処刑台にて 輪
「出てください。」
朝、早くに起こされた。昨日の夜は、私が見えないとでも言わんばかりに無視を決め込んでいたというのに。
「何処に行くの?」
「、、、知らないのですね。」
当たり前の事を、看守さんは心底驚いた的な感じで言った。結局、行き先はわからないままだ。
「あなたは、」
少し間を開けてそう呟いた声が聞こえた。私がそちらを向いても、まるで何も無かったかのように前を見つめている。
それからは、靴音だけが響く。妙に居心地の悪い時間を過ごして、私は広間に出た。
「ここどこ?」
「あなたが罪を償う場所、処刑場です。」
ドクンッ! と一回。体の中で大きな振動が起きた。苦しい。
何で、という一言も口から出ない。
「人が集まる事を期待していましたが、そうでも無さそうですね。」
、、? 今の声、私から出たのか?
いや、気のせいか。実際ろくに喋れない現状だ。
「まあ、少しばかり暴れたら、人も出てくるでしょう。」
まただ、気持ち悪い。自分は話していないのに、自分の声が聞こえてくる。
「目隠しと、耳栓を。」
そう言われると、私の視覚と聴覚が奪われた。頭の中は大混乱。
死ぬ、死ぬ? あれ、大丈夫じゃないか。
「誰が殺すの?」
返事は無いし、あっても聞こえない。だとしても、関係ない。そうだ。いつもの通り入れ替わるだけ。
私は暗闇の中、さらに目を瞑る。
「、、、ん?」
何だ? 騒がしいな。耳栓越しにもそれが聞こえるからには、相当だろう。
それに、いつまで立たされているのか。
「あれ、手錠は?」
いつの間にやら私の腕は自由になっている。流石におかしいと思いゆっくりと目を開ける。
「えっと、どういう状況?」
私はそう言いながら耳栓を外す。
「フーッ、フーッ。」
かなり逆上している様子の看守さんが、私に銃を向けている。死刑と言うのには、随分と雑だな。
「異常者! あなたは何なのですか。」
カチンッ!
向けられている銃に弾は入っていないようだ。虚しい音を鳴らす。
「何を言って、」
私は困ったように、手を首の後ろにまわす。
そうして首を触れたところ、ヌルっとした感触がした。まさか、と思い私は固まる。大丈夫、そんなわけない。
私は自分の手をそっと見た。赤い、赤い。
何、これ?
「皆、皆あなたが殺したんですよ。私が最後のようですね。」
私は後ろを見た。あまりの惨状に言葉を失う。
これを、私が? 嘘、
「答え合わせをしてあげましょうか?」
女神がまた、ひょっこりと現れた。
それは、満面の笑みで私と看守さんとを交互に見ている。
「疑問、溜まっているでしょう? 頃合いです。」
女神はそう言ってねっとりと私を見た。




