やっぱり、ね? 輪
「ドクの言ったとおり、私は大切な人を失った。そしてそれは私が殺した。」
静寂を、私はその言葉で断ち切った。何故この話を選んだのか自分でもわからない。きっと、誰かに言えば楽になると思ったのだろう。
「嘘ばっかりの人生。楽しくないね。」
「何?」
ドクが、嫌味たらしくそう言った。少し頭に血が上り、私はそちらを睨む。
「嘘だと思ってもいないのか。重症だな。」
「馬鹿にしてるの?」
私は感情のままに立ち上がろうとするも、腕が椅子に結び付けられていて出来なかった。
「どうどう、」
ドクは両手を前に出し、落ち着くよう促した。それでまた私のボルテージが上がる。
「まあ、大体その当時の様子はわかったよ。」
「は? 貴方なんかに何が分かるの。」
何も知らないくせに。
『リズ、少し頭を冷やしたほうが良いよ。』
「そうだな。少しの間一人にしてくれ。」
私が言い終わる前にドクは部屋から出ていった。私は深呼吸をする。
冷静に、冷静に。
『大丈夫そう?』
「ああ、すまないな。」
「落ち着いたようだね。」
見計らったように中に入ってくるドク。普通に考えれば少し早すぎると思う。
「私がいなければあの子は死ななかった。」
「でも君がリズを殺したわけじゃない。運命論は好きじゃないが、そう考えた方が楽な事もある。」
私と関わらなくてもリズは死んだと言いたいのか。まあ確かにリズが生きている未来があったかどうかなど、誰も知ることは出来ない。
そんなの誰かが逃げ道をつくるために考えた、汚い願望だ。
いや、待てよ。
「私の名前はリズと言った筈だ。どうして私ではなく私が言った"あの子"をリズだと思ったんだ?」
何故その事を知っているんだ?
ドクは口を開いた状態で固まった。
やはり、おかしい。
ドクは私の何を知っているんだ。
「あー、失言。取り消せない、よね?」
焦る様子は無く、依然としてへらへらしている。
私が睨みを利かせていると、それは突然メスのような物を取り出した。
私は静かに溜息をつく。
「あれ? 驚くかと思ったけど。」
「お前なんていらないんだけどな。」
目を丸くしているドクを尻目に私は独り言を呟いた。
「もしかして分かってた? だとしたら必死に隠してたのが馬鹿みたいに見えるじゃん。恥ず〜。」
「まあ、大体察しはついてたよ。」
予兆は一向に来ない。面倒くさいから時間をかけるのは辞めてくれと思う。
「だよね、口調まで変えてたのに。言ってよ、人が悪いな〜君も。」
ん? 様子がおかしいな。
「はあ、やっぱり嘘は苦手。じゃあ改めて自己紹介しようか。」
「あ、待っ」
その言い回しにデジャヴを感じた。ドクがメスを自分に向けるのを見て、やっと全てを理解して私はそれを止めようとした。
しかし、間に合わなかった。
ドクの首をメスが通る。ゆっくりと私に見せつけるように。
「分かったかな?」
深くまで刃は届いたはずなのに、血は一筋流れただけで終わった。瞬きもしていないというのにいつの間にか傷も無い。
「嘘でしょ?」
「あれ、気付いて無かったの!?」
ドクは今日一驚いた様子でそういった。




