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様子がおかしい 輪

 結局あれは何だったのだろうか。

 リズは煙のように消えてしまった。全て、私の妄想だったのだろうか。だとしたら、もっと自分に都合の良いようにすればいいのにと思う。

 数時間前の出来事、リズとの会話を何度も脳内で繰り返しながら私はそんなことを考えていた。


「いつまで落ち込んでいるのですか?」


 すると、一つの影が私の顔を覗き込んできた。

 ずっと私に何か言おうとしてはそれに失敗していた様子だったが、ようやく話しかけることが出来たようだ。

 あんなにも重たかった口から出てきたとは思えない程に、どうでもいい内容。

 別に私は落ち込んでなどいないのに。どうしてそんな事。


「私も頑張ったのですよ? だから、あの……」


 そこで言葉がとまる。

 少しのあいだ私から離れ直ぐに帰ってきたと思えば、それから女神がおかしいのだ。

 何をもじもじしているのか。


「約束の話?」

「へ?」


 気の抜けた声。


「私の物になれとか言ってたでしょう?」


「あ……そう、でしたね。」


 挙動不審な理由を必死に考えて口にしてみたのだが、どうやら検討違いだったようだ。

 結果はどうあれ協力したのだから見返りを寄越せ。とでも言ってくるのかと思えば、約束を持ち掛けてきた本人はそのこと自体を忘れてしまっていたらしい。


「それは、また今度でいいです。それよりも、大丈夫ですか? 何処かおかしなところはありませんか?」


 オドオドとした口調。

 女神は急に忙しそうになって、私をみる。その眼はこそばゆいような、不思議な感覚がした。


「もしかして、心配してくれてるの?」


 その言葉で女神がポカンと口を開ける。

「……アハハ!」

 その顔が面白かったのか、何だか可笑しくなって私は声を出して笑った。


「あなたは私の事を"道具"としてしか見ていないと思っていたわ。」


 そう、何気なく口にした。

 今までの言動を考えれば私がそう受け取っても文句は言えない筈だが、それを聞いた途端黒い影は何かブツブツと呟きながら思いつめたように丸くなってしまった。


「そうだ。こんな筈では無かった。今回は、気をつけていたのに。また……」


 バッ! と起き上がると、女神はすごい眼で私の事を睨んできた。

 そうしてひと呼吸置くと、いつか聞いた、お手本のような甲高い声があがった。

 目の前が真っ暗になった。

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