良くも悪くも 輪
『どこ行くの!?』
私は走り続ける。どこまでも。足が動く限り、腕を精一杯に振って。
「はぁ、はぁ、」
走って、走って走って走って。どこにも行けないのに、まだ走って。気付いたら、私は水の中に居た。
人は、数センチも深さがあれば溺れるらしい。
『ちょっと何して、誰か。』
影の声が聞こえた。息ができなくて苦しいが、起き上がることはしなかった。存外静かに私は眠った。
、 、 、
「久しぶりだな。おぼえていないか?」
「誰?」
久しぶりに、真っ白い空間で目が覚めた。女神はもういないが、男がそこに立っていた。
「忘れてしまったか? 兵器さん。」
「いや、思い出した。昔、女神の言う事を聞くなって言われた。女神は敵だったから、あなたは味方?」
とても、安直な考えだった。兵器というのは今でも分からないが、敵の敵は味方というかそう、思った。
「前は、な? 今はもう敵だ。」
「え?」
どうして、だろうか。何か変な事でもしただろうか。それとも、相手の勝手な理由か。
「こちらも悪いが、手遅れだ。収まりがつかなくなってしまった。お前は兵器に近付きすぎてしまった。」
「え、え? 私が何をしたの? 分からない。え、わからないんだけど。」
戸惑いが大きかった。その中に、少しの怒りを混ぜて私は言った。
「あ、駄目! またな、の?」
見計らったように、私の意識が薄れていった。男は最後に何をいい残す事でも無く私の事を見つめていた。
「ぷはっ! はぁ、」
細い川の底から顔を上げた。焦ったように、あたふたとしている影の姿が真っ先に目に入る。
『あ! 大丈夫?』
「うん、嫌な事を言われる夢を見たけど。」
私を見るや否や影が私の方に来る。大丈夫だと私は言った。
私が、夢。と言うと、影は何とも言えない表情を見せた。
「ところで、私はどうしてこんなところで寝ているの? ドクは?」
『え、、?』
ポカンとしている影を尻目に、私は辺りを見渡した。どこに行くでもなく道から外れた森の、静かに流れる小川の中で寝ていた自分が信じられない。
「ねぇ、私は寝る直前まで何していたんだっけ?」
『ドクと、別れて、そっから歩いてきただけだよ。疲れてたんじゃない?』
そうだったか? まあ、影が言うならそうなのだろうと私は感謝の言葉を告げた。
「元気満々だけどな〜。」
『そう? なら良かったけど。』
両手を上げて伸びをする。一度死んだからリセットされただけなのに、その事も知らないのだろう。
『偽ったんだ。今度は、自分を守るために。』




