッド王国が誕生する以前から、王は一度も臣下を裏切らなかった故です。アンデッドとなって甦った王は、国が滅びた責めは自分にあるとして、位につくことを拒みました。ですが、この国の国民が、王の退位を許しませんでした」
「え、どうして…?」
「1度は滅んだ国ですが、それまで平和だった祖国を、皆が誇りに思っておったのです。そして、それを成し遂げたのは、この国を治めて来た歴代の王のおかげであると、誰もが信じておりました。あなた方王の血を引き継ぐ者は、我々にとって、平和の象徴で、希望なのです」
ウォルクス侯爵の背中を見送りながら、心の中で、申し訳なく感じていた。最良と思われる未来のルートには、唯一の王家の血を引き継ぐ者(…まあ、私の事だけど)は国外追放になって、この国からいなくなる。私は、まあそうなってもしょうがないなと思っていた。私が国内に残ったら、マテウスは多分、王にはなれないから…
貴族らが退席する中、コールドウェル侯爵親子だけは、この場に残るように命じられた。今後の打ち合わせをするためだ。
この国の未来における自身の重要性を、マテウスもついに知った。まだ11歳と幼い彼だが、根が真面目で勤勉、そしてとっても国思いだから、しっかりやってくれると思う。責任重大だが、ちゃんとフォローするつもりだから心配しないでね。
そう言って励まそうとマテウスに近づいたが、どうもいつもと様子が違う。
「あれ? マテウス?」
口数は少ないほうだけど、私に会うと、いつも簡単な挨拶くらいはしてくれる。だが今は、目の前に立っているのに、彼はぼんやりとピントが合っていない瞳で、私を見ていた。
コールドウェル侯爵はマテウスの頭に手を置き、ポンポンと優しく叩く。マテウスはハッとした顔をして一瞬、私としっかり目が合った。なのに、口をギュッと引き結び、下を向いてしまう。
「…申し訳ありませんが、私も息子も、少々混乱しているようです。お話しは、また後日にしていただいてもよろしいでしょうか」
王は侯爵の申し出を了承した。
侯爵に背を押され、心なしか肩を落として帰っていくマテウスを見送る。
マテウスに知らせるのは、まだ早かったのかなあ。自身の肩に、国民の命と、この国の存亡がかかっているなんて、確かに重すぎるよね…。私は手助けをすることしか出来ないし。
しかし、この時の私はまだ楽観的だった。マテウスは未来で、世界樹の巫女であるオリアナ姫と結ばれ、この国の王になる。大変栄誉なことであるし、オリアナは心優しい美少女だ。きっと、マテウスもやる気を出して、この国を救ってくれる…!
そう信じていた。
――だが、真面目で勤勉で、ちょっぴりシャイだったマテウスは、この日をきっかけにガラリと変わってしまった。
分かりやすく言うと、グレてしまったのだ。
…ここまで全然、恋愛要素がない…。すみません、これから頑張ります。