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1. 神様に呼ばれて…

 ご無沙汰しております。「異世界で戦闘玩具職人に任命されました」に続き、2作目の作品になります。前作より、1話が長めとなっておりますので、更新は4話目くらいから、1週間に1話位のペースでいくかと思います。楽しんでいただけたら幸いです。



「はっ! …おお、夢であったか」


 悪夢から目覚めた老神ロージスは、むくりとベッドから起き上がると、薄くなった自身の頭髪の量を確かめるように、ゆっくりと撫でた。


「うーむ…。これは善良な民たちが住む()()()にとって、あまりにも残酷な結末じゃ。しかも、民が愛する()()の未来が、ああも哀れじゃとは…。よし、一つわしが手助けしてやるとしようかのう」


 天界に住む神々の中でも慈悲深き神、ロージスが見ていた夢は、地球とは異なる世界で、これから起こるであろう未来であった。彼の持つ能力の一つ、予知夢である。

 その異世界にある国々がこれから迎えるであろう未来は、幾重もの分岐点で細かく枝分かれをしており、どう転ぶかで起こる事象は多少異なる。だが、大筋の結末は6通りであった。未来はまだ定まってはおらず、6通りのうちのどれになるかは確定していない。

 このまま、ただロージスが静観していれば、6通りのうちの、どれか一つの結末を迎えることになるだろう。だが、どの道筋を辿ろうとも、そのほとんどにおいて、その世界にある、()()()()()()が破滅を迎えていた。そして、()()()()()()は、全ての結末で悲劇を迎えていた。



 -----------



(あお)せんぱーい、もう、はやいですって! 待ってくださいよー!」


 後方から大きな声を上げて追いかけて来るのは、私が勤める会社の可愛い後輩だ。

 入社6年目、25歳となった私、来澄(きすみ)(あお)は、同じ部署の2歳年下の後輩・沙也加(さやか)ちゃんと二人旅をしていた。私達二人が在席する総務課は、毎年、春の恒例である怒涛の激務が一段落し、部下思いの優しい上司のおかげで、二人揃って、たった一日だが、休暇を取ることができた。土日も利用し、二泊三日、女の二人旅だ。

 お年頃であるが、彼氏はいない。過去にいたこともない。いや、モテないわけでは断じてない。うむ、現に告白された事は、過去に幾度もある。残念ながら、せっかく交際を申し込まれても、こっちにその気が全くなかったので、すべてお断りしてしまった。そして、気になる人からは、全く相手にされた事がない(涙。

 …うん、だが、まだ大丈夫! なんてったって、まだまだ花の25歳だ。今後の出会いに期待しよう!

 小動物のような見た目の、一見、守ってあげたくなるタイプの沙也加ちゃんは、私とは違って彼氏持ちだ。羨ましい…。しかし、先輩である私の誘いを優先して、旅行に一緒に来てくれた。ああー、いい後輩を持ったよー。


 今日の私はいつもとは違い、うきうきバカンスモードだ。こんな日は新たな出会いがあるかもしれない! 

 長い髪を後ろで一つにギュッと縛り、息苦しい会社の制服を着こんでいる、いつもの仕事モードとは違い、本日はストレートな髪をさらりと下ろし、この日の為に新調した、鮮やかな空色のチュニックを着ている。

 梅雨のさなかの旅行の計画だったが、初日である今日は、前日までのしとしとと降っていた雨もカラッと上がり、晴れやかな青空に恵まれた。なんともラッキーだ!


「いやあ、見てよ、沙也加ちゃん、この空! やっぱり、私の日頃の行いがいいせいだね!」


 ルンルンとスキップしながら早足で岩場を跳ねながら進んでいく。


「確かに、碧先輩はいっつも善行をしてますよねー…って、こんな岩場で跳ねないでくださいよー! そんなに浮かれて、転びますよ!?」


「うふふふっ、大丈夫、大丈夫ー!」


 かなりそそっかしく運動音痴であることが、この後輩には何故かバレてしまっている。心配してくれる声を後方で聞きながら、サッと片手で髪をかき上げ、湿度の高い潮風を肺に吸い込んだ。


 二人は海に面した観光地に来ていた。今日は平日で、観光客は全体的に少ない。眺めのいい崖の上に立ち、周りの景色を楽しむ。


「それにしても、こうして沙也加ちゃんと一緒に旅行ができて楽しいな! 二人同時に休めるなんて、課長は太っ腹だよねー!」


 隣に並んだ沙也加ちゃんは、ニヤリと笑って私を見た。


「まあ、先輩はうちの課になくてはならない存在ですからね。先輩に辞められでもしたら大変ですから、課長も断れませんって」


「へ? いやあ、それはないんじゃない?」


「うちの課の一番の働き者じゃないですか。みーんな、いつも助けてもらってます」


 5人姉弟の長子に生まれ、忙しい両親に代わって、姉として弟と妹の面倒をみてきたせいか、自他ともに認める世話焼き体質になってしまっていた。困っている人を見ると、あれやこれやとついつい手助けしてしまう。頼られると、つい頑張っちゃうんだよね。誰かの役に立つのが嬉しいんだから困りものだ。


