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迷い込めば 離

 いつのまにか、物々しい雰囲気漂う家の前に立っていた。

 豪華な家であるが、まるで人の目から逃れるように、生い茂る植物で囲われている。

 先程までの街の光景が嘘のようで、別世界にでも迷い込んだのではないかという気さえあった。


「まだ早すぎるかもね。」


 私が立ち尽くしていると、ミストがそんなことを言った。

 「危険だよ。」と、付け加えられるも、すでに死んだ身、怖いものは無いとたかをくくる。深呼吸をして私は重く冷たい扉に手をかけた。

 心の何処かで、そこに入ることを拒絶している私が居るように思えた。


「あなたがここに連れてきたのよ。大丈夫、開けるわ。」


 ギィイッ。

 いかにもと言った音を立てながら、扉は動いた。

 外から見た限り、全ての窓が板で塞がれていた。隙間なく。当然、光は入ってこない。ただ、私達のくぐる扉から入る明かりのみが中を照らす。


「暗い!」


「やめとく?」


 やめない。

 足を踏み入れる。もちろんのこと電気は止まっているので、灯はつかず足元もみえない。


「何もわからないわ。」


 そうぼやくも、私は真っ直ぐに、ある一つの目的地へと向かっていた。間取りも知らない筈なのに、特に迷うこともなく、すんなりとそこに辿り着くことが出来た。

 一つだけ雰囲気の違う扉。まさにそれを見た瞬間、張り裂けそうなくらいに心臓が鳴る。呼吸もままならなくなる。


「大丈夫?」


 心配するミストの声も、全力で拒否する私の身体さえ抑え込んで、私は扉の向こうへと飛び込んだ。

 後悔した。

 そういえば、この家の周りに、生きている人どころか死者の影すら無かった事を今更ながらに思い出した。


「ごめんなさいごめんなさい。」


 飛び込んだ途端、崩れ落ちた少女は、何度も何度も同じ言葉を繰り返す。酷く怯えた様子で蹲る。

 そこは牢獄だった。定員一名の鉄格子。扉や錠など、牢の状態は記憶からそっくりそのまま写し取られたように。全て、私がここを出ていった時と同じ。

 ただ一つだけ、違うとすれば、辺りを真っ黒い靄が埋め尽くしていることだろうか。多分、いやきっとカイさん、もといマリネの周りを渦巻いていた赤黒い影、それと同じものだろう。


「怨念、恨み。」


「私は受け入れなければいけない。」


 前は、傍観者。関係ないと思っていたので、おぞましいとか、そんな率直な感想しか無かった。今は違う。

 ボソボソと呟かれるその声一つ一つに耳を傾け、その度、感情を揺さぶられた。


「ごめん……なさい。」

 

 黒い靄は吸い込まれるように、少女に近寄っていく。

 そして実際、吸い込まれた。辺りはすっかり透き通った。


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