一人ぼっち 輪
牢屋に入れられてから、もう随分と時間がたったと思う。何もしないという事は、これほどに辛い物なのか。
視界から入る情報も似たものばかりで、目を瞑ってるのと変わりは無い。聴こえてくる物も無いに等しく、自分の呼吸の音が鬱陶しく感じる。
最初にあった憎しみも、早い段階で萎えてしまった。
「ねぇ、、、」
声を出した。虫の羽音にさえ殺されそうな声なのに、やけに煩く感じた。
あれから、一度も影は出てこない。流石の私も、影は何処か遠くに行ってしまったと思った。
しかし、定期的に声をかける事はやめなかった。やめる事はできなかった。
「あなたはもう、一人の力で出れますよ。」
カタンッ、
私のご飯が置かれる事で、やっと大まかな時間が分かる。それを食べ終わればまた同じような時間が繰り返される。
頭がおかしくなりそうだ。
「前は影がいた。」
「今は私が居ます。」
私が何を言おうとも私に話しかけてくれた。リズもそうだ。怒らせなければ、話し相手になってくれた。
でも、今はどちらもいない。私は一人。
「慣れなんかじゃなかった。寂しい。」
「強者は常に孤独です。」
そんな弱音が自然と口から出るくらいには、私の心は衰弱していた。
「独り言、やめてもらえますか? 部下から苦情が来ているんですよ。」
そんな言葉で目の輝きを取り戻すくらいには、私の脳は腐っていた。
「えと、チエだっけ。話し相手に、」
「嫌ですなりません。あと、名前で呼ばないでもらえますか。」
軽く足なわれてしまった。それでもめげずに話しかける。
「そんなこと言わないで。いかれそうなんだ。」
「それは良かったですね。では、」
パキンッ、
チエが去ろうと背を向けた時、後ろから音が聞こえた。何も無い牢屋の中で出た物とは思えないそれに、バッ! と勢いよくそちらを向く。
「なっ!」
「あれ? 取れちゃった。」
腕についていた筈の手錠が地面に置かれている。それは、力任せに曲げられたのか異様な形だ。
チエの額に汗が一筋流れる。目の前の脅威から身を守るために片手に銃を握る。
「動かないでください。」
「待って欲しくて手を伸ばそうとしただけだよ。本当に!」
そんな簡単な事で壊れるほど、やわな物では無いことは二人共分かっている。
少しの間緊張が走るも、チエは銃から手を離した。
「不備、、? そんな事、ある?」
ボソッと呟いたチエの顔からは不安が感じられる。
不備、そんな事は普通ありえない。その手錠は自分が出した物であり、彼女はそのような失態をした事がない。それに、不備であったとしてこんな風に鉄が曲がる物だろうか。
しかし、牢屋に入っている者が手錠を外す術を持っていたとして、今外した意味が分からない。
「念の為、身体検査をします。」
身体検査をされた。もちろん、何も見つかる筈が無い。
何故、手錠はあんな風に外れた? 自分でも不思議だった。ふと、思い出すのは昔の光景。
「邪魔だ。」
そう言って男を突き飛ばした。あの時も驚いたが火事場の馬鹿力的な、そんなので自分を納得させていた。
でも違う、あきらかに。
「何だよ、これ。」
「私の計画は順調です。」
「厳重警戒。私のミスの線もあり得るので私が見張りに付きます。」
「はい、お願いね〜。無理はしないでね。」
「死刑の日までなので、あと少しです。」




