枷 輪
その日は変な夢を見た。
私は処刑台に座っている。そして、目の前の光景を静かに眺めている。まるで朝、コーヒー片手にニュースでも見ているかのように。
そこに胎動する感情は無く、ただ無表情で死体の山を見ている。
そんな事はありえない。第一に、私が処刑台に立たされるなんて無いのだから。
そんな事は忘れよう。悪い夢なんて、憶えているだけ損だ。そう思って私は気持ちを切り替えた。
「看守さん?」
「私語は慎みなさい。」
それよりも今日は昨日に引き続いて変わった事が起きた。私の牢に看守が配置された。私を捕まえた女性であり憎んでいた対象であったが、もうどうでも良かった。
「ねぇねえ、どうして今日はそこに居るの?」
「見張りです。」
そこに人が居るだけで少し安心した。
「私はいつになったら出れるの?」
「、、、自分を牢屋に入れた人とよく仲良く喋ろうと思いますね。」
相手は私と目を合わせずに言った。私には言っている意味が分からなかった。
「何言ってるの? そんな事、気にしてないわ。」
「、、、気持ち、悪い。」
看守さんは驚いたのか目を見開いて、私の牢から離れていってしまった。怒っているようだったが、何故だろう?
「言われてしまいましたね。」
ひょっこりと、女神が私の視界に入ってきた。一瞬幻覚でないかと疑ったが、どうやら本物のようだ。
「なんでお前がここに?」
威嚇しながら女神に言う。
「あなたが私の言葉に反応を示してくれないので、直接会いに来ちゃいました。」
バキッ!
今度はしっかりとした意思を持って手錠を外した。案外あっさり枷は取れた。
「よく私の前に姿を見せようと思ったな!」
「煩わしい者も何処かへ行ってしまったようですが、今度は死刑ですか。これは骨が折れますね。」
私が鉄格子を越えて女神に掴みかかると、どこか遠くを見ながら舌なめずりをして女神は言った。
「死刑? 何言ってる!」
「直に分かりますよ。自分の気持ちさえも分からない盲目なおバカさんでも。」
盲目? バカ? 気持ちが分かっていない? ふざけた事ばかり言いやがって。
私は女神を殴った。鉄格子が邪魔で振りかぶる事が出来なかったが、鈍い音はした。
「フフ、アハハハ。」
ズキンッ!
鋭い痛みが私を襲った。女神の甲高い笑い声を、近い内にどこかで聞いたような気がした。
しかし、どうやっても思い出せない。
「背負わなくてもいい枷を、あなたは背負った。なのに、本来自覚していなければならない枷からあなたは逃げた。一度閉じた記憶はそう簡単には戻らない。」
女神は笑顔を見せて牢屋の前から姿を消した。私は誰も居なくなったあと、鉄格子を殴った。
「何、ですかこれは。」
グワンと曲がって廊下を邪魔している、鉄格子であった物を看守さんはただ呆然と見ている事しかしなかった。




