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雑に剥がされたラベル

 渡された物が一体何なのか、戸惑いが隠しきれなかった。

 何も言わずに受け取ったは良いものの、これをどうしろと言われたか、もう覚えてはいなかった。


「調味料か、何かですか?」


 そんなわけが無いとは思っていながらも、少女は尋ねた。けれど返ってくるのは、どっちつかずの無責任な笑顔だけだった。


「いいから、お願いね?」


 小瓶から離れかけていた手を覆うように上から握り、身体を引き寄せる。少女の眼前まで迫った状態でカイと呼ばれる女は言った。

 そうして、背中を向ける。


 考えてみれば最初からおかしかった。手伝わせるといっても、年の大きく離れた子供に刃物を持たせるだろうか。

 持っている刃物を少女は強く握りしめる。


「狙いは、何よ。」


 真夜中の森。動物の声も聞こえない静寂だ。その中で放った言葉が届かない筈も無いが、カイは背中を向けたまま動くことは無い。

 少女の動きを待っているような態度だ。


「カイさん。約束は、おぼえていますか。」


 ゆっくりと女の背中に近付くと、少女は包丁の柄の方を背中へと当て、体重をあずけた。


「動かないでください。私、死んじゃいますよ。」


 あまりに妙な脅しだったが、この相手には効いたようだ。


「何で、リズ?」


 教えていない筈の名前を呼ばれたのが、大層衝撃的だったようで、動揺した様子のカイは大人しく言うことをきいてくれる。


「私が聞いているのです。」


 少女が手に力を込めるとその細くて白い手から赤い液体が流れ、包丁伝いにそれがカイへと向かう。


「忘れたときなんて無い!」


「忘れていないなら、カイさんは私を裏切った事になりますね。」


 多少手荒ではあるが、ようやくまともに話が出来る、そう思った。そんな矢先に邪魔が入る。


「何をやっているのですか? 絶好の好機では無いですか。ナイフの向きを変えるだけ。あなたなら出来ますよ。」


 惚けたような高い声が響く。すると、カイの近くに居座る黒い靄が、カイの腕へと集まり始める。


「邪魔をするな!」


 ランスが叫んだ。すると、強風でも吹いたかのように靄が晴れる。情けない声を最後に惚けたような高い声も聞こえなくなった。


「リズ。包丁を離してくれ。」


「わかりました。」


 そうしてようやく二人は向き合う事が出来た。

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