フェイルと名乗る男 輪
「ついでに聞かせて欲しいんだけどさ。」
一頻り女神の話を聞き終えた私は、そう切り出した。
「フェイルって、どんな子?」
そういえば、女神には聞いていなかった事だ。
気になりはしたが、聞くタイミングが無かったのだ。あの時は、そうだ。女神に勇気とやらを貰って、それからだったか。女神自体あまり穏やかではなかったし、私も女神を信用出来なくなっていた頃だ。
思えば、信じて疑って受け入れて突き放して、敵対して仲間になって。本当に、私は身勝手というか何というか。
「フェイル、ですか……」
女神は声を落とした。
そして、重たそうに頭を上げると。
「優しい子ですよ。」
遠い目でそう言った。
フェイルに斬りかかられた記憶が蘇る。その後の事も。優しいとはとても思えなかった。
「今は違うのかな?」
「いえ。」
私が尋ねると、女神は食い気味に否定してきた。
「今も昔も変わらない。純粋で、甘えん坊で。寂しがりや。」
"ただ"
ひとつだけ。
問題があるとするなれば。
「致命的に絶望的に最初が悪かった。」
兵器としてつくられたフェイルは、何処か欠落していて。彼の様子を見ていると、時々心が傷んだそうだ。
でも女神は兵器を育てたかったんだろうと私が言うと、
「どうだったのでしょう。」
何処か他人事のような女神がいた。
「兵器として生まなければ。何も悩む事はなかったのに。」
兵器として生まれていなければ、彼は悪役に徹しようとすることもなかったのに。
「後悔しています。」
女神は続ける。
私達を、普通の人として生んでいれば良かったと。
特に私には、酷い扱いをしてしまったと。
他の子供達とも違う。仮染めの心しか持たない私は人を模した人形の、贋作にも―
「私の話はいらない。」
ムスッとして私は女神の話を遮る。
吐き気がするほど興味がなかった。
それを聞くと女神は落ち込んだように、何かを噛み締めたように。頷いて、話を再開した。
「私が全て悪いのです。優柔不断で自己中心的な私が。」
子供達に何か償いをしなくてはいけない。
そのためになら何だってしてやる。
「他を一切犠牲にしても」
フェイルは女神に捨てられたと言っていたっけな。
他を一切、ね。
変なの。
私には理解できる筈のない感情だった。




