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これが普通 輪

「大丈夫じゃないですね? それでいいんです。これで。」


 ボソボソと呪文のように呟く声を耳にしながら、真っ赤になった腕をみて私は何が起きたかを理解する。

 またか……

 長く息を吐いて声の元を見る。私が意識を失う前に見たあの笑顔は何処にいってしまったのか、女神は頭を抑え苦しそうだ。


「……大丈夫?」


 腕に付着した液を、雑に拭いながら尋ねた。

 その言葉にだろうか、女神は酷く驚いたようで。それから、より一層苦しみだした。


「ねえって。」


「なんで! そんな言葉をかけられるのですか!? 恨み嫌い、憎んで! それが、普通なんじゃないのですか。」


 声を荒げて息を切らして、必死な叫びを聞く。

 普通、か。


「もう疲れちゃった。」


 その一言で私の中の何かがプツリと切れ、膝から崩れ落ちる。女神は戸惑いと心配の色を見せたが、直ぐさま別の物で塗りつぶした。

 女神も偽っている。私も。


「普通を演じるのは、疲れたな。」


 ずっとずっと、きっと何処かにいる誰かのために。自分を偽ってきた。世の普通なんて知らないのに。手探りで見つけようとしてた。

 散々から回ったし、周りから見たらおかしな行動もしただろう。

 結局、誰の為にもなりはしなかったな。


 だから、

「女神も演じてないでさ。教えてよ。」


 本当の思いを、根底にある真実の君を。


「協力するから。」


 きっとその方が、ずっと楽しい。



「私は、私は――」

 しばらくの沈黙の後、女神は重たそうに口を開いた。

 しかし、一度開いたら閉まらないのかその後は壊れた蛇口のように延々と出てくる話を、私は静かに聴いていた。

 

 なんだ、そんな事か。


 女神の本音をきいて私は笑った。


「変、ですよね? 自分でも分かって」

「変かどうかなんて、私に聞く?」


 偽って、偽って偽って偽って。本当が何なのか分からなくなった私は。それ故に全部を失った私だから。

 この真っ直ぐな女神を応援したいと思った。


「女神の夢を叶えるよ。」


 いつになく煌めいた笑顔で私は真っ赤な絨毯の上を歩きはじめた。

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