君の意志で 輪
「最初は流石に戸惑っていたね。自分の身にに何が起こったのか、それを必死に考えてた。」
突然、見知らぬ人に殺されたと思ったら、自分がナイフを持って立っていたんだ。無理もないよ。
その時から、いやそれよりずっと前から私は君を見ていたんだ。
「次に会ったのは、カイ。自分は知らない筈なのに懐かしいという感情が湧いてきた君は、やはり困惑してた。」
でも噛み合わなかったそれも次第に合ってきた、そんな時だったね。私が発動したのは。
君は信じていた人に殺された。
「その後、入れ替わった君に襲ってきた感情がさらに君を傷つけた。」
自分のせい。自分が居たからだ。君はそんな思いばかり抱えてしまった。
それが心配だったからだっけな。私が君の前に初めて姿を現したのは。私は君が攻撃する的になろうとした。なんて、言えば聞こえがいいかな。
「アンナを殺したと思う君は、相当苦しんでた。アンナを殺させた私よりずっと。」
この時かな、君が本気で死にたいと考えたのは。そして、名案を思いついた。
死に続ける。
殺される前に死ねば、殺されない。私はどっちみち死なないから大丈夫。犠牲が増えることはない。仮に私がこれで死んだら、それで良い。
そういう考えで君は自分を吊った。
「このままだと、私が望む未来へは行かないと思った。心を女神に奪われてしまうと思った。だから私はあなたと話すことにした。」
なるべく正直に。話せる事だけ話した。
君と話していて時々、私は気持ち悪い、そう思ったよ。死にたいと言ったり生きると言ったり意見をころころと変えるからね。
別に君の事が嫌いなわけじゃない。心がぐちゃぐちゃになるのも仕方のない事だから。
「そして、リズ。一番長く時を過ごした。最初こそ悪かったけど、君はリズと旅をした。」
どうして許せるのか、私には到底理解できる物ではなかったけど。この時すでに、君にとって命の重さは風船のような物だったのだね。
「君は、人から一歩もニ歩も遠ざかってしまっていた。」
そして君はとうとう、兵器として十分に力を持ってしまった。私としては君をもう一度、人に戻せるけれど。皮を被せるような物で効果は薄いだろうから。
悪戯に、優しい言葉をかけるのは終わりにする。
後は、君に任せるよ。
「皆もそれで良いんだね?」
『うん。』
君が君の意志で私の力が必要になった時には、また。
「なぁ、何処に行ってしまったんだ?」
いつものように声をかけても返ってくるのは何も無い。まぁ、直ぐに帰ってきてまた明るい言葉が来るだろう。
私は久しぶりに一人だけで次の街に向かった。




