家族のよう 輪
「そろそろ私の事が聞きたくなってきた?」
「そうね。聞かせてほしいわ。」
ぐいっ、と私の前に身体を突き出してドクは首を傾ける。それに私は笑みを溢しながら答えた。
「さっき言ったみたいに私はフェイルやあなたにとって、言わば姉のようなものよ。年が離れすぎかもしれないけど。」
「フェイルって、本当の名前だったんだ。あと年が離れすぎって、いったい何歳なのよ。」
フェイルと名乗る男は確か物忘れがひどく、自分の名前なんて無いと言っていたはずなのだが。あれは演技だったのだろうか。
私と同じぐらいの年に見えるドクは、本当は何歳なのだろう。
「同時に二つも質問してくるなんて、興味津々! 話し甲斐があるってものだよね。」
嬉しそうに暇を持て余している足をパタパタさせた後、ドクは話し始めた。
「フェイルはね、すぐ忘れてしまうんだ。嬉しい事、楽しい事悲しい事苛つく事。全部。」
「そうなんだ。大変ね。」
「うん。でも忘れない物がいくつかある。本人は憶えている事に気付いていない見たいだけど。」
こちらを見て、なんだと思う? とドクが聞いてくる。私は悩むふりをしたが、一向に思い浮かばない。
話の流れ的に名前なのだろうが。
「一つ目はもちろん名前。忘れたと言いながらも必ず同じ名を使う。」
「他にもあるのね?」
予想通り、一つは名前。私と話している時でさえ、私を忘れる程の人だ。何を憶えていられるのか少し興味がある。
「二つ目は自分の経緯。どうしてこの身体になったのか。あと、お母さんの事。」
「あいつか。」
そういえば、私を付き纏っていた女神は何処に行ったのだろうか。
「次が最後かな? なんだと思う? ねぇ、当ててよ。」
「わからないわよ。検討もつかない。」
そこだけ、やけに興奮してドクが聞いてきた。目はとろん、としていて口角は耐えようが無いといったぐらいに上がっている。
「私でした〜! いつもね、名前を呼んでくれるのよ。」
もう我慢しきれなかったようだ。引き伸ばす事はしないであっさりと答えを言った。
「嬉しそうね。」
両頬を抑えながら、本当に嬉しそうにドクは言う。本気で愛しているし、愛されている事がその様子からだけでも伝わってくる。
それを見ると思わず私の口角も上がった。
「で、年は?」
「え? 女性に年を聞くなんて失礼だと思わない?」
ドクは笑ったままプイと私からそっぽを向く。その姿を、私は妙に微笑ましく感じる。
「他にもいろいろ質問してきてよ。」
「ドクとフェイルは普段どんな会話をしているの?」
いろんな事! と元気の良い返事が来た。私はそれをオウム返しした。
「本当にいろんな事だよ。あまり帰ってこないからね、旅で起きた事とか。あなたの事も嬉しそうに話してくれたんだよ、リズ。」
嬉しそうにか、そんな感じには見えなかっただけに私は驚く。
「こんな話、他の人には出来ないから楽しいね。」
私にまだ驚きの余韻が残っている内に、ドクは満面の笑みを向けてくれる。
「どうして、私なら良いの?」
「姉妹だからだよ。少なくとも私がそう思ってるからね。」
ドクが当たり前のように口に出したその言葉は、私の世界を色付けた。




