また駄目だったか。 輪
「君の名前はアンナって言うんだね?」
「え! どうしてアンナの名前がわかったの?」
(自覚無しなのかな?)
微笑ましいな。
そんな事を思いながら私は彼女の後を追う。
「着きましたよ! ここがアンナの家です。」
「えっ、」
正直、思っていたよりもずっとひどかった。
木の板で囲い、それに草で屋根をつけただけの物。
(一人で作ったのか? それならすごいけど。)
「ここから先へは入らないでくださいね。死んじゃいますよ。」
冗談では無いのだろう。手書きで危険と書いてある看板がこれでもか、と言った具合に置いてある。
「あ! 今から作るので待っていてくださいね。」
彼女はそう言って調理に取り掛かる。
(どうしてこんなに優しいのだろう。)
会ったばかりの私に。
「一人で生きてきたのか?」
「はい、そうですよ。」
とても素直に明るく答える。
「そんな小さくて大変じゃないの?」
「私にとってこれが普通なので。」
とても強い。身体も心も。
(私は一人では生きていけないよ。)
「すごいね、君みたいになりたい。」
「私なんかにですか? あ、アンナでいいですよ。」
あってから初めてアンナの顔が歪んだ気がした。
「ごめんね、気に触る事を言ったかな?」
「いえ、言ってませんよ。」
仮面のような笑顔。それはアンナが抱えている物をこれ以上触れてはいけないと思うに十分な物だった。
「アンナは貴方の事が知りたいです。」
あからさまに話を変えられた。
「これから何処へ行くんですか?」
(これからか。)
「この先にある大きな街へ。」
「そうなんですか、何か用があって行くのですか?」
「ああ、少しな。」
適当な嘘でごまかす。
「ここらへんには詳しいのですか?」
「嫌、詳しくは無いな。」
「宜しければ私が街の前まで連れていきますよ。」
「そこまでお世話にはなれないよ。」
「遠慮しないでください。大丈夫ですよ。」
良い子だな、良すぎる程に。
『ごめんね。』
!!?
(何の声だ? どういう、意味だ?)
確かに聞こえたその言葉。その声は夢で聞いたものと同じ、自分の声。
「はい、どうぞ。」
アンナが私の前にスープを置いた。
(すごく美味しそう。だけど、)
呪いに対する恐怖を思いだした。
(力ではきっとアンナに勝てる。でも毒なら?)
私は目の前のスープをジッと見つめる。
「どうしたのですか?」
アンナは自分のをよそいながら、不思議そうな顔で私を見る。
(大丈夫だ。予兆は来ていない筈だ。)
私はスープを飲もうと皿を上げる。
その時、私に電流が走った。予兆だ。
私は皿を投げる。
「え! 口に合いませんでしたか?」
(とぼけるな。)
やはり毒だったのか?
私は無言のまま家の外へ飛び出して、そのまま逃げるために林の中へ入る。
「駄目! そっちは!!」
(うるさい。)
そんな言葉、私には届かない。走って私を止めようとするアンナの姿が見えたが、そんな事私には関係ない。
私は林に踏み入れる。
「待って! 駄目よ! 止まって!!」
(まだ言っているのか、でも待てよ?)
あんな必死に止めるのは、少し不自然じゃないか?
ギィッ!
え? 私の足に縄がかかる。その直後。
ガランッ。
横から丸太がぶつかる。私はそれによろけて横へ動く。
ギィッ!
また縄に当たる。
すると今度は上から岩が落ちてきた。
大型の動物でも仕留める物だったのだろうな。大自然でたくましく育った動物を。
小さな箱庭で温々と育ってきた私には耐えられるわけが無かった。
『ごめんなさい。でも、仕方ないの。君のためだから。』
意識が途絶える最中、そんな声が聞こえた。
私は死から、逃げられなかった。
また。




