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目を閉じれば 輪

 その後も、ドクとずっと話していた。驚く程あっと言う間に、時間は過ぎていった。


「長居しすぎちゃったね。」


 話の区切りがついた時、私はそう言った。


「何か用事でもあるの?」


「用事なんて無いけど、外の様子が心配なんだ。」


 聞かれたので、そう答えるとドクは驚いたように首を傾げる。

 何かおかしい事を言っただろうか。私が顔をしかめると、私の肩に手をおかれた。


「ここには、邪な者は入ってこない。もちろんママもね。ずぅっと居ても良いんだよ? 私は迷惑になんて思わない。むしろ嬉しいぐらいだよぉ? 外の世界なんて見なくても良い、リズには関係ないと思えば良い。ねぇ?」


 初めて見せる顔だった。今までのどれとも違う。


「無理なんてしなくても良い。目を閉じればそう、幸せじゃない?」


「ドクは、優しいね。でもそれは、私にとって都合が良いからそう感じるだけ。ごめんね、その誘いは受けられない。」


 どうして? 直ぐにドクからそう返ってくる。


「リズは、自分よりもその他大勢を取るの? 馬っ鹿みたい。」


「ありがとう。私に他の道を提案してくれて。」


 とても、素敵な提案だけれど私はまだこの道で頑張るよ。


「何でそこまで頑張るの? フェイルもリズも。何百年も一人だった私に出来た、久しぶりの話し相手なのに。」


 ドクはギュッと服の裾を掴んでいる。私よりも何倍も多くの思いを感じて来たのだろう。


「ごめんなさい。」


「謝らないで。冗談よ、分かってたわ。さっきは怒りに任せて首を切っちゃってごめんなさい。」


 私が謝ると、別件でドクから謝られた。私が、大丈夫よ。というとドクは首を横に振った。


「私は痛みをほとんど感じないの。医者になるために、自分の身体を何度も捌いて練習したわ。」


 突然話しだされたことに多少困惑するも、軽く頷きながらドクの話を聞く。


「痛みを近くに置いておくために。あぁ、もちろん患者に手荒な真似はしないよ?」


 まあ、私が縛られている事は置いておこう。

 ドクは痛みを忘れないように、人の脆さを忘れないように必死なのだ。


「どれだけ頑張っても、私は忘れやすいから。せめてリズのその気持ちは風化してしまわないよう祈るよ。」


 ドクはそう言うと、私を抱きしめてから縄を切った。


「私はいつでも待ってるから。辛い時は、」

「また来るよ。」


 私はそう言って、小さな病院を出た。

 大分時間が経ってしまった。人の多いところに行くのはあまり良くないので私は狭い路地を進んでいった。


 やっと、次に進めると思った。

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