合わさって、一つ 離
「見え、ているの?」
ランスは目を合わせ、消極的に手を振ると、その姿勢のまま石のように動かなくなってしまった。その相手も、同じように固まっている。
人と目が合ったのは久しぶりだったランスは、謎の感動と、何かいけない事をしていたのを見つかったかのような気まずさを感じた。
しかし、しばらくすると子供はまた、母親らしき人物の方を向いてしまった。
ランスは少しムッとする。目が合ったのは確かな事実、自分は接触を試みているというのに、相手が目を背けた。その事が、ランスを無視でもされたような気にさせた。
「ねぇ? 私が見えているのでしょう?」
警戒気味に子供の方に歩を進める。一歩、また一歩と次第にそれは速さを増す。終いには小走り程度にもなったその勢いで、子供の肩を叩く。
「うっ!」
ランスは肩を叩いた手を反射的に引いた。
悲しさ悔しさ、そんな部類の痛みにも似た感情が、肩に触れた指先から流れ込んできたようだった。
「はぁ、何です? 今のは。」
「オススメしないと言った。早く離れた方がいい。」
息は、どんどん荒くなっていく。ミストは少し素っ気無い態度でランスに言った。
「怒ってるのですか?」
「どうして?」
ランスの尋ねた事には答えず、ミストは逆になぜそう思ったのかを聞いた。
その様子を見るに、どうやらそのようだ。
「あなた、誰? 今、何したの?」
「ぇ」
あまりにも予想していない事だったのか、ランスは驚きのあまり声になっていない息を吐いた。
子供の方から話しかけて来たのだ。先程話している様子を見たので、それ自体少しもおかしな事は無いのだが、やはり久しぶりに聞いたミスト以外の声で、少しギクシャクする。
「どうしたのかな? って思っただけですよ。」
「?」
子供はただ、首を傾げた。
何かおかしな事を言っただろうかとランスは不安になるが、そうでは無い。
「声が出ないの?」
ランスの声は、子供に届いていなかった。
「姿が見えるだけ?」
「どうかな。」
別に独り言だったのだが、ミストが何か含みのある言い方をする。それが気になるが、なぜか拗ねているミストから真意を聞くのは至難のわざだろう。
ランスは確かめるようにそっと、手を伸ばす。子供もそれに応えて、同じようにした。
すると、
手がちょうど合わさった場所に吸い込まれるようにして、二人は一つになった。




