私には出来ない 離
「救世主って、誰の?」
上目遣いで怯えたように、ランスは重そたそうな口を開いた。
「世界の。」
ミストがその事に答えると、ランスは呆れたような顔をする。
伝えられた目的と、規模が釣り合っていない事に疑問を覚えたのか、ランスは歪んだ顔で続けざまに尋ねる。
「私が相手にしているのは、一個人の筈では?」
「ああ、そうだ。相手は独り。」
人差し指を立てて、ミストが笑う。それを見て、ランスは長い息をはいた。
「だったら世界なんて、大袈裟ですよ。写真で見たあの人が化物だとでも言うのですか? それに、私が頑張らなくても他の人が」
「残念、それは無理だ。俺達にしか出来ない。」
誇張し過ぎだと、ランスは言った。それに、写真まで貼られていたのだ。何もしなくてもいずれ捕まる。と、付け加えようとした所でミストに邪魔をされる。
「なんてったって、相手は死なないからな。」
「は? ありえ、、、なく、ないか。現に私も蘇ったみたいなものですし。」
反論をしようとしたが、勝手に納得して出そうとしたそれを引っ込める。
「そうだろう?」
ニヤニヤとしているミストに言われた事に、少し苛立ったのだろう。ランスは軽くムッとした。
何だか馬鹿にされたような気がして、また新たないちゃもんを考える。
「そんな事で納得しませんよ。えと、あれ、あれです。死ななくたって捕まえて置けば良いのですよ。」
「鉄ぐらいなら簡単に曲げる程度の力は持っている。」
えぇ! と思わず声を出しそうになるが、ミストに馬鹿にされると思ってだろうか、ランスは口を手で塞ぐ。
「嘘ですよね?」
「本当。」
「じゃあ私にはどうする事もできませんよね?」
「出来るよ。むしろそのための君さ。」
それら全てが本当ならばどうにもならない。少女はそう思った。
けれどもミストは自信満々に、真っ直ぐとランスの目を見る。
「私に、何が出来ると言うのですか。」
その視線から逃れたいかのように、スッと下を向いたランスは呆れにも似た声を吐き出した。
「追々だ。」
「また、それですか。」
到底、質問の答えになっていない先延ばしの一言。わかりきっていた返事にランスは、早くも聞き慣れてしまった溜息を一つ。
「もういいですよ。疲れましたそれに、」
ランスは突然両手でお腹を押さえて、軽くうずくまるような姿勢を取る。
何だろう? ミストがそれを覗き込んでそう言う前に、ランスは小さく呟いた。
「お腹、空きました。」




