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悪役 離

「ハッ、ハッ。」


 フェイルの振るった刃はランスの首を通り抜けていった。

 痛みは、無い。


 そういえば、そうだった。

 私は意識しなければ物に触れることも出来ないのだ。

 そうだ。そういえば。

 この男は、何故私を認識出来ているんだ?


「絶対に外してない。のに、手応えが無い。」


 男はナイフをジッと見つめながら

 「……分からない。」

 そう呟いたと思うと、おもむろにメモ帳を取り出し。喰い入るようにそれの中身を眺め始めた。


 この隙に逃げようかとかんがえたが、私は腰が抜けてしまって立つことすら満足に出来なかった。


「証拠ぉ、見せつけられちゃった。君は僕の探している人じゃない。」


「そうだって、言ってたじゃない!」


 文句を叫び、男の方を睨みつける。すると眼があった。

 同じく私を睨む眼。怒りとか憎しみとかそういう感情の一切宿っていない。冷たい目。凍えるような気がした。


「分かった、のは。君が何者か分からないという事。ねぇ? 君はだぁれ?」


 そうすると、私はもう。どうしたら見逃してもらえるかだけを考えていた。

 正直に話そうか嘘を通そうか、無理なら泣いて懇願でもしてみようか。


「ねぇ早く答えてよぉ。」


 視界いっぱいに男の、あの瞳が凍り、付く。

 息ができなくなる程の恐怖を感じた私の口は、一人でに動きだしていた。


「本当は、私ランスって言うの。私が何者なのかなんて、自分自身にも分からない。」


 震える声で、真実を話した。しかし男はかわらぬ様子で

「分からないなぁ」

 と、再び口にする。


「どうして君は嘘をついたの?」


 先程までの無表情とは打って変わって、男は笑みを浮かべて私に尋ねた。

 男はナイフを見せつけるように自身の顔の前に出していた。


 恐い。


「恐かったからよ! あなたの事が。」


 思わず言ってしまった。

 少し遅れて心臓が騒ぎ出す。


「酷いなぁ、まだ会って間もないのに。恐いなんて。」 


 しかし男は怒るでもなく、笑顔のまま。穏やかにそう言った。


「でもいいよ。そうだ。僕は悪役だからね。生まれた時から。」


 ……

 男が意味不明なことを言ったかと思うと、暫くの間沈黙が流れて、それから。


「君が何なのか僕が分かるまで斬り続ける、から。……逃げてよ。」


 微笑み、ナイフを構える。


「え……当たらないって、さっき試したじゃない。」


 さっき味わった、ナイフが首筋を通る嫌な感覚を思い出す。

 当たることは無いから痛みも無いが、産毛が逆立つようなあれをいつまでも続けられるとなると、それは拷問と変わらない。


「やめて、やめてよ。」


 私は産まれたての小鹿のような足で走り出した。

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