 沙也加ちゃんは私の性格をちゃんと理解してくれていて、やりすぎな私を、いつもフォローしてくれる。年下ながら、周りに気遣いが出来る、本当によく出来た子だ。結婚するならば、その辺の男子よりも、ぜひ彼女としたいところだが、残念なことに同性だから、当然無理である。誤解がないように言っておくが、ちなみに私にそっちの()はない。


 彼が出来ないのは、そっちの()のせいではなく、私が、実はかなりのイケメン好きのせいなのだ。それを周りには隠して生きている。イケメンで沙也加ちゃんのように頼りになる世話焼きな人が理想だ。容姿が並のくせに、高望みしすぎである。そんな理想を思い描いているから、なかなか彼が出来ない現実があった。


「はあ、まったく。他人の残業まで付き合ってあげたりして、先輩が体を壊しちゃいます。本当は自分の事でいっぱいいっぱいで、かーなーり、どんくさいって知ってるんですから。いい加減、身の程をわきまえないと、いつか痛い目に会いますよ!」


 先程は持ち上げてくれたのに、後半は耳の痛い忠告だ。思い当たるだけに反論が出来ない。


「そ、そうだよねえ…。えへへ。でも、そんな事言って、沙也加ちゃんも結構、世話焼きじゃん。いっつもフォローしてくれて、ありがとね」


 笑ってお礼を言うと、沙也加ちゃんは顔を赤くして、プクッと頬を膨らます。


「私は碧先輩限定で世話妬いてるだけですからっ」


 まあ、なんてかわいいんだ! 萌える! 彼女の優しさに、心がほわっと暖かくなった。 

 気分を良くした私は、さらにハイテンションになって、トコトコと崖の先端へと歩を進め、絶景を楽しむ。


「うわわ! ちょっとちょっと、そんな端の方へ行ったら危ないですって! そそっかしいんですからー!」


 どんくさいとか、そそっかしいとか、散々な言われようだ。実際、2歳下の彼女の方が、私よりよっぽどしっかりしている。


「えー? もう、大丈夫だって。まだ先端までだいぶあるよ?」


 うわあー、たっかいなー!

 下の海面は、思わず眩暈がするほどに遠くに見える。

 周りに建物がない崖の先の方は、なかなかに風が強かった。長い髪が真横にたなびく。


 その時、幼稚園児くらいの男の子が私から数メートル離れた場所で、崖下を覗き込もうと、ゆっくりながら、どんどん先端へと近づいていた。


「ええっ!? ちょっと、僕、危ないよ!?」


 少年の行動を黙って見ているわけにいかず、思わず声を掛ける。周りをきょろきょろと見回すが、この子の親らしき人の姿はない。

 少年は私の言うことなどまるっと無視して、さらに、ちょこちょこと崖の先端部分へと近づいていく。


「そんなに先まで行ったらダメだって!」


 小さい子供の危険行為を放ってはおけない! 恐る恐る、少年の近くへと移動する。


「もう、言ったそばから! またそんな知らない子の世話妬いてー…」


 沙也加ちゃんは、じれったそうに、私と少年を見守っている。


「ほら、こっちへおいで?」


 男の子へと手を差し出す。

 その時、びゅうー!と激しい突風が私達を襲った。


「あっ…!」


 男の子はグラッと体勢を崩す。


「危ないっ!!」


 私は慌てて走り寄り、男の子へと勢いよく手を伸ばす。

 男の子は差し伸べられた手をひょいっと避けると、来た道を軽やかに戻っていった。


「ええっ!? って…あらら!?」


「せ、先輩!?」


 男の子を掴もうとしていた手がスカッと空振りする。前方へと勢いのついた体は、よろよろと崖の先端を通り越し、そのままポーンと空中へ飛び出していた。


「きゃああっ、もう馬鹿ー!! だから言わんこっちゃなーい!!」


 遥か下にある、岩が突き出した海面へと落下しながら、沙也加ちゃんの叫び声を聞いた。

 ああ…やってもうた。

 こうして、私は一度目の人生を終えた。



 ----------



「あれ!?」


 意識を取り戻した私は、パチリと目を開けると、横たえた体を起こして首を回す。そこは、広々とした明るい室内だった。ヨーロッパ調の装飾が施された全体的に白っぽい部屋だ。私が寝ていたのは、その部屋の中央に置かれた大きなソファの上だった。

