明確な意思で 離
少女は去ろうとする影を後ろから捕まえた。
「他の人がやるなんて、許せない!」
私を捨てて他の人のところへ行く。そんな意味の言葉を聞いて、大人しくしていられる訳が無かった。
もちろん、単に悔しいという気持ちもあったがそれが主ではない。何処かの知らない誰かが、あの人を殺す。それをおとなしく見ていろ、なんて。耐えられない。許せない。
ランスは相手の襟を掴んだまま固まった。が、それをミストは力一杯振りほどく。
「どうして? 君には関係ない。それに君はあくまで消極的だっただろう?」
そしてそう、口にした。
確かにそうだ。最初は何の接点もない赤の他人だった。言ってしまえば今もそうだが、そうじゃない。
この気持ちは嘘じゃない。
「うるさい! 知らないそんなの!! もし、他の人にするんなら、絶対。絶対に邪魔してやるから。」
子供のように駄々をこね、必死にミストへしがみつく。絶対に手を離すものかと、力を振り絞る。
「わかった。君に任せるよ。」
あっけらかんとした態度で、ミストは言った。
少しの間が空いて、驚きと困惑の表情でランスが顔を上げた。エラーでも起こしたかのように動きを止めた後、おもむろに口を開く。
「え、いいの?」
予想に反してあまりにも呆気なかったからなのか、自らの望んでいたことの筈なのに、尋ね返す。
「うん。」
「本当に本当?」
三度質問して、同じ答えなのを確認してようやく、ランスの力が抜ける。
ランスがヘナヘナと、地面に崩れたのと同時に、ミストも座り込んだ。
「しっかりと任務をこなしてくれれば誰だっていいのさ。邪魔はされたくないし。」
誰だっていいと言われると、少々腹も立つが、取りあえずは一安心。
なんて思っているとミストが目の前の相手に指を差し、
情が入って任務に支障を来す事があれば、次は本当にお別れだ。
なんて、軽く釘を刺される。
「大丈夫!」
ランスははっきりとした口調で言って、胸にドンと手をぶつける。心配はいらないとの事だ。
少女は今度は明確に、これは紛れもない自分の意志で、敵を討つことを心に決めた。
「改めて、よろしくね。」
握手を求め、力の入った手を相手に差し出した。怪訝そうな表情を浮かべ、ミストはそれに応じる。
「少しは、僕の言うことも聞いてくれよ。」
それに対しては、ランスは首を縦にも横にも振らず、ニコッとただ笑みを見せた。
長いようで短い、私の物語の始まりは不安と期待の入り混じるものだった。




