表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/79

あまりに不自然な流れ 離

 さっきの言葉、カイさんから思わず出た言葉がずっと頭の中を巡っていた。

 信じたくないという気持ちが強く、わかりきった真意を捻じ曲げようと何度も何度も回したが、結局のところそれが変わることは無かった。

 でもやっぱり、カイさんの事を信じたい。きっと、きっと大丈夫。


 そう、思っているのに。


「お母さん、遅いね。」


 ドクンッ! と、鼓膜に直接何かぶつかった事を疑うくらいの音が鳴った。

 何も、おかしな事を言われたわけでも無いのに。どうして? 自らに問う。なんて、答えは一つしかない事も、その答えも簡単に想像がつく。

 怯えているのだ。私は。


「やっぱり、探しに行きます。」


 必死に、感情を出さないようにしながらでは、押しつぶされた声しか出すことが出来なかった。

 でも、私の事など気にしていない。怪しまれることなんて無い。どうせ。

 そんな事よりも早くこの場、彼女の近くから立ち去りたい私が居た。立ち上がる勢いのままに走ってこの場を去ろうとする。そんな時だった。

 手首に痺れるような痛みが走ったのは。


「イ゛ッ!!」


 思わず声が出た。相手も何か言っているようだったが、そんなものを聞く余裕もない。


「痛いです離してください!」


 何をされたのか、見ることでようやく理解した。彼女は私の手を握って引き止めようとしたのだ。少し遅れて手が離れる。

 ズキンッ、ズキンッと脈打つように痛みが続く。握られた方の腕は力が入らない。少なくともひびは入っているだろう。

 鉄ぐらいなら簡単に曲げられる。ミストに言われた情報を私は思い出していた。相手がその気になれば、羽虫を殺すように私も潰されてしまうのでは、と思うと震えが止まらなかった。

 次に相手はどう動くのか、見落とさぬよう私は彼女をじっと見つめる。


「お腹空かない?」


 は?


 カイさんから出たのは予想していない言葉だった。私の、手を痛めたという仕草は気が付いたはずなのに。それを心配するでもなく、謝るでもなく。お腹が空いたのかを聞いてきた。


 正直、不気味に思う。私の気持ちがわからないのか? ケロッとしている彼女を見ると私の中で警鐘が鳴り響く。危険だ、と。


 カイさんはきっと、少し力んでしまったのだろう。それ程、私が側から離れるのが嫌だったという事だ。それが照れくさかったのかな? それだったら少し嬉しく思う。


「ちょっと待っててね。」


 私がどう思っているのかは気にもしていないようで、彼女は下手くそな笑顔を見せると暗闇へ消えてしまった。

 逃げよう! ここに居ては危険だ。この機を逃せば、もう次はない。


 いや、大丈夫。カイさんを信用しよう。本当に逃げたければ、眠るまで待てばいい。それに、今逃げても多分――


 ダンッ!!

 何の前触れも無く、大地が揺れるほどの衝撃があった。隕石でも降ってきたのかと思うが、違うのだろうな。


「ごめん待ったかな?」


 もう、帰ってきたのか? 近くに荷物を取りに行っただけなのだろうか。待ってなんていない。早すぎる。ああそうか、どうせ逃げることなんて不可能なんだ。

 カイさんは安心したような顔で私のことを見つめてきた。その顔から喜んでいるのがわかる。

 その表情は、獣が獲物を見つけた時のそれだった。呼吸が乱れる。視点が定まらない。今すぐにでもここから逃げ出したい気持ちで一杯であったが、そんなことをしたらどうなるか、そう考えると身体は動くことが無かった。


「今つくるから手伝って。」


 命令されたようなもので、素直に従うことしか出来なかった。


 カイさんとの料理は、少し懐かしい物があって、私は自然と頷いていた。


「これ、いれておいてくれる?」


 ときが止まったような、そんな気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