手に入れるための 輪
「お母さん、遅いね。」
そんな事をポツリと口にする私は、内心この状況を好ましいと思っていた。隣にいる子供とずっと一緒に居たいのだから、それもそのはずだ。
ただボンヤリと、その子の顔を眺めて時間を過ごす。そんな時間が永遠に続けばいいと思っていた。
「やっぱり、探しに行きます。」
元気が無いのか、小さくか細い、消え入りそうな声でその子が言った。
そうして、逃げるようにこの場を去ろうとする。
あぁ、駄目だ。行かないでくれ。と、そんな事をおもっても無駄な事は分かっている。
「待って!!」
私はその子の腕を掴み、無理やりに引き止めた。
本来であれば、暗い森は一人では危ないよ。お化けがでるかも。なんて、冗談混じりにとめるところなのだが、そんな余裕は今の私に無い。
「痛いです離してください!」
「あっ、」
掴んでいる元から甲高い音が響いて、私は咄嗟に手を離す。つい、力みすぎてしまったようだ。鬼気迫った声が私に飛んできた。
その子は痛そうにして私の掴んだ方の腕を、別の腕で抑えながら初めて見せる表情を私に向けてくる。
「お腹、空かない?」
誤魔化すように、私は笑顔を向けた。
しかし、言ったは良いものの私は何も食料を持ち合わせていない。近くに街があっただろうか、、、少し遠いが、あるな。
「ちょっと、待っててね。」
相手の答えも聞かぬまま、物陰に隠れると私は大地を思い切り蹴った。すると、あっという間に街につく。
正直、自分でも驚いたがそんな事はどうだっていい。私は急ぎ食料を調達する。
「すごい力だとは思いませんか?」
「ああ、そうだな。」
その間、女神がうっとりしたような声で私に聞いてきたが心底適当に答えた。
「毒でも持っていけばどうです?」
「それも、そうだな。」
私は、本当であれば治療を受ける機関から人の身体に悪そうな物を取る。
睡眠剤。どのくらいで効果があるかはわからないが、あるだけ入れればきっと満足のいく結果になる。入れてもらえば、か。
目的の物を手に入れると、私は大急ぎで元の場所に戻った。
「ごめん。待ったかな?」
ものの数分ではあったが、どこかに消えてしまっていたらどうしようかと思った。しかし、その心配は不要だったようだ。
一つとして身動きをしていないのではないかと思う程に、そっくりそのままの姿でそこに座っているその子は、気のせいか震えているように見えた。
「今つくるから、手伝って?」
その子はコクン、と一回頷くと無言のまま私のお手伝いをしてくれる。
震えていたのはやはり気のせいかと思えた。
「毒は、入れて貰わないと駄目ですよ。」
いわれなくともわかってる。
「これ、入れておいてくれる?」
ばれないように、慎重に。私はその子に先程手に入れた物を手渡した。




