変わったらしい立場 離
「さて、じゃあ何処に行こうか。」
キョトンとした顔をして、ミストは無責任なことを口にした。
急に投げやりになったなと思いながら、私が黙ってそれを見つめていると、「何?」とでも言わんばかりに目をぱちくりさせてきた。
「カイさんの」
「それ、辞めてくれる? 虫唾が走るんだよね。」
耐えかねて、思いを声にしようとしたのに、遮られる。ミストはしかめっ面をしているが、何に対しての物なのかは分からない
「呼び方だよ。変えよう。そうだな、マリネでいいか?」
私がどれだけ不思議そうにしていたのか知らないが、そう付け加えられる。私がカイさんと言うのは相当いやなことらしい。ポンと雑に出したであろう新しい呼び名を提示される。
特に断る理由も無いので、仕方なく私はそれをのむ。
「マリネさんのところに行かないの?」
そして、先程は遮られたことを今度は最後まで言い切った。
「君はレベルも上げないでラスボスに挑むのか?」
心底わからないといった顔で言われた。
どの口が言っているのか、わけもわからぬままラスボスに会わせたのは誰だよ。
文句の一つでもぶつけてやろうとしたが、逃げるようにして私の視界からミストが消える。
「よいしょ。」
ん?
何処へ行ったのか疑問に思うよりも前に、ミストは私の背後に現れた。そして、抱きしめるように手を私の腰に回す。
「じゃあ、行こうか。」
「え、え? わ――」
背の高い草を見下ろし、一瞬木の葉に囲まれたと思うと、急に開けた場所に出る。眩い明かりに襲われて、ようやく朝を実感する。
空だ。
空に浮いている。さっきまで私を閉じ込めていた木々は、小さく小さくなって、ついには真っ白いもので全く見えなくなってしまった。
あぁ、ああ。
「―ああああああぁぁ!!!」
どれだけ叫んでも声がかれないという新しい発見があった。
「つーいた!」
多分、そこまで長い間飛んでいたわけではないと思うが、とても久しぶりに地についたような気がした。
私はぐったりとしていると言うのに、ミストはむしろ生き生きとしているように思える。
「どうして、何も言わずに、こういうことするの。」
カタカタと震える身体で、今にも消えてしまいそうな声を出した。聞こえているのかいないのか、相手は微笑み首を軽く傾けてみせる。
「っていうか、飛べるなら早く言ってよ!」
長い道、暗い森の中を歩かされたのを思い出した。
私は怒りをあらわにしているのに、ミストは尚もニコニコとしている。
「……なんか、態度違う?」
今までの、少し間をおいた、畏まった感じがなくなった。気の知れた友達、なんていえば聞こえはいいが、礼儀配慮がなくなったといえばそれまでだ。
私がその旨を尋ねようとすると、
「立場が変わったんだよ。」
そう、ミストはすぐに答えてくれた。




