ボスの元へ 離
「ご機嫌だね。」
「そうかも。」
街から出て、しばらく歩いた。ランスはずっと気持ち良さそうに鼻唄を歌っている。
それをみたミストが言うと、ランスは微笑む。
「これから何処へ行くの?」
あの親子と別れてから、ミストに言われるがまま歩いてきた。目的地は何処なのだろう。そう思いランスは聞いた。
すると、ダム。とだけミストから返事がくる。
「ダム? どうして?」
「たまたま近かったから。早いうちに見ておいた方が良いだろう?」
ランスは、その言い回しに少し引っかかったが、それを流した。
「水が必要なの?」
「いいや。関係ないよ。」
ますます目的がわからなくなって、ランスは思わず苦笑い。では、何のためにダムになど行くのだろうか。
お化けは水回りに集まるイメージがあるし、それかとも思ったが、ミストはオススメしないと言っていた事だ。恐らく違うだろう。
「もしかしてだけどダムって、私の思っているダムと違う?」
「役割は同じさ。いや、大分違うか。」
どっち? まあ、私のものとは違うという事だけ分かった。
一体全体何処へ連れて行くつもりなのかと、ランスは深いため息をつく。
「あとちょっとの筈だよ。」
「はぁ。」
そうしていると、何の前触れもなくミストが言った。ここは森の奥。人気の無いこの場所にならダムがあってもおかしくないが、全くと言っていいほどに手入れの進んでいないこんな場所に、突然ひょっこりと人工物が出てくることを想像することは難しい。
「ついた。」
「は? 何もないわよ?」
鬱蒼とした木々に囲まれた中、ミストは足を止めた。見える範囲で変わった物は特に無い。これにはランスも突っ込みを入れざるを得なかった。
「居るよ。ラスボスが。」
そう言うと、ミストはおもむろに指をさした。その先を追って見ると、草影の向こうに繋がっている。
ミストは文句の言いたげな顔をしながらも、そっと草の合間を覗き込んだ。
「ひっ、」
一気に血の気が引いていくのを感じた。息が詰まって、呼吸の仕方を忘れたような錯覚に陥る。
「何、あれ?」
「どうだ? 一目見ただけで分かっただろう?」
分かったかわかっていないかで言えば、後者である。ランスが草の隙間から見えた物は、黒いような赤いような色をした塊であった。それが何なのか、定かでは無い。
「何よあれ!?」
だからこそ、もう一度質問を繰り返す
「僕達の目的だよ。指名手配で写真を見ただろう?」
ミストは余裕そうに、ニコニコと笑っている。ランスはもう一度、視界の脇であれを捉えた。
黒い、赤い、塊のように見えたのは靄のようにして渦を巻いている、やはり何かだった。
でも何処かで、それは怨念のような物だとランスは確信していた。
「ん?」
それを見ていると、ランスは一つの浮いているものに目が止まった。
「女の子?」
背中に大きめな鞄を背負った女の子。手には玩具を握っている。
その子は、少し遠巻きであれを見ていた。よく見れば、泣いているのか頬に光る筋が一つ。
そして、その子と目が合った。
酷く悲しそうな顔をしたその子。それを見たランスは、自然と手を伸ばしていた。




