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久しぶりですね。 離

 様々な感情と、記憶が私に飛び込んできた。

 それは、子供と一緒になった時のような悲しみももちろんあるが、それよりも息が詰まりそうな程の怒りで苦しかった。


 悲しみ、怒り、困惑。苦しみ愛しさ嫌悪。希望不安期待焦り恐怖諦念。


 どうしてこうなってしまったのか。いや、ずっと近くで見てきたのだ。私、リズは知っている。

 今も、誰もいないのに独りで話している様子が見て取れる。そうだ。カイさんはきっと、悪くない。

 そう強く願いながら、私はカイさんに近寄った。


「何してるのですか。お姉さん? 聞こえますか? お〜い。」

 

 そうは思っていても、やはり怖かった。私は初めて会ったという体を装った。偽ってしまった。


「大丈夫ですよね? こんな所で何をしているのですか?」


 そんなこと全部、知っている。それでも優しく声をかけた。

 カイさんの驚いた顔を見ると胸が締め付けられた。嘘をついたという罪の意識と、バレたのではないかという不安を感じた。


「僕は、お母さんの帰りを待っています。」


 多分、何故こんなところにいるのかと聞かれたのだと思う。余裕があまり無くて殆ど聞いていなかったが、そこだけはきっと合っているだろう。

 私は答える。明らかな嘘。

 私は女だ。僕という女性も居るだろうが、私は会ったことが無い。そして、こんな所で母親を待っている子などいるはずがない。

 何処かで私は、気付いて欲しかったのかもしれない。


「忘れちゃった。名前、呼ばれないから。」


「わからない。馬車で何時間もかけて来たの。」


 適当な応対をした。その間、私は嘘を重ねる。それでも、相手は気付いてくれない。

 どうして? なんで? 私の事なんて、もう忘れてしまったの。


「、、、大丈夫ですか? 顔色、よくないですよ。」


 そんな事を思っていた時、カイさんが今までに見せたことのないような、不思議な顔をした。

 具合が悪いのだろう。きっとそう。だから、私に気付く余裕がないんだ。自分に言い聞かせる。


「なら、良いのですが。」


 大丈夫。と言われたが、カイさんはそういう人だ。人に心配させないように気遣ってくれただけ。

 そう、だよね?


「ねぇ女神。それ、本当?」


 キュッ、と締められたような感覚がした。耳を塞いできた。でも、ずっと聞こえてきたその声。カイさんに囁くように話しかける影。その声。

 カイさんの答えは、これまで一度も聞こえて来なかったのだが、思わず口に出してしまったのか。それがわかってしまった。


 聞きたくなかった。


 嫌だ。私は絶対に信じない。そう念じながらも、私の中は深い絶望に侵蝕されていた。

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