 ソファのすぐ前にある横長のテーブルには、私も持っている携帯型ゲーム機と、知らないタイトルのゲームソフトが置かれてあった。

 ナニ?ココ。ドコ?ココ。


 その時、部屋に一つしかない大きな扉から、残りわずかな白い頭髪と長い顎髭を生やしたお爺さんが、部屋の中へと、ゆっくりとした足取りで入って来た。白い大きな布を体に巻き付けて纏っている。まるで、ギリシャ神話に出てくる神様のような姿だ。

 お爺さんと目が合うと、親し気に話しかけられた。


「ほっほっほ。目覚めたようじゃな。気分はどうじゃ?」


「えっ!? あの…私、死んだんですよね?」


 自身の体を見下ろして無事を確かめる。崖から落ちた記憶は、しっかりと残っている。あれで無傷なんてありえない。キョトンとして、またお爺さんに視線を戻すと、彼は眉を下げ、こくりと頷いた。


「そうじゃ、お主はもう死んでおる。じゃがな、生前、善行をたくさん積んだお主に頼みがあって、特別にここに来てもらったのじゃ」


「私に? 一体なんの…って、えっと、あなたは?」


 ハハハ…死んでからも頼られるって、いかにも私らしいよね。

 何故だか分からないけれど、不思議と心は落ち着いていた。死んでしまった焦りや怒り、悲しみは湧いてこない。ああ、やっちゃったなあ…という、気恥ずかしさがあるだけだ。あの死に方は恥ずかしすぎる! どんなドジっ子だよ!? それから、沙也加ちゃんに対しての、申し訳ない気持ちが沸き上がった。楽しい旅行になるはずだったのに、台無しにしてごめんよ…。許してくれー、沙也加ちゃーん!


 それにしても、見るからに神様っぽいこのお爺さんは、何者なのだろうか。やっぱり神様なのだろうか。

 お爺さんは顎髭を撫でながら口を開いた。


「わしは天界に住む神じゃ。名をロージスという」


 おおー、やっぱり神様だった! 見たまんまだった!

 ロージスはテーブルの上に置かれたゲーム機を指さした。


「まずは、このゲームをやってみてもらえんかのう? わしから事情を説明するよりも、そのほうが分かりやすかろうと思って用意させたのじゃ」


 私はゲーム機とゲームソフトを手に取った。

 ソフトのタイトルは『世界樹の巫女オリアナと6人の王子たち』。 

 パッケージには、真ん中にゆるふわ髪の美しい少女と、彼女を取り囲むキラキラまばゆいオーラを放つ6人の美青年、その横には、顔色の悪い女性が描かれていた。

 真ん中の少女は人間のようだが、それを囲む男性らは、一人を除き、他は全員、人間ではない見た目をしていた。頭にケモ耳が生えている者、頭から2本の角を生やした者、背中に羽が生えている者もいる。

 女性一人に複数のイケメン男性って…まさか。

 ケースを開けると、中の説明書を取り出す。説明書には主人公である少女とライバルの女性、そして、6人の王子のプロフィールが書かれていた。


「…あのう、これって、乙女ゲームなんですか?」


 ロージスは皺を深くし、にこやかに頷いた。


「夢の内容を分かりやすく伝えられんもんかと頭を捻ってな。思いついて、天使らに作らせたのじゃ。夢の内容がそのままゲームになっておる。お主のおった世界ではこういう物が流行っておるのじゃろ? わしがただ話すより楽しめるじゃろうて。詳しい話は後でするとして、まずはゲームを楽しんでおくれ」


 夢?とか意味が分からないけど、私に頼みたい事と、このゲームの内容が関係あるのかな?

 乙女ゲームというものは、話に聞いた事はあるけれど、実際にやったことはない。こういうのって、攻略対象の6人全員クリアとなると、ものすんごく時間がかかるんじゃないのかな? えっと…攻略本はないんですかねえ? あら、ないの? それじゃあ、やっぱり、相当に時間がかかりそうだし、初心者には骨が折れそうだよねえ…

 しばし悩んでから、はたと気付く。ああ、そうだ。考えてみたら、もう自分、死んじゃってるんだし、時間を気にして焦る必要はないんだ。神様から直々にこれで遊んでいいって言われてるんだし、ゲームの中身もちょっと気になる。主に、イケメンとか、イケメンとか、美少女とか…。ふむ、それならやらない理由はない。いっちょ、楽しんじゃうかー!


 私が分かったと頷くと、神様はホッとした顔で頷いた。


「焦らずともよいぞ。のんびりと楽しみなさい」


 そう言い残し、来た時と同様、静かに部屋を出て行った。

 さっそくゲーム機にソフトを差し込む。

 人生初の乙女ゲームだ。わくわくしながら電源を入れた。




 読んでくれて、ありがとうございます。気候の変動が激しいですが、みなさん、お体に気をつけて。

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