ずっとずぅっと 輪
「名前は何ていうの?」
私が尋ねるとリズによく似たその子は首を振った。
「忘れちゃった。名前、呼ばれないから。」
その子は俯きがちにボソッとした小さな声で呟いた。そんな事がありえるのだろうかと思ったが、そんな事は正直どうでも良かった。
「何処から来たの?」
「わからない。馬車で何時間もかけて来たの。」
そうか、やはり。
薄々思ってはいたが、この子は捨てられたのだろう。でなければこんな森の奥に一人で居る理由がない。ああ、本当に、都合がいい。
「フフフッ、またお気に入りを見つけましたか?」
「女神、、、」
脳裏によぎる、嫌な記憶。それから来る、嫌な予感。
「あなたはまた、邪魔をするの?」
自分ながら、弱々しい声が出たと思った。
「あなたが殺されないようにするだけです。なーんて、もう呪いは極僅かな力しか残って無いので、殺意を抱かせる事なんて出来ないと思いますが。」
女神は愉快そうな高笑いを繰り広げる。
その高笑いの途中、気になる言葉が聞こえた。
「呪いが、何?」
「ん? ああ、言っていませんでしたか? やっと、呪いを消すことが出来たのですよ。感謝してください。」
呪いを消した? ああ、なら影が消えたのは女神のせいだったのか。
私は憎らしいといった風な目をするが、それをぶつける物は無いためそれを瞼の裏へと向ける。
「いや、でも殺される事が無い。から、大丈夫だよね?」
「えぇ、どうぞお楽しみください。」
それならば良かったと安心する。そういえば、影は自分の事を呪いだと、ずっと言っていた。影が消えたのは悲しい事だが、殺される事が無くなったと思えば良いことだ。
そうだ、嬉しい。
「変な顔。あなたは今、どんな気持ちなんですか?」
「え?」
私の顔がどんなに可笑しかったのか知らないが、女神に変な事を聞かれた。
私の、気持ち? そんなの、嬉しいに決まっている。私をからかっているのだろうか?
私は女神の言うことを無視して、改めてリズに似たその子の方を見た。
「もう暗くなる。お母さんを待っているのなら、心配だから私も一緒に待つわ。」
「、、、大丈夫ですか? 顔色、よくないですよ。」
え? まさか、この子にも言われてしまうとは。
「私は大丈夫よ?」
「なら、良いのですが。」
私を心配してくれているのか。本当に優しい子だ。ああ、あぁ。
「欲しいですね? あなたが私の物になってくれるなら、あげますよ。」
突如女神から放たれた言葉。それを聞いて私は目を丸くした。素直に驚いたのだが、何にだろうか。
女神が、私を物扱いした事? それとも、、、
「ねぇ女神。それ、本当?」
気が付けば、自然と口から声が出ていた。女神は一言、はい。とだけ答えた。




