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いいお医者さん 離

「着いたよー。」


 弾むように明るいフェイルの声。私はぐったりと倒れ込む。

 まさか、二度も経験すると思っていなかった生身での空中飛行。直ぐにギブアップしたためにあまり憶えていないが、かえって良かったのかもしれない。


「次からは予告して?」


 私を見下ろしているフェイルに対し文句の一つでもつけようとしたが、自分でも驚くほどか細く弱々しい声で諦めた。

「楽しかったでしょ?」

 ……私は苦笑いを返した。


「で、何処に連れて行ってくれるのかしら。」


 何故だか、私に医者を紹介してくれるらしいフェイル。

 突拍子がなかったため戸惑いはしたものの、お礼として出してきたものなので多少の期待はある。


 私はやっとのことで起き上がり、辺りを見渡した。


 …………?


 胸がざわつく。

 きっとそれは私ではない。リズ、なのだろうか。

 グチャグチャだった私の頭の内も、今はすっかり晴れている。なのに、リズの部分が重く苦しい。


「ここは何処?」


「僕の姉さんのいるまち。」


 まち?

 街。

 ごく普通の会話なのに、私は理解に苦しんだ。

 だってここには何もない。ところどころ瓦礫があるだけの森の広間。

 とてもじゃないが街とは言えない場所だ。


「あ、出迎えに来てくれたみたい。」


 キョロキョロ辺りを見渡していると、突然フェイルが大きく手を振りだした。

 しかし、その視線の先を見ても誰もいない。

 

「誰が来たの?」


「姉さんだよ。」


 当たり前でしょう。そう言わんばかりの顔。

 不安が募る。嘘のようだが数分前に、フェイルと最悪の出会いをしたばかりだ。一体どんな人が来るのだろうと身構える。が、やはり一向に姿はない。


「……どこ? あなたのお姉さん。」


 私がそう尋ねてみてもフェイルは満面の笑みを浮かべたまま、手を振り続けている。

 もしやからかわれているのだろうか?

 そう思ったとき。


「これはこれは、また随分と変わったのを連れてきたねぇ。」


 白衣をまとった女性がパッと私の前に現れた。

「わぁっ!?」

 ワンテンポ遅れて声を上げると、それと同時に私は跳ねるようにして後ろへ下がる。拍子に尻もちもついた。

「きゃぁ!?」

 直ぐに起き上がろうと試みたが、脚がもつれてもう一度転ぶ。

 そうして私が一人で騒いでいる最中も彼女は只々じっと私のことを観察していた。


「フェイルのお友達、という訳では無いのだろう?」


 ひとしきり私を見たあと、ようやく口を開いたと思えば何とも答えがたい質問が飛び出してくる。

 ありのまま言える訳も無く、私は助けを求めるようにフェイルを横目で見る。


「恩人だよ。」


 するとフェイルは事の経緯を話しだしてくれる。もちろん、彼の記憶での物語だ。

 フェイルが嬉々として話す物語を、お姉さんはにこやかに聞いていた。


「ふ〜ん。フェイルのメモ帳を、ね。

 ……それは何かお礼をしなくちゃあね?」


 お茶でもご馳走しよう。


 彼女はそうして、私を自身の家へと招待した。

 舐め回すような目つきは変わらずに。

